「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・曇春抄 8
麒麟を巡る話、第106話。
憤慨する秋也。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
《あ?》
「お前がやれって、そう言ったんだ! そんな下衆な命令、誰が聞いてやるかッ!」
秋也は白猫の手を振り払い、叫ぶ。
「何の恨みがあって、卿を殺せなんて言うんだ!?
あんないい人が、そしてあんないい政治家が、他にあるか!? あの人がこの国に来て、どれだけの人が幸せになったか知ってるのか!?
ベルちゃんから、……人から聞いた話だけどさ、卿が大臣になる前は、ココも西の2国と変わらない、戦争ばっかりの荒れた土地だったらしいんだ。
あの人はソレを根本から変えて、今もより良くしようと頑張ってる! そんなすごい人を、どうしてお前は殺せなんて!?」
《はっ》
憤る秋也に対し、白猫は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
《ソレがどうした? そんな目くらましで、アイツがいい人に見えるのか? とことんまでバカだな、キミは》
「なに……!?」
《アイツは結局、自分の立身出世のために動いてるだけさ。分かりやすい実績を挙げて、自分はすごい人間だと周りに認めさせたいだけ。
そうして万人から認められたら、アイツはきっと図に乗って、その国を乗っ取る。そしてより権力を強めようと、きっと戦争を起こすだろう。
結局、あのボンクラ皇帝やアルの鉄クズ野郎と一緒さ! ボクはその芽を摘もうとしてるんだ。そんなコトも分からないのか?》
「分かるワケあるかよ……! 分かりたくもねえッ!」
秋也はなおも憤り、叫ぶ。
「ソレも予知だって言うのか? 絶対に起こる未来だと、そう言うのか!?」
《いいや、コレはまだ予測の域さ。でもきっと起こるだろう。アイツはそう言うヤツなんだ。過去にも世界を一度、手にしかけた。だが幸い、タイカさんがその芽を摘んだ。
だから今回もボクが摘んでやるのさ。ヤツの薄汚い企みの芽を、ね》
「んなワケあるかよッ!」
白猫の言葉に、秋也はさらに怒りを燃え上がらせる。
「お前の言ってるコトは全部、自分の勝手な思い込みじゃねえかッ! そんなもん、『あの花は枯れて腐って毒を出すかも知れないから』ってつぼみを引きちぎるような話だろうが!?
お前こそバカなんじゃねーのか!? 自分勝手にぎゃーぎゃーわめきやがって!」
《わめいてるのはキミだよ、シュウヤ。キミは分かってない、分かってないんだ。アイツの危険性を。
まあいい。どの道、決断の時はすぐだ》
「……? どう言う……」
《キミが目を覚ましてすぐ、アルトたちが侵入する。その時がチャンスだ。
キミはその直後、アイツと鉢合わせする。騒ぎの最中で、周りには人がいない。アイツと二人っきりになるタイミングが、1分ほどある。そのタイミングなら、殺してもアルトのせいにできる。最大のチャンスなんだ。
その間に殺せ》
「……!」
談話室のソファでうたた寝していた秋也は、目を覚ました。
「……チッ……」
ぽた、と床に汗が落ちる。まだ寒さの残るこの時期に、びっしょりと寝汗をかいていた。
「……すぐ? 今すぐに?」
白猫に言われたことを反芻し、秋也は立ち上がる。
その瞬間――破裂音が轟き渡り、秋也の後方に並んでいた窓と言う窓が、一斉にビリビリと震えた。
「!?」
秋也は慌てて窓から庭を見下ろし、様子を確かめる。
「爆発……!?」
庭から黒い煙が上がり、その周辺には兵士が何名か倒れている。
「くそっ、マジかよ!?」
フィッボを護るため、秋也は窓から離れ、談話室を飛び出そうとする。
と――先程まで秋也がいたその窓を破り、黒いマスクを被った兎獣人が侵入してきた。
「……ッ!」
しかし床に着地する寸前、秋也は敵の左頬に拳をめり込ませる。
「ぐえ……っ」
兎獣人は床を転がり、ピクリとも動かなくなる。
「侵入……、上と正面からか!?」
刀を抜き、警戒するが、窓からは誰も入って来ない。
と――談話室の扉が開き、誰かが入ってくる。
「シュウヤ君!」
入ってきたのは、ハーミット卿だった。
「きょ、……う」
彼を目にした瞬間、秋也の脳裏に白猫の言葉がよみがえった。
――キミはハーミットと鉢合わせする。その時がチャンスだ。その間に殺せ――
「とうとう来たらしい! シュウヤ君、すぐ応援に……」
ハーミット卿の言葉が、とてつもなく遠くに感じられた。
白猫夢・曇春抄 終
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憤慨する秋也。
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《あ?》
「お前がやれって、そう言ったんだ! そんな下衆な命令、誰が聞いてやるかッ!」
秋也は白猫の手を振り払い、叫ぶ。
「何の恨みがあって、卿を殺せなんて言うんだ!?
