「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・銃聖抄 6
麒麟を巡る話、第91話。
訓練生の猫獣人は……。
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6.
リスト司令の訓練生らと仲良くなったついでに、秋也は彼らの訓練にも――射撃練習こそしないつもりではあるが――参加することになった。
「ずっと部屋の中じゃ、体が鈍るからな」
「そだねー」
訓練生は4人で、一人を除いて全員が兎獣人である。
ちなみに兎獣人と言う種族は、ほとんど西方大陸にしかいない。彼らは一つの場所に留まること、家族や親類と共に暮らすことを強く好み、余程の変わり者か何らかの事情が無い限り旅や放浪、転居を好まないためである。
また、体格的に男女とも小柄な者が多く、ここにいる者も秋也と歳が近い割に、秋也よりも頭一つ、二つ分小さい。
その二つの理由から秋也は目立っていたし――そして訓練生の残り一人、猫獣人の女の子とは、自然と目線が合うことが多かった。
「いーち、にーい、さーん、し」
運動着に着替え、準備運動を始めたのだが、そこでも彼女と身長が釣り合うのが秋也だけだったので、自然に二人一組になる。
「もうちょい、もうちょい押して、ぐーって」
「こうか?」
「そ、そ」
その、淡い緑髪に黒い毛並みの彼女は、秋也に背中を押してもらいながら前屈しつつ、こうつぶやいた。
「同じくらいの歳であたしより背が高い子に会うの、シュウヤくんが初めてかも」
「そうなのか?」
「学校でも、ほとんど『兎』ばっかりだったし。そりゃ裸耳(短耳と長耳の総称)とか猫耳の子も少しはいたけど、こっちに入るまでは身長、全然変わんなかったしね。子供だったし」
「そっか、そうなるよな」
今度は秋也が、彼女に背中を押してもらいながら前屈する。
「ねえ、シュウヤくんって身長いくつくらい?」
「171センチだよ。オレの故郷じゃ高めだったけど、央中とかじゃチビだよ」
「じゃあこっちでもおっきいね。こっちの人は、150センチがふつーくらいだもん」
「そうなのか。そう言や確かに、オレの知り合いもちっこかったな。アルピナさんも」
「アルピナさんは平均よりは背、高いよ。ちょこっとだけど。152か3くらいだったかな」
続いて腕を互いに伸ばしあう。
「名前、何て言ったっけ」
「ベル」
「あ、そうだそうだ。ベルちゃんって、結構筋肉あるんだな」
「だって小銃とか構えるんだし、そりゃ付くよー。女の子っぽくないでしょ、あはは……」
「んなコトないと思うけどなー。オレの母さんもかなり、筋肉付いてたし」
「そうなの?」
最後に小さく跳躍して準備運動を終え、全員で庭を軽く走る。
「シュウヤくんのお母さんも、剣士さんだっけ」
「ああ。10代半ばくらいからずーっと、剣士やってる」
「今でも?」
「今でも。すげー強くて、まだオレ、勝ったコト無いんだよ」
「へぇー……。あ、あたしも――ちょっと違うけど――パパに勝ったことないんだよね。銃とかじゃなくて囲碁の話だけど」
「え、囲碁?」
央南のテーブルゲームの話になるとは思わず、秋也の足が鈍る。
「おい、そこ!」
「あ、すんませーん」
もう一度走り出し、ベルに追いついたところで、秋也は詳しく尋ねる。
「囲碁って、白と黒の石を置き合う、あの囲碁?」
「うん、それ。若い頃に覚えて、今でもずっと打ってるの。あ、って言うかね、あたしも勝てないけど、今まで誰もパパを負かした人、いないんだ」
「そんなに強いのか……。叔母さんだったらどうかなぁ」
「叔母さん?」
「央南で棋士やってる人だから、相手になるかも」
「へぇー。じゃあさ、機会があったら一度さ、話してみてよ。でもパパ忙しいから、そっちに行くって言うのはできないかもだけど」
「そっか。お父さん、何してる人なの?」
何の気なしにそう聞いた途端、並んで走っていた他の訓練生が一斉に噴き出した。
「ぷ、あはは……」
「そっか、シュウヤは外国のヤツだもんな」
「知らないよな、そりゃ」
「え? え?」
丁度走り終わったところで、ベルが答えようとしてくれた。
「あのね、あたしの名前なんだけど……」「あ」
と、訓練生が一斉に立ち止まり、ビシ、と敬礼する。
「え?」
「シュウヤ、礼だ、礼!」
そう急かされ、秋也も慌てて、今しがた私邸の庭に入ってきた、黒いフロックコートを羽織った金髪の、黒眼鏡をかけた長耳に向かって敬礼する。
するとその長耳はクスっと笑い、敬礼を返してくれた。
「楽にしたまえ。僕は軍人じゃないから、略式で結構だよ」
「はい、ありがとうございます」
訓練生たちは敬礼を解き、ぺこりと頭を下げた。
長耳はもう一度挨拶を返し、続いて秋也に声をかけた。
「で、シュウヤ君は君かい?」
「あ、はい」
「ちょっと話があるんだ。中で話そう」
そう言って踵を返しかけ、そして戻す。
