「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・黒宰抄 2
麒麟を巡る話、第93話。
サンデルの証言。
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2.
秋也とハーミット卿は軍の病院へ向かい、そこでサンデルと面会した。
「……お前、……シュウヤか!?」
「はい。無事で何よりです、サンデルさん」
「ぶ、無事なものか! こうして敵国の施しを受けるなど、どっ、どれほどの屈辱であるか!」
わめくサンデルに対し、卿はやんわりと言葉をかける。
「それは認識の違いと言うものです、マーニュ大尉。
我々は貴官を素晴らしい武士(もののふ)と見なしたからこそ、僭越ながら手厚い看護を施させていただいた次第です。
敵方ながら非常に尊敬すべき美徳を有していらっしゃると聞き及んでおります。尊敬の気持ちに、敵も味方もありますまい」
「む、む? 貴様は……?」
ほめちぎられ、サンデルは顔を赤くする。
「これは申し遅れました。私はネロ・ハーミット。不肖の身ながら、この国の総理大臣を務めさせていただいている者です」
「な、……何と!? 貴君があの、ハーミット卿でございましたか!? こ、これはとんだご無礼を、……う、痛たた」
頭を下げようとし、苦悶の表情を浮かべて腹を押さえるサンデルに、卿は手を振る。
「あ、いやいや、楽になさってください。
それよりも大尉、私がここへ来たのは、極めて政治的で、非常に大きな問題を検討するためです。察していただけますね?」
「……う、ぬ。……シュウヤ、お前が話したのか?」
「あ、……はい」
サンデルは表情を一転させ、秋也を叱咤しようとする。
「不敬とは思わんのか! 陛下の身を案じれば……」「案じればこそ、です」
そこで卿が口を挟む。
「既に越境し、モダス陛下は故郷から追われる身となっています。その上さらに、我々からも追われることとなれば、如何に陛下が超人的能力を持っていたとしても、生き延びるのは至難の業。
そこでシュウヤ君から、何とか陛下らを保護してはもらえまいかと嘆願されたのです」
卿にひょいひょいと方便を述べられ、サンデルはまたも態度を一転させた。
「さ、左様であったか! すまぬシュウヤ、お前は誠の忠義者だ!」
「はは……」
卿の口車と、それに簡単に乗せられるサンデルに、秋也は苦笑いをするしかなかった。
二人は素直になったサンデルから、秋也を残した後に起こったことを聞き出した。
「我々はあの後、すぐにローバーウォードに突入した。多少の襲撃は覚悟していたし、実際に受けた。
そのためか、馬車はひどく損傷してな。もうすぐ抜けられるかと言う辺りで、走行不能になってしまった。トッドの奴は当初、わざと道のない北東へ進んで敵の襲撃を迂回するつもりだと言っていたが、馬車が壊れてしまってはそうは行かん。
やむなく無事だった馬に乗って森を抜けることにしたのだが、5人で2頭の馬に乗ることはできん。誰か一人がその場に残らなくてはならなくなり、吾輩が名乗り出たのだ。いや、名乗り出たと言うよりは、結果的に吾輩が選ばれたようなものだが」
「ふむ」
話を聞き終え、卿は首を傾げる。
「変ですね」
「なに?」
「確かに通常時より、ローバーウォード周辺には兵士を巡回させるよう、司令に命じていました。
しかし3週間前、……いや、もう一ヶ月前にもなりますか、あの森を強行突破した一軍がおり、そのために警備網が破壊されてしまったため、殉職者の回収と体勢の立て直しおよびその強化を図る目的で、我が軍は森の中から撤収していたはずなのですが」
「何ですと? しかし実際に襲撃を……」
「それは本当に、我々の兵隊でしたか?」
「何を仰るか!」
サンデルはフンと鼻を鳴らし、卿の疑問を否定する。
「装備には貴国の紋章が付いておりましたし、鎧兜などもそれでした! 見間違えようはありませんぞ!?」
「逆に言えば、あなた方は紋章と装備が無ければ、我が国の人間かそうでないか、見分けが付かないと言うことになりますね」
「う、ぬう」
「重ねて申し上げますが、あなた方が森へ侵入した際、我が国側の兵士全員が森の中から引き上げていたのです。それは間違いなく徹底されていたはずですし、その命令を無視して無闇に危険へ身を投じるような粗忽者は、まずありません。
よって断言しますが――それは我々の兵隊ではありません。別の者です」
「ば、馬鹿な……!? それではあれは、単なる野盗だったと? 非常に苦戦していたのですが」
「その点については、一つの仮説があります。
警備網が破壊されるよりもう少し前、こんなことがありました――我々は街道を飛ばす、恐らくはマチェレ王国籍であろう馬車を捕捉しようとしたことがあります。
しかし途中で馬車を見失い、やむなく捜索を打ち切りました」
「うん? それは恐らく、……いや」
口をつぐみかけたサンデルを、卿がたしなめる。
「私にはある程度のことは、予測が付いております。それは恐らく、あなた方が依頼されたものだろうと見ているのですが、お間違いないですか?」
「……仰る通りです。吾輩の上官である、ある人物」「ロガン卿ですね」「う、……ええ、ロガン卿がマチェレ王国にて、依頼したものです」
「手配された人物はすべて、『酒跳亭』の人間ですね?」
「え? ええ、確かそんな名前だったと」
「やはり、そうでしたか」
これを受けて、卿はため息をついた。