あんないい人が、そしてあんないい政治家が、他にあるか!? あの人がこの国に来て、どれだけの人が幸せになったか知ってるのか!?
ベルちゃんから、……人から聞いた話だけどさ、卿が大臣になる前は、ココも西の2国と変わらない、戦争ばっかりの荒れた土地だったらしいんだ。
あの人はソレを根本から変えて、今もより良くしようと頑張ってる! そんなすごい人を、どうしてお前は殺せなんて!?」
《はっ》
憤る秋也に対し、白猫は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
《ソレがどうした? そんな目くらましで、アイツがいい人に見えるのか? とことんまでバカだな、キミは》
「なに……!?」
《アイツは結局、自分の立身出世のために動いてるだけさ。分かりやすい実績を挙げて、自分はすごい人間だと周りに認めさせたいだけ。
そうして万人から認められたら、アイツはきっと図に乗って、その国を乗っ取る。そしてより権力を強めようと、きっと戦争を起こすだろう。
結局、あのボンクラ皇帝やアルの鉄クズ野郎と一緒さ! ボクはその芽を摘もうとしてるんだ。そんなコトも分からないのか?》
「分かるワケあるかよ……! 分かりたくもねえッ!」
秋也はなおも憤り、叫ぶ。
「ソレも予知だって言うのか? 絶対に起こる未来だと、そう言うのか!?」
《いいや、コレはまだ予測の域さ。でもきっと起こるだろう。アイツはそう言うヤツなんだ。過去にも世界を一度、手にしかけた。だが幸い、タイカさんがその芽を摘んだ。
だから今回もボクが摘んでやるのさ。ヤツの薄汚い企みの芽を、ね》
「んなワケあるかよッ!」
白猫の言葉に、秋也はさらに怒りを燃え上がらせる。
「お前の言ってるコトは全部、自分の勝手な思い込みじゃねえかッ! そんなもん、『あの花は枯れて腐って毒を出すかも知れないから』ってつぼみを引きちぎるような話だろうが!?
お前こそバカなんじゃねーのか!? 自分勝手にぎゃーぎゃーわめきやがって!」
《わめいてるのはキミだよ、シュウヤ。キミは分かってない、分かってないんだ。アイツの危険性を。
まあいい。どの道、決断の時はすぐだ》
「……? どう言う……」
《キミが目を覚ましてすぐ、アルトたちが侵入する。その時がチャンスだ。
キミはその直後、アイツと鉢合わせする。騒ぎの最中で、周りには人がいない。アイツと二人っきりになるタイミングが、1分ほどある。そのタイミングなら、殺してもアルトのせいにできる。最大のチャンスなんだ。
その間に殺せ》
「……!」
談話室のソファでうたた寝していた秋也は、目を覚ました。
「……チッ……」
ぽた、と床に汗が落ちる。まだ寒さの残るこの時期に、びっしょりと寝汗をかいていた。
「……すぐ? 今すぐに?」
白猫に言われたことを反芻し、秋也は立ち上がる。
その瞬間――破裂音が轟き渡り、秋也の後方に並んでいた窓と言う窓が、一斉にビリビリと震えた。
「!?」
秋也は慌てて窓から庭を見下ろし、様子を確かめる。
「爆発……!?」
庭から黒い煙が上がり、その周辺には兵士が何名か倒れている。
「くそっ、マジかよ!?」
フィッボを護るため、秋也は窓から離れ、談話室を飛び出そうとする。
と――先程まで秋也がいたその窓を破り、黒いマスクを被った兎獣人が侵入してきた。
「……ッ!」
しかし床に着地する寸前、秋也は敵の左頬に拳をめり込ませる。
「ぐえ……っ」
兎獣人は床を転がり、ピクリとも動かなくなる。
「侵入……、上と正面からか!?」
刀を抜き、警戒するが、窓からは誰も入って来ない。
と――談話室の扉が開き、誰かが入ってくる。
「シュウヤ君!」
入ってきたのは、ハーミット卿だった。
「きょ、……う」
彼を目にした瞬間、秋也の脳裏に白猫の言葉がよみがえった。
――キミはハーミットと鉢合わせする。その時がチャンスだ。その間に殺せ――
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ハーミット卿の言葉が、とてつもなく遠くに感じられた。
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