「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・賊襲抄 3
麒麟を巡る話、第109話。
不可思議な状況。
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3.
「大丈夫か、シュウヤ君!?」
「いてて……、ええ、はい、何とか」
わずかに刺さった鉄片を抜きながら、秋也は応答する。
「どうにか、任務成功……、ですかね」
「そうだな。彼を拿捕すれば、話は終わりだ」
フィッボはそう言って辺りを見回し、適当な衣類を使ってアルトの手を縛る。
「手当てもしないと……」
そうつぶやいた秋也に、フィッボは一瞬きょとんとした顔を見せるが、続いて苦笑する。
「……優しいな、君は」
「え?」
「いや、そうだな。敵とは言え、いたずらに苦しめるようなものでもあるまい。
しかし……、破片が肩を貫通しているのは、彼にとっては逆に幸いだったな。貫通せず、中途半端に食い込んでいれば、大量に出血していただろう。我々には応急処置しかできないし、そこには極力、触れないようにしておこう」
そう言いつつ、フィッボはアルトの衣服やマスクを脱がし、他に怪我が無いか確認しようとした。
ところが――。
「うん?」「あれ?」
マスクを脱がせたところで、アルトの髪の色と髪形、そして兎耳の色が、以前とは全く変わっていることに気が付いた。
「確か以前、彼の耳は茶色だったと記憶していたが……?」
「ええ、髪も赤かったはずです。ソレにこの色と髪形って、まるで……」
と、その時だった。
またも庭の方から、猛烈な炸裂音が轟く。つられて二人は、そちらに顔を向けた。
「まだ残党が動いているようだな」
「オレ、行ってきます!」
「ああ、彼は私に任せて……」
と、二人がアルトのいた方に視線を戻したところで――アルトが姿を消していることに気付いた。
「……!」
「ゼェ、ゼェ……、ここさぁ」
声のした方を向くと、そこには肩に銃片が突き刺さったまま、額に脂汗を浮かべてニヤニヤと笑う、アルトの姿があった。
「くそ、まだナイフ持ってたのか?」
「そう言うこった。まあ、……ゼェ、陛下、あんたを殺せなかったのは残念だが、作戦は概ね成功した。
これで俺の勝ちだ。すべてがな!」
そう言ってアルトは窓へと駆け、そのまま破って外へと飛び出した。
「なっ……」
「さ、3階だぞココ!?」
しかし秋也のずれた心配は無用だったらしい。窓枠に鉤爪が引っかかっており、アルトはそれを使って無事に着地していた。
秋也とフィッボが庭を見下ろしたところで、アルトの声が聞こえる。
「作戦成功だ! 引き上げるぞ! 集合場所は例の場所だ、急いで向かえッ!」
「おうっ!」
アルトが率いてきたならず者たちは、あっと言う間にハーミット邸から逃げ出していった。
「……どう言うことだ?」
「作戦成功、……って、何が?」
秋也とフィッボは互いに顔を見合わせ、呆然としていた。
と――秋也の耳に、聞きなれた声が届く。
「嫌っ! やめて、放してっ!」
「え?」
その声は庭の方、今まさに逃げ去ろうとする一味らの方から聞こえてくる。
「ベル!?」
思わず叫び、秋也は窓から身を乗り出そうとする。
それと当時に、開け放たれたままのドアから、真っ青な顔をしたハーミット卿と、アルピナが入ってきた。
「卿! 今、あいつらの方からベルちゃんの声が! まさか……!?」
「ああ、察しの通りだよ、シュウヤ君。狙いは……、どうやら陛下の身柄や命では無かったようだ。
ベルが、……さらわれた」
「何ですって……!?」
ハーミット卿からそう伝えられ、秋也たちも真っ青になった。
未だ邸内のあちこちからぶすぶすと黒煙が上がる中、秋也たちは居間に集まり状況の確認を行った。
そして、依然真っ青な顔色の卿が、それを総括する。
「モダス陛下については、シュウヤ君が頑張ってくれたおかげで、十分にお守りすることができた。しかし妙なことに、トッドレール氏は陛下を殺害するつもりだったことが判明した。どうやら前回のように、誘拐するつもりではなかったらしい。
