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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第3部

    白猫夢・賊襲抄 2

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    麒麟を巡る話、第108話。
    秋也とアルトの対決。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     その兎獣人はナイフを振り上げ、投げようとする。
    「……危ないッ!」
     秋也はとっさに卿の腕をつかみ、目一杯引っ張った。
    「うわっ!?」
     卿が前のめりに倒れるとほぼ同時に、兎獣人がナイフを投げ付ける。
     しかしナイフは一瞬前まで卿が立っていた場所を飛び、そのまま本棚にがつっ、と音を立てて突き刺さった。
    「な、何やってんだ、シュウヤ!?」
     その兎獣人は驚いた声を出す。その声で、秋也は彼の正体に気が付いた。
    「アルト!? いきなり何を……!」
    「……ゼェ、やかましい! 敵を目にして攻撃しねー、ゼェ、アホがいるかッ!」
     アルトはそう返しつつ、ナイフをもう一本取り出し、ハーミット卿へ襲いかかろうとした。
    「行きがけの駄賃だ、ゼェ、そいつくらいは殺させてもらうぜ!」
    「させるかッ!」
     秋也は――白猫から散々「殺せ」と命じられた――ハーミット卿を護ろうと、アルトの前に立ちはだかった。
    「どけよ、シュウヤ」
    「ざけんな、誰がどくか」
    「どかなきゃ、痛い目見るぜ?」
    「見せてやんのは……」
     秋也は刀を正眼に構え、アルトを牽制する。
    「こっちの方だ!」
     そのまま刀を振り上げ、アルトの頭目がけて振り下ろす。
     しかし間一髪でアルトは後ろへ飛びのき、ナイフを投げ付けてくる。
    「そらよッ」
    「……!」
     刀を振り下ろした直後で、弾くには間に合わない。避けようかと一瞬考えたが、避ければ背後のハーミット卿に直撃する。
    (……や、やるしかねえ!)
     秋也は覚悟を決め、刀から手を放し、飛んでくるナイフに向けて両手を突き出す。
    「だあああッ!」
    「なっ、……ゼッ、ゲホッ、マジかよ!?」
     秋也の両掌の間で、ナイフが止まる。
    「し、白刃取り、せ、せ、成功、っ」
     自分でも成功するとは思わず、秋也はガチガチと歯を鳴らしていた。
    「……チッ」
     アルトは舌打ちし、踵を返す。
    「まっ、待て!」
    「待てって言って、ゼェ、待つアホがどこにいるってんだ!」
     そのままアルトは、書斎を飛び出す。
    「逃がすかッ!」
     秋也は刀を拾い、ハーミット卿を書斎に置いたまま、アルトを追いかけた。

     アルトは廊下を駆け抜け、フィッボがいる部屋の前で立番をしていた兵士たちを投げナイフで軽々と蹴散らし、そのまま彼らの小銃を奪ってドアの錠を撃ち抜く。
     ただの分厚い板と化したドアを蹴破り、アルトは部屋の中へと侵入した。
    「おこんばんは、ゼェ、フィッボ・モダス皇帝陛下殿」
     部屋の中央に佇んでいたフィッボに悪意のふんだんに込もった挨拶をしつつ、アルトは銃のボルトを引く。
    「……」
    「手短に言いますぜ。俺と一緒に来てもらいやしょうか」
    「断ると言ったら?」
    「無理矢理にでも言うことを聞かせるだけでさ」
     アルトはフィッボに小銃を向け、一歩近寄る。
    「さあ、来てもらいやしょうか」
    「できない相談だ」
     フィッボは首を横に振り、アルトの背後を指差した。
    「私の騎士が、それを許すまい」
    「……チッ」
     アルトはぴょんと横に跳び、背後にいた秋也に銃を向ける。
    「アルト、ここまでだ! 大人しく捕まれ!」
    「アホか」
     秋也の呼びかけを、アルトは鼻で笑う。
    「捕まれ、だ? ここで捕まってどうなる? ただのチンピラとして、ゼェ、首をはねられるだけじゃねえか。なんだ、そりゃよ? 俺がそんな死に方で、ゼェ、満足すると思ってんのか?
     俺はまだ死なねえ。まだ誰にも捕まりゃしねえよ。俺の人生は、まだ、ゼェ、……いいとこまで行ってねえんだッ!」
     そう返すなり、アルトは銃の引き金を引く。パン、と乾いた音が部屋に響き渡るが、銃弾の飛んで行った先には既に、秋也の姿は無かった。
    「チッ、すばしっこいな!」
     アルトはもう一度ボルトを引き、次の銃弾を装填する。
    「出てこいや、シュウヤ! こいつを殺しちまってもいいのか!?」
     そう叫び、銃口をフィッボに向けたところで、秋也が背後から現れる。
    「……! いつの間に!?」
     慌てて銃口を秋也へと向け直すが、秋也はそれより早く、刀をアルトではなく、小銃に向けて振り下ろした。
    「……や、べ」
     そう口走ったが、もう遅い。
     引き金を絞るよりわずかに早く、秋也の刀が銃身にめり込み、鉄製の銃身をめき、と潰す。
     わずかではあるが楕円形に曲がったその銃身内を、変形しにくいよう加工された真鍮被覆の硬い銃弾が無理矢理に通過しようとした、その結果――ぼごん、と鈍く重たい破裂音が部屋中に響き渡ると共に小銃は腔発、四散した。
    「ぐはあ……っ」「うわ……っ」
     秋也にも、アルトにも、小銃の破片が襲いかかる。
     しかし間一髪か、秋也は頬や右手、右腕に軽い怪我を負う程度で済んだ。
    「……し、死ぬかと思った」
     一方、アルトはぐったりとしている。
     その右肩にはボルト部分が貫通して突き刺さっており、深手を負ったのは明らかだった。
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