「おっと、自己紹介が遅れて申し訳ない。
僕はプラティノアール王国総理大臣、ネロ・ハーミットだ」
白猫夢・銃聖抄 終
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リスト司令の訓練生らと仲良くなったついでに、秋也は彼らの訓練にも――射撃練習こそしないつもりではあるが――参加することになった。
「ずっと部屋の中じゃ、体が鈍るからな」
「そだねー」
訓練生は4人で、一人を除いて全員が兎獣人である。
ちなみに兎獣人と言う種族は、ほとんど西方大陸にしかいない。彼らは一つの場所に留まること、家族や親類と共に暮らすことを強く好み、余程の変わり者か何らかの事情が無い限り旅や放浪、転居を好まないためである。
また、体格的に男女とも小柄な者が多く、ここにいる者も秋也と歳が近い割に、秋也よりも頭一つ、二つ分小さい。
その二つの理由から秋也は目立っていたし――そして訓練生の残り一人、猫獣人の女の子とは、自然と目線が合うことが多かった。
「いーち、にーい、さーん、し」
運動着に着替え、準備運動を始めたのだが、そこでも彼女と身長が釣り合うのが秋也だけだったので、自然に二人一組になる。
「もうちょい、もうちょい押して、ぐーって」
「こうか?」
「そ、そ」
その、淡い緑髪に黒い毛並みの彼女は、秋也に背中を押してもらいながら前屈しつつ、こうつぶやいた。
「同じくらいの歳であたしより背が高い子に会うの、シュウヤくんが初めてかも」
「そうなのか?」
「学校でも、ほとんど『兎』ばっかりだったし。そりゃ裸耳(短耳と長耳の総称)とか猫耳の子も少しはいたけど、こっちに入るまでは身長、全然変わんなかったしね。子供だったし」
「そっか、そうなるよな」
今度は秋也が、彼女に背中を押してもらいながら前屈する。
「ねえ、シュウヤくんって身長いくつくらい?」
「171センチだよ。オレの故郷じゃ高めだったけど、央中とかじゃチビだよ」
「じゃあこっちでもおっきいね。こっちの人は、150センチがふつーくらいだもん」
「そうなのか。そう言や確かに、オレの知り合いもちっこかったな。アルピナさんも」
「アルピナさんは平均よりは背、高いよ。ちょこっとだけど。152か3くらいだったかな」
続いて腕を互いに伸ばしあう。
「名前、何て言ったっけ」
「ベル」
「あ、そうだそうだ。ベルちゃんって、結構筋肉あるんだな」
「だって小銃とか構えるんだし、そりゃ付くよー。女の子っぽくないでしょ、あはは……」
「んなコトないと思うけどなー。オレの母さんもかなり、筋肉付いてたし」
「そうなの?」
最後に小さく跳躍して準備運動を終え、全員で庭を軽く走る。
「シュウヤくんのお母さんも、剣士さんだっけ」
「ああ。10代半ばくらいからずーっと、剣士やってる」
「今でも?」
「今でも。すげー強くて、まだオレ、勝ったコト無いんだよ」
「へぇー……。あ、あたしも――ちょっと違うけど――パパに勝ったことないんだよね。銃とかじゃなくて囲碁の話だけど」
「え、囲碁?」
央南のテーブルゲームの話になるとは思わず、秋也の足が鈍る。
「おい、そこ!」
「あ、すんませーん」
もう一度走り出し、ベルに追いついたところで、秋也は詳しく尋ねる。
「囲碁って、白と黒の石を置き合う、あの囲碁?」
「うん、それ。若い頃に覚えて、今でもずっと打ってるの。あ、って言うかね、あたしも勝てないけど、今まで誰もパパを負かした人、いないんだ」
「そんなに強いのか……。叔母さんだったらどうかなぁ」
「叔母さん?」
「央南で棋士やってる人だから、相手になるかも」
「へぇー。じゃあさ、機会があったら一度さ、話してみてよ。でもパパ忙しいから、そっちに行くって言うのはできないかもだけど」
「そっか。お父さん、何してる人なの?」
何の気なしにそう聞いた途端、並んで走っていた他の訓練生が一斉に噴き出した。
「ぷ、あはは……」
「そっか、シュウヤは外国のヤツだもんな」
「知らないよな、そりゃ」
「え? え?」
丁度走り終わったところで、ベルが答えようとしてくれた。
「あのね、あたしの名前なんだけど……」「あ」
と、訓練生が一斉に立ち止まり、ビシ、と敬礼する。
「え?」
「シュウヤ、礼だ、礼!」
そう急かされ、秋也も慌てて、今しがた私邸の庭に入ってきた、黒いフロックコートを羽織った金髪の、黒眼鏡をかけた長耳に向かって敬礼する。
するとその長耳はクスっと笑い、敬礼を返してくれた。
「楽にしたまえ。僕は軍人じゃないから、略式で結構だよ」
「はい、ありがとうございます」
訓練生たちは敬礼を解き、ぺこりと頭を下げた。
長耳はもう一度挨拶を返し、続いて秋也に声をかけた。
「で、シュウヤ君は君かい?」
「あ、はい」
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