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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・狂狐録 5

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    晴奈の話、第123話。
    気迫勝ち&技術勝ち。

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    5.
     晴奈は距離を取りつつ、静かに尋ねた。
    「……楓井、と言ったか。一つ聞きたいことがある」
    「何よ?」
    「512年の暮れ、英岡にいなかったか?」
     晴奈の問いに、楓井は意外そうな顔をする。
    「へぇ? あなたも、あの村にいたの? いつの話だかは忘れたけど、ええ、いたわよ。『仕事』をしにね」
    「貴様か? 貴様が、櫟を殺したのか?」
    「櫟様? 違うわよ。『アレ』は実験体一号、ただの大きな狐よ」
     楓井の返答を聞いた途端、晴奈の腕がブルブルと震えだした。
    「アレ、だと?」
    「私はただ、殿から『狐狩りをしてください』と言われたのよ。だから狩った。それだけよ」
    「人間だったのだぞ、元は」
    「分かんない人ね。私が狩った時は狐だったって言ってるじゃない。理解できないの?」
    「できぬ! ……何と言う無責任かッ!」
     晴奈の腕は先程にも増して震えている。そして目も、燃えるように熱く、熱を帯びているのが分かる。
     晴奈の中には、御しがたい憤怒が湧き上がっていた。
    「人を殺した実感が無いのか、貴様は!」
    「はぁ? 何べん言えば分かるの……」「櫟はしゃべっていた! 魔術も使えたし、我々のこともはっきり認識していたのだ! これを人間と言わずして、何と言うのだ!?」
     晴奈は怒りに任せ、楓井に飛び掛った。
    「……!?」
     次の瞬間、楓井の顔面が斜めにぱっくりと裂ける。
    「ひ、ぎぃ……っ」
    「主君や頭が外道ならば、手下まで愚鈍と化すか! 貴様に刀を握る資格など無い!」
     楓井は血の吹き出す顔面を押さえながら、晴奈と目線を合わせた。
     そしてその瞬間――楓井の目から光が消え、絶望の色に染まった。

     燃え上がる木箱の一つが、バゴ、と言う音と共に壁際まで転がっていった。
    「畜生、死ぬかと思った……」
     炎の中からウィルバーが、のそのそと出てきた。燃える木箱を蹴り飛ばしたせいで、右足の靴からはブスブスと煙が上がっている。
    「……アイツ、気付いてねえな」
     上を見上げると、柳が晴奈と楓井のいる方に向かって何か叫んでいる。仕留めたかと思っているのか、ウィルバーの方には目もくれないでいる。
    「木箱は……、無理だな、燃えちまった。上がるのは無理か」
     きょろきょろと辺りを見回し、登れるものを探すが、使えそうなものは見あたらない。
     と、突然燃える木箱がバキバキと音を立てて、真っ二つに割れる。その延長線上に、ビシビシと亀裂が走った。
    「お、おぉ……? 何だ、今の?」
     亀裂はウィルバーのすぐ前を走り、壁際で止まった。
     亀裂の来た方向を目でたどると、楓井が晴奈に向かって何かわめきながら、顔に手を当てているのが見えた。腰も引けており、明らかに晴奈の方が優勢なようだ。
    「あっちは心配いらねえな。……ん?」
     ウィルバーは燃える木箱のあちこちに、黒っぽい棒状のものが落ちているのを見つけた。拾ってみると、短剣のような形をしている。
    「これは……、クナイ、だっけか」

    「ハァ、ハァ……」
     楓井の出血はすぐに止まった。だが代わりに、ヒリヒリと刺すような痛みが続いている。「燃える刀」による、火傷と刀傷の複合である。
     また、顔以外にも何太刀かあちこちに受けており、今にも気を失いそうなほどの痛みが、全身をのたうち回っている。
    (こんな苦戦、予想しなかった……! 何なのよ、この女!? いきなり強くなった……!)
    「楓井」
     晴奈の静かな、しかし怒りに満ちた声が聞こえてくる。
    「そろそろ、覚悟しろ」
    「……え?」
    「お前は何人も殺したことだろう。だが、その逆を考えたことはあるか?」
     晴奈の構えが、正眼から上段に変わる。先程から帯びていた殺気が、より一層膨れ上がる。
    「さあ……、行くぞ」
    「ひ、い……」
     晴奈がぐい、と前に出る。楓井は両手で刀をつかみ構えたが、ぽろっと取り落としてしまう。慌ててしゃがみ、拾い上げたその時には――。
    「あっ……」
     晴奈がすぐ近くまで迫り、刀を振り下ろしてきた。

     楓井の悲壮な声を聞き、天井高くにいた柳が慌てて振り返る。
    「お、おい!? 楓井ちゃん!?」
     問いかけてみるが、返事は返ってこない。
    「まさか、やられちまったのか!?」
     急いで降りようとしたその瞬間――トス、トス、と言う音が自分の肩や脚、胸、腹から聞こえてきた。
    「……!? く、苦無、だと?」
     苦無が飛んできた方に目をやると、燃やしたと思っていたウィルバーが、平然と自分を見上げているのが見えた。
    「マジ、かよ……。油断した、っつーか……、お前、苦無……、使えたの、かよ……」
     術への集中が乱れ、強制的に解除される。柳は墜落し、燃える木箱の中に頭から突っ込んでいく。
     それを確認したウィルバーは、ぼそっとつぶやいた。
    「『武芸十般』――刀剣、槍矛、薙刀、弓、鎚、棍、斧、……それから投擲。なめんなオレを」

     倉庫内にあったものは粗方燃えたらしく、火は大分収まってきた。
     と、炎を挟んで晴奈がウィルバーに声をかける。
    「終わったか、ウィルバー?」
    「おう。そっちは?」
    「気絶した」
     晴奈の言葉に、ウィルバーはきょとんとする。
    「何だよ、殺さなかったのか?」
    「私はここに無用な殺戮をしに来たわけではない。狙うのはあくまで、天原だ」
    「そっか。……ま、いいよな、ソレで」
     晴奈は炎を抜け、ウィルバーの方に歩み寄ってきた。
    「ウィルバー、一つ頼めるか?」
    「ん?」
    「こいつを折っておいてくれ」
    「刀? 何で?」
    「あそこで倒れている女に、これを使う資格は無い」
    「……ま、何だか分かんねーけど、いいぜ。貸せ」
     ウィルバーは晴奈から受け取った刀を両手で握りしめ、無理矢理にたわめてへし折った。

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    2016.04.01 修正
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