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サンデルの証言。
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秋也とハーミット卿は軍の病院へ向かい、そこでサンデルと面会した。
「……お前、……シュウヤか!?」
「はい。無事で何よりです、サンデルさん」
「ぶ、無事なものか! こうして敵国の施しを受けるなど、どっ、どれほどの屈辱であるか!」
わめくサンデルに対し、卿はやんわりと言葉をかける。
「それは認識の違いと言うものです、マーニュ大尉。
我々は貴官を素晴らしい武士(もののふ)と見なしたからこそ、僭越ながら手厚い看護を施させていただいた次第です。
敵方ながら非常に尊敬すべき美徳を有していらっしゃると聞き及んでおります。尊敬の気持ちに、敵も味方もありますまい」
「む、む? 貴様は……?」
ほめちぎられ、サンデルは顔を赤くする。
「これは申し遅れました。私はネロ・ハーミット。不肖の身ながら、この国の総理大臣を務めさせていただいている者です」
「な、……何と!? 貴君があの、ハーミット卿でございましたか!? こ、これはとんだご無礼を、……う、痛たた」
頭を下げようとし、苦悶の表情を浮かべて腹を押さえるサンデルに、卿は手を振る。
「あ、いやいや、楽になさってください。
それよりも大尉、私がここへ来たのは、極めて政治的で、非常に大きな問題を検討するためです。察していただけますね?」
「……う、ぬ。……シュウヤ、お前が話したのか?」
「あ、……はい」
サンデルは表情を一転させ、秋也を叱咤しようとする。
「不敬とは思わんのか! 陛下の身を案じれば……」「案じればこそ、です」
そこで卿が口を挟む。
「既に越境し、モダス陛下は故郷から追われる身となっています。その上さらに、我々からも追われることとなれば、如何に陛下が超人的能力を持っていたとしても、生き延びるのは至難の業。
そこでシュウヤ君から、何とか陛下らを保護してはもらえまいかと嘆願されたのです」
卿にひょいひょいと方便を述べられ、サンデルはまたも態度を一転させた。
「さ、左様であったか! すまぬシュウヤ、お前は誠の忠義者だ!」
「はは……」
卿の口車と、それに簡単に乗せられるサンデルに、秋也は苦笑いをするしかなかった。
二人は素直になったサンデルから、秋也を残した後に起こったことを聞き出した。
「我々はあの後、すぐにローバーウォードに突入した。多少の襲撃は覚悟していたし、実際に受けた。
そのためか、馬車はひどく損傷してな。もうすぐ抜けられるかと言う辺りで、走行不能になってしまった。トッドの奴は当初、わざと道のない北東へ進んで敵の襲撃を迂回するつもりだと言っていたが、馬車が壊れてしまってはそうは行かん。
やむなく無事だった馬に乗って森を抜けることにしたのだが、5人で2頭の馬に乗ることはできん。誰か一人がその場に残らなくてはならなくなり、吾輩が名乗り出たのだ。いや、名乗り出たと言うよりは、結果的に吾輩が選ばれたようなものだが」
「ふむ」
話を聞き終え、卿は首を傾げる。
「変ですね」
「なに?」
「確かに通常時より、ローバーウォード周辺には兵士を巡回させるよう、司令に命じていました。
しかし3週間前、……いや、もう一ヶ月前にもなりますか、あの森を強行突破した一軍がおり、そのために警備網が破壊されてしまったため、殉職者の回収と体勢の立て直しおよびその強化を図る目的で、我が軍は森の中から撤収していたはずなのですが」
「何ですと? しかし実際に襲撃を……」
「それは本当に、我々の兵隊でしたか?」
「何を仰るか!」
サンデルはフンと鼻を鳴らし、卿の疑問を否定する。
「装備には貴国の紋章が付いておりましたし、鎧兜などもそれでした! 見間違えようはありませんぞ!?」
「逆に言えば、あなた方は紋章と装備が無ければ、我が国の人間かそうでないか、見分けが付かないと言うことになりますね」
「う、ぬう」
「重ねて申し上げますが、あなた方が森へ侵入した際、我が国側の兵士全員が森の中から引き上げていたのです。それは間違いなく徹底されていたはずですし、その命令を無視して無闇に危険へ身を投じるような粗忽者は、まずありません。
よって断言しますが――それは我々の兵隊ではありません。別の者です」
「ば、馬鹿な……!? それではあれは、単なる野盗だったと? 非常に苦戦していたのですが」
「その点については、一つの仮説があります。
警備網が破壊されるよりもう少し前、こんなことがありました――我々は街道を飛ばす、恐らくはマチェレ王国籍であろう馬車を捕捉しようとしたことがあります。
しかし途中で馬車を見失い、やむなく捜索を打ち切りました」
「うん? それは恐らく、……いや」
口をつぐみかけたサンデルを、卿がたしなめる。
「私にはある程度のことは、予測が付いております。それは恐らく、あなた方が依頼されたものだろうと見ているのですが、お間違いないですか?」
「……仰る通りです。吾輩の上官である、ある人物」「ロガン卿ですね」「う、……ええ、ロガン卿がマチェレ王国にて、依頼したものです」
「手配された人物はすべて、『酒跳亭』の人間ですね?」
「え? ええ、確かそんな名前だったと」
「やはり、そうでしたか」
これを受けて、卿はため息をついた。
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