黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・跳境抄 4

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    麒麟を巡る話、第85話。
    冷徹な判断。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    「よっしゃ……!」
     秋也は危険が去りつつあると安堵し、ほっと溜息を漏らした。
    「おーい、こっちだ! 早く来てくれ!」
     秋也は関所を強行突破し、猛烈な勢いで駆けてくる馬車に、空いていた左手を振った。

     だが――次の瞬間、秋也は馬車が、予想もしていない動きをするのを目にした。
    「……え……?」
     馬車はこちらに向かうことなく、街道を勢いよく突っ走っていく。
    「え、ちょ、おい?」
     秋也は呆気にとられ、抱えていた兵士を放り出し、そちらに走る。
     だが馬車の速度に、人間が追いつけるはずも無い。
    「な、なんだよ、それ? ま、待てよ。待てって」
     秋也と馬車との距離は、みるみるうちに、絶望的なほどに開いていく。
    「待てって、おい、アルト? おい、待てって、おい……」
     秋也のつぶやきが聞こえるはずも無い。
     馬車はさらに速度を上げ、大森林地帯、ローバーウォードへと入っていった。
    「お、おい……」
     秋也の額、背中、そして尻尾に、冷たい汗が滴る。
    「そ、……え、……な、……なんで? なんでだ?」
     秋也の頭に混乱が満ちる。
    「……どうなってんだ。
     どうなってんだよ? おい?
     どうなってんだよおおおおォーッ!?」
     秋也はその混乱と怒りとを、口から吐き出した。

     そしてその、一瞬後。
     秋也は自分の腹部に、熱く、暴力的な勢いを感じた。
    「ごほ……っ、……えっ?」
     振り向こうと、秋也は反転しかける。
     だが、体が思うように動かず、秋也はばたりと倒れる。
    (う、撃た、れ……、た?)
     秋也の意識が、急速に遠のく。
     完全に切れてしまう直前、猛々しい破裂音が自分を挟むように、前後の両方向から聞こえた気がした。



    「何故だ!? 何故シュウヤ君を見捨てる、アルト君!?」
    「戻るんだ! 早く戻って助けなければ……!」
     騒ぎ立てるロガン卿やフィッボに背を向けたまま、アルトは淡々とこう返した。
    「見たでしょう? シュウヤの周りに、あっちからもこっちからも兵士がわんさか寄ってきてるのが。
     あんな状況で助けに行けば、我々も蜂の巣でさ。1人を助けるために全員死ぬか。それとも1人を見捨てて5人が助かるか。
     簡単な算数です。論じる必要がおありで?」
    「うっ……」
    「……」
     冷徹なアルトの意見に、ロガン卿もフィッボも、何も言い返せない。
    「そんな、ひどい……」
     ただ一人、ノヴァだけが反論したが、それも弱々しく、アルトに簡単にあしらわれるようなものだった。
    「これは皇帝陛下の御身を第一に慮っての決断です。どうかそれをお忘れなきよう。……これも戦争ですからな。犠牲は付き物にございます」
    「き……、貴様があいつを行かせたのではないかっ! それを『犠牲』の一言で片付けるなど、なんと、……なんと鬼畜な!」
     うめくように、サンデルも反論する。しかしそれも、アルトは鼻であしらう。
    「言葉遊びをするつもりはありませんが、シュウヤは自分から『行く』と言ったのです。彼も覚悟の上でしょう。
     それとも大尉殿、あなたは剣林弾雨のあの状況の中、無傷で助けに行けると言う自信がおありで? それは俺の力を以てしても、不可能だと言わざるを得ませんぜ」
    「……ぐ……」
     誰一人、アルトに何も反論できないまま、馬車はローバーウォードの中へと入っていった。
    「さあ、皆様方。気持ちを切り替えていただかねば。
     我々がここで白旗を上げたとて、この交戦区域の真っ只中では無意味同然。ここを越えなければ、亡命できたとは言えません。心して、臨んでくださらないと」
    「……ああ」
    「……分かった」
     心中に重苦しいものを抱えながらも、ロガン卿たちはそれきり、秋也について何も言わなかった。



    (……う……)
     風を感じ、秋也は目を覚ました。
     辺りは既に、夜になっている。
    「……っ、痛て」
     左脇腹に鋭い痛みを感じ、秋也はそこに手を当てる。
    「……? 傷、……はあるけど」
     銃創と思われる傷はあるが、既に塞がっている。
    「オレは……一体?」
     何が起こったのか分からず、秋也は辺りを見回す。
     と――。
    「まだ寝てなさいな、秋也。まだ、動く時じゃないわ」
    「え?」
     どこからか声が聞こえる。
     聞いた覚えのある、飄々とした、しかしどこか温かいものを帯びた女の声だ。
    「私はあなたを、ちゃんと見守ってあげてるから」
     とん、と頭を小突かれる。
     秋也の意識は、そこで再び途切れた。

    白猫夢・跳境抄 終
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    NoTitle 

    いえ、死んだと思われて両軍から放っとかれました。
    秋也を助けた人物については、ずっと後で明らかにする予定です。

    NoTitle 

    捕まったのかv-399
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