「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・銃聖抄 2
麒麟を巡る話、第87話。
銃聖、現る。
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2.
その時だった。
「アルピナ、ちょっと入るわよ」
尋問のため締め切っていたテントの外から、女性の声が入ってくる。
「えっ? 司令? ですか? どうして、……あ、いえ、少々お待ちください」
アルピナと呼ばれた将校は慌てて立ち上がり、テントの封を解く。
開かれたテントの出入り口から、青い髪のエルフが入ってきた。
「ゴメンね。ちょっと確認したいコトがあったから。
ちょっと席、外してもらっていい?」
「えっ?」
アルピナは一瞬秋也に向き直り、それからもう一度、司令に顔を向ける。
「今、彼を尋問して……」
「うん、ソレなんだけど。彼について、確認したいコトがあるのよ」
「は、はあ……?」
困った顔になりながらも、アルピナは敬礼し、テントの外へと出る。
「では確認が終わりますまで、わたしはここで待機しています」
「ゴメンねー」
司令は後ろ手にテントを閉め、今までアルピナが使っていた椅子に座る。
「さっきの子から、簡単に報告を受けてたのよ。異国風の猫獣人で、コウって名乗る不審者がいるって。
で、さ。ちょっと聞きたいんだけど」
そう言うなり、司令は手帳を取り出し、そこに「黄」と書きつけた。
「コウって、この字?」
「え? ええ、そうです」
まさか故郷から遠く離れたこの地で央南語を見るとは思わず、秋也は面食らう。
その間に司令は、机に置いたままの書類を確認する。
「コレが調書ね。……あ、やっぱり! コウカイの出身ね」
「はい。ご存じなんですか?」
「ええ、昔住んでたコトがあるの。……で、もう一つ聞きたいんだけど」
そこで秋也は、彼女が何を聞こうとしているのかを察した。
「もしかしてセイナ・コウのコトですか?」
「……! うん、そう、ソレも! もしかしてアンタ」
「はい。セイナ・コウはオレの母です」
それを聞いた司令は、嬉しそうな顔をした。
「ホント!? うわぁ、そうなんだ!」
司令は秋也の手を取り、にっこりと笑う。
「そっかー、もう20年くらい経ってるのよね、アタシが央南を出てから」
「はあ、……えっと」
「ああ、自己紹介が遅れたわね。
アタシはリスト・チェスター。現在はプラティノアール王国軍中将で、西部方面司令の任に就いてるわ」
「そ、そうですか」
と、リスト司令はコホンと咳をし、真面目な顔に戻る。
「そうね、アンタがホントにセイナの息子さんなのか、確認させてもらうわね。確認できたら、釈放を約束するわ」
「ど、ども」
「まず、……そうね、セイナの持ってる刀。名前は?」
「『晴空刀 蒼天』です。でも今はあんまり使ってません。道場の床の間に飾ってます」
「あ、そうなんだ。じゃあ次、セイナの妹、つまりアンタの叔母さんの名前は?」
「明奈です。今は旦那さんと一緒に、黄商会の代表と棋士とをやってます」
「へぇ、結婚したのね。……ってまあ、セイナがするくらいだから、するわよね。
じゃあ3つ目。その、メイナのコトなんだけど」
と、リスト司令は一瞬、不安げな表情を見せる。
「彼女、……こんなの、持ってなかった?」
と言って彼女が取り出したのは、表面に「月」と彫られ、そこに金が流し込まれた、黒い碁石だった。
「ああ、何か見覚えあります。白いのでしたけど。確か対(つい)で作って、大切な友達に贈ったって、……あ」
秋也は思わず立ち上がり、その碁石を指差した。
「じゃあソレが、叔母さんのと対になってるヤツなんですね?」
「そうね、きっとソレ。……そっか、まだ大事に持っててくれてるのね」
リスト司令は秋也から顔をそむけ、ぐす、と鼻を鳴らす。
「ちょっとだけゴメンね。この歳になってくると、こーゆーのに結構弱くって」
「あ、はあ」
そう言われたものの、青年期の長い長耳のため、秋也の目にはリスト司令は、まだ20代後半くらいにしか見えない。
(つっても母さんと交流があったんなら、ソレなりの歳だよな)
少し間を置き、リスト司令が秋也の方に向き直る。彼女はわずかに赤くなった目を細め、にっこりと微笑んで見せた。
「間違いないわね。セイナの息子なのね、ホントに。
うん、それじゃ釈放するわ。……と言いたいところだけど」
リスト司令は外に待機しているアルピナに声をかけた。
「アルピナ、入ってきて。相談したいコトがあるから」
「了解しました」
