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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第3部

    白猫夢・賊襲抄 1

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    麒麟を巡る話、第107話。
    興国の立役者。

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    1.
     これは秋也が、ベルから又聞きした話だが――ハーミット卿が宰相になる前、プラティノアール王国の高官、閣僚たちの多くはやはり、こぞってこの人事に反対したそうだ。
     元より異邦人を毛嫌いする傾向の強い西方人であるし、そうでなくとも、政治家としての必要条件のいくつかを満たしていない――王国に何らかのコネクションや政治基盤、権力を一切持たない人間がいきなり国政のトップに収まるなど、誰も認めたがらないのは当然と言えた。
     しかしそれでも、王国に対し何のコネも権力も持たない、異邦人の卿が宰相として認められたのは、反対派がずらりと並んだ議事堂で、前宰相と国王とを背にした彼が熱心に、雄弁に、そして真摯に皆を説き伏せたからだと言う。
     その際に卿がどんなことを述べたかはベルも詳しくは知らないが、この演説によって卿は反対派を沈黙させ、その半数以上を賛成派に転じさせることに成功したのだと言う。
     そして宰相就任が認められた際にも、卿は皆を前にしてもう一度演説を行い、その結びにこう宣言したそうだ。

    「確約いたします。私の知恵と経験、知識、手腕があれば四半世紀後、この国は山に囲まれ矮小な戦争を重ねるばかりの小国から、世界へ広く門戸を開放し、そして世界の国々と対等に渡り合える、素晴らしい強国になると。
     そして重ねて確約いたします。さらにそこから四半世紀後には、この国は世界を動かすほどの大国に成長していることを」



     卿が宣言した通り、就任してから20年近くが経った現在、王国は驚くほどの成長を遂げた。
     かつて銃の存在も知らず、前世紀からの、古式めいた白兵戦に終始していた軍は今や、世界最高水準とも言える軍備を備えるに至った。
     移動手段においても、世界を置いてけぼりにするほどの進化を見せた。馬車をはるかに凌駕する速度を誇るガソリンエンジン車や蒸気機関車の開発に成功し、それに合わせて近代的な交通網も整備され始めている。
     その他、食糧事情も、経済規模も、20年前とは比べ物にならないほどの、飛躍的発展を遂げた。
     ネロ・ハーミット卿は確かにその宣言通りに、王国を「素晴らしい国」へと変えて見せたのだ。



     偉業を成し遂げ、そしてこれからさらに、王国を飛躍・発展させていく力を確かに持つこの偉人を前に、秋也は硬直していた。
    「シュウヤ君? どうかしたのかい?」
     秋也の挙動を訝しんだらしく、卿が声をかける。
    「……そ、……その、……いや」
    「うん?」
    「……っ」
     この時秋也の心の中は、激しく、目まぐるしく揺れ動いていた。
    (白猫に言われた通り、この人を殺さなきゃいけないのか? それともあんなふざけた預言なんか無視して、さっさと応戦しに行くか?
     ……いや、分かってる。無視すりゃいいんだ。……でも)
     白猫の顔を思い出す度、秋也の体はまるで凍りついたように、小指一本も動かせなくなる。
    (アイツの言う通りにしたら、確かに、アイツの言う通りになった。本当にアイツは、未来が見えるんだろう。なら、アイツの言う通りにし続ければ、オレは本当に、英雄になれる、……かも知れない。
     オレだって、……なりたい。なれるって言うなら、英雄になりたい。でも剣士としての活躍の場がドンドン消えてる今の世の中で、そう簡単に英雄になんて、なれるワケが無い。ソレも、分かってるコトなんだ。
     言う通りにすればきっと、白猫はオレを、英雄にしてくれる)
    「大丈夫かい? 顔色がひどく悪いけど……」
    (でも、だからって人を殺せって言うのか?
     白猫は、この殺人は正当化されると言った。だから卿を殺しても、何の罪も、罰も負わないはずだと。
     でも、そんな理屈じゃないだろっ……!? 人を殺すのが悪いコトじゃないなんて、オレにはどう考えても納得できねーよ!
     そりゃ、場合によっては殺さなきゃ殺されるだとか、殺した方がいいヤツがいるだとか、そんな話もある。あるけど、この場合はそのドレでもないだろ!?
     卿は悪人じゃない。オレにはそう見えない。死んだ方がいい、殺されるべきヤツだなんて白猫は言ってたけど、オレにはそんな風に見えないんだ!)
    「シュウヤ君!」
    「……!」
     きつい口調で呼びかけられ、秋也はようやく反応した。
    「は、はい」
    「どうしたんだ? 顔は真っ青だし、体は震えてるし。まるで何かに怯えているみたいだけど、戦えるかい?」
    「あ、いえ、はい、……!」
     うなずきかけて、秋也はハーミット卿の背後――開け放たれたままのドアから、黒い布で顔を覆った兎獣人がナイフを手に、書斎へ入ってくるのに気付いた。
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