黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・跳境抄 2

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    麒麟を巡る話、第83話。
    癇に障るキーパーソン。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「貴様……!」
     サンデルが憤った声を漏らしたが、秋也はそれ以上に怒っていた。
    「いい加減にしやがれよ、アルト……! なんでお前にソコまで言われなきゃならない? そんなに嫌なのかよ、フィッボさんが」
    「『そうだ』ってそれこそ、何度も言ったはずだがねぇ? 何回言えば分かるんだ、バカかお前?」
    「バカはお前だ!」
     気が付いた時には、秋也の拳がアルトに向かって伸びていた。
     だがアルトはそれを見越していたらしく、がっちりと秋也の拳を受け止める。
    「っつ……、痛えなぁ」
    「もうお前、一人で帰れよ! そんなにこの仕事が嫌ならな!」
    「仕事は仕事だ。ちゃんとやるさ。依頼人から断られない限りはな。
     ですよね、フィッボ殿?」
    「……ああ。その通りだ」
     これだけ非難され、罵倒されても、フィッボはアルトの首を切ろうとはしない。
     それが奇異なものに感じられ、秋也は叫ぶ。
    「どうして言われるままにするんですか、フィッボさん!?」
    「声が大きいぜ、シュウヤ。お前さんこそ、仕事してる自覚あんのか?」
    「お前よりはマシだろ!? 仕事だって言うなら、なんで依頼人をバカにするようなコトばっかり言うんだ!?」
    「依頼内容に『自分をバカにしてはいけない』とは明言されてないからな」
    「だったら『バカにしろ』とも言ってないだろ!?」
    「もういい、いいんだ、シュウヤ君」
     と、フィッボが顔を蒼くしつつ、秋也を制した。
    「フィッボさん……」
    「君の気持ちはありがたい。だが、この仕事には彼の力が必要だ。ここで離れられては、この先の道のりは非常に困難なものになる」
    「……」
    「だ、そうだ。その上で何か反論があるってんなら聞かせてもらおうか、シュウヤ」
    「……ねえよ」
     秋也はギリギリと歯噛みしたが、それ以上何も言わなかった。

     アルトの剣呑な振る舞いには辟易していた一同だったが、それでも彼の洞察力と判断力に助けられることは多かった。
     国境を越えようとするこの時にも、その力は遺憾なく発揮された。
    「どうすれば皆に知られず、越えることができるだろうか?」
     つい先程まで、散々ひどく罵倒されたことも気にしていないような素振りで、フィッボはアルトに尋ねる。
    「そうですな、一つの要因として『兵士らが我々に注視するか否か』が鍵になりますでしょう。もし注意を向けられないほど事態が混乱していれば、事は簡単に済みます。そのまま通ったとして、何の問題も起きない。
     ですが生憎、そこまで混乱してはいないようですな。この真っ昼間っから疲れ切った顔こそしているものの、ちゃんと立番している者が2名。詰所にも多数の兵士が見えます。
     となればあえて混乱させ、その隙に乗じて越えるしかありませんな」
     アルトは馬車の床に一枚の紙を広げ、ちょいちょいと線や丸を描く。
    「これが簡単な、国境周辺の略図です。この線が国境、真ん中の大小の四角がそれぞれ、関所と詰所です。で、我々はここ、この丸印のところにいます。
     何かあれば、兵士たちは詰所から出張り、そちらに向かう。そう指示されているでしょうから。特に壁の向こう側、敵国側で何らかの動きがあれば、過敏に反応せざるを得ない。
     と、こう来れば結論は自明であります。即ち」
     アルトは地図の、丸印が描かれている側と、国境を挟んで反対の位置に×印を描いた。
    「この辺りで何らかの異常が発生すれば、兵士は総出でここへ向かうわけです。
     そこで我々が行う行動は、まずこの中の一人が、兵士たちに気付かれぬよう壁を越え、向こうで騒ぎを起こす。
     そうすれば当然、兵士たちはそちらに向かう。その間に馬車が関所を強行突破して抜け、騒ぎを起こした役を回収し、そのまま逃走。これで解決です」
    「聞くけどさ、アルト」
     と、ここで秋也が質問する。
    「その、壁の向こうに行って騒ぐのは、誰がやるんだ?」
    「消去法で考えてみろよ、シュウヤ。
     まず、ノヴァ嬢にこんな危ないことはさせられない。大柄で騒々しいサンデル氏では、こそっとやるのはまず無理。そして軍人とは言え、ロガン卿はあまり荒事に慣れていない。
     勿論フィッボの御大にそんなことをさせては本末転倒。万が一身柄を回収できなければ、すべてが水の泡だ。
     となれば、やるのは俺かシュウヤ、お前さんかになるわけだ」
    「……じゃあ、オレがやるよ。身軽だし、馬車を動かすのはアンタの方がうまいからな」
    「決まりだな。じゃあもうちょっと細かく、作戦を立てていくとするか」
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    NoTitle 

    きっちりと言えばきっちり。
    ただし……。

    NoTitle 

    仕事きっちりv-402
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