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銃聖、現る。
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その時だった。
「アルピナ、ちょっと入るわよ」
尋問のため締め切っていたテントの外から、女性の声が入ってくる。
「えっ? 司令? ですか? どうして、……あ、いえ、少々お待ちください」
アルピナと呼ばれた将校は慌てて立ち上がり、テントの封を解く。
開かれたテントの出入り口から、青い髪のエルフが入ってきた。
「ゴメンね。ちょっと確認したいコトがあったから。
ちょっと席、外してもらっていい?」
「えっ?」
アルピナは一瞬秋也に向き直り、それからもう一度、司令に顔を向ける。
「今、彼を尋問して……」
「うん、ソレなんだけど。彼について、確認したいコトがあるのよ」
「は、はあ……?」
困った顔になりながらも、アルピナは敬礼し、テントの外へと出る。
「では確認が終わりますまで、わたしはここで待機しています」
「ゴメンねー」
司令は後ろ手にテントを閉め、今までアルピナが使っていた椅子に座る。
「さっきの子から、簡単に報告を受けてたのよ。異国風の猫獣人で、コウって名乗る不審者がいるって。
で、さ。ちょっと聞きたいんだけど」
そう言うなり、司令は手帳を取り出し、そこに「黄」と書きつけた。
「コウって、この字?」
「え? ええ、そうです」
まさか故郷から遠く離れたこの地で央南語を見るとは思わず、秋也は面食らう。
その間に司令は、机に置いたままの書類を確認する。
「コレが調書ね。……あ、やっぱり! コウカイの出身ね」
「はい。ご存じなんですか?」
「ええ、昔住んでたコトがあるの。……で、もう一つ聞きたいんだけど」
そこで秋也は、彼女が何を聞こうとしているのかを察した。
「もしかしてセイナ・コウのコトですか?」
「……! うん、そう、ソレも! もしかしてアンタ」
「はい。セイナ・コウはオレの母です」
それを聞いた司令は、嬉しそうな顔をした。
「ホント!? うわぁ、そうなんだ!」
司令は秋也の手を取り、にっこりと笑う。
「そっかー、もう20年くらい経ってるのよね、アタシが央南を出てから」
「はあ、……えっと」
「ああ、自己紹介が遅れたわね。
アタシはリスト・チェスター。現在はプラティノアール王国軍中将で、西部方面司令の任に就いてるわ」
「そ、そうですか」
と、リスト司令はコホンと咳をし、真面目な顔に戻る。
「そうね、アンタがホントにセイナの息子さんなのか、確認させてもらうわね。確認できたら、釈放を約束するわ」
「ど、ども」
「まず、……そうね、セイナの持ってる刀。名前は?」
「『晴空刀 蒼天』です。でも今はあんまり使ってません。道場の床の間に飾ってます」
「あ、そうなんだ。じゃあ次、セイナの妹、つまりアンタの叔母さんの名前は?」
「明奈です。今は旦那さんと一緒に、黄商会の代表と棋士とをやってます」
「へぇ、結婚したのね。……ってまあ、セイナがするくらいだから、するわよね。
じゃあ3つ目。その、メイナのコトなんだけど」
と、リスト司令は一瞬、不安げな表情を見せる。
「彼女、……こんなの、持ってなかった?」
と言って彼女が取り出したのは、表面に「月」と彫られ、そこに金が流し込まれた、黒い碁石だった。
「ああ、何か見覚えあります。白いのでしたけど。確か対(つい)で作って、大切な友達に贈ったって、……あ」
秋也は思わず立ち上がり、その碁石を指差した。
「じゃあソレが、叔母さんのと対になってるヤツなんですね?」
「そうね、きっとソレ。……そっか、まだ大事に持っててくれてるのね」
リスト司令は秋也から顔をそむけ、ぐす、と鼻を鳴らす。
「ちょっとだけゴメンね。この歳になってくると、こーゆーのに結構弱くって」
「あ、はあ」
そう言われたものの、青年期の長い長耳のため、秋也の目にはリスト司令は、まだ20代後半くらいにしか見えない。
(つっても母さんと交流があったんなら、ソレなりの歳だよな)
少し間を置き、リスト司令が秋也の方に向き直る。彼女はわずかに赤くなった目を細め、にっこりと微笑んで見せた。
「間違いないわね。セイナの息子なのね、ホントに。
うん、それじゃ釈放するわ。……と言いたいところだけど」
リスト司令は外に待機しているアルピナに声をかけた。
「アルピナ、入ってきて。相談したいコトがあるから」
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