そして今回の騒動を起こした本当の理由は、ベルを誘拐することにあったようだ。今にしてみれば、彼は僕や陛下だけではなく、僕の家族に対しても観察の目を向けていたらしい。でなければ――これはシュウヤ君から聞いたことだけど――彼女がリスト寄宿舎にいたことや、そこでの訓練内容に言及できるはずがないからね。
誘拐した理由は恐らく、僕の権限を何らかの形で使用しようとしているのだと思う。例えば僕が誘拐され何らかの要求を突き付けたところで、それを融通できる人間がいなきゃ話にならない。
その点、僕の娘が誘拐され、彼女の身柄の無事を条件に交渉されれば、嫌とは言い切れない。
もっと早く、気が付くべきだった……!」
と、ここでフィッボが手を挙げる。
「しかし気になるのは、アルト君が卿に対し、何を要求するのかだ。
卿は確かに庶民よりは裕福であるとは言え、金銭が目的であればわざわざ厳重警戒で迎え撃たれるようなところに押し入ったりはしない。
となればやはり卿が言った通り、何らかの権限を行使させるのが目当てではないかと思うのだが」
「そうですね、その線が濃厚です。しかし何に対して行使させるつもりなのか、判断材料が無さ過ぎます。
シュウヤ君、もう一度聞くけど、彼について何か気になった点とか、言動とか、無かったかい?」
そう問われ、秋也は先程フィッボと確認したことを伝えようとした。
「えーと……、さっき戦った後にですね、……いや、でも関係ないかな」
「うん? ……何でもいい、何かの手掛かりになるかも知れない。聞かせてくれ」
「あのですね、あいつの髪と耳の色が変わってたんです。染めたのかな」
「色が?」
「ええ」
秋也はフィッボの方をチラ、と見て、こう続けた。
「フィッボさんみたいに、髪は白地にちょっと桃色、耳も同じように、真っ白になってたんです。あ、髪形もそっくりになってました」
「陛下そっくりに?」
そう問い返し――直後、ハーミット卿は「あっ!? そうか!」と声を挙げた。
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不可思議な状況。
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「大丈夫か、シュウヤ君!?」
「いてて……、ええ、はい、何とか」
わずかに刺さった鉄片を抜きながら、秋也は応答する。
「どうにか、任務成功……、ですかね」
「そうだな。彼を拿捕すれば、話は終わりだ」
フィッボはそう言って辺りを見回し、適当な衣類を使ってアルトの手を縛る。
「手当てもしないと……」
そうつぶやいた秋也に、フィッボは一瞬きょとんとした顔を見せるが、続いて苦笑する。
「……優しいな、君は」
「え?」
「いや、そうだな。敵とは言え、いたずらに苦しめるようなものでもあるまい。
しかし……、破片が肩を貫通しているのは、彼にとっては逆に幸いだったな。貫通せず、中途半端に食い込んでいれば、大量に出血していただろう。我々には応急処置しかできないし、そこには極力、触れないようにしておこう」
そう言いつつ、フィッボはアルトの衣服やマスクを脱がし、他に怪我が無いか確認しようとした。
ところが――。
「うん?」「あれ?」
マスクを脱がせたところで、アルトの髪の色と髪形、そして兎耳の色が、以前とは全く変わっていることに気が付いた。
「確か以前、彼の耳は茶色だったと記憶していたが……?」
「ええ、髪も赤かったはずです。ソレにこの色と髪形って、まるで……」
と、その時だった。
またも庭の方から、猛烈な炸裂音が轟く。つられて二人は、そちらに顔を向けた。
「まだ残党が動いているようだな」
「オレ、行ってきます!」
「ああ、彼は私に任せて……」
と、二人がアルトのいた方に視線を戻したところで――アルトが姿を消していることに気付いた。
「……!」
「ゼェ、ゼェ……、ここさぁ」
声のした方を向くと、そこには肩に銃片が突き刺さったまま、額に脂汗を浮かべてニヤニヤと笑う、アルトの姿があった。
「くそ、まだナイフ持ってたのか?」
「そう言うこった。まあ、……ゼェ、陛下、あんたを殺せなかったのは残念だが、作戦は概ね成功した。
これで俺の勝ちだ。すべてがな!」
そう言ってアルトは窓へと駆け、そのまま破って外へと飛び出した。
「なっ……」
「さ、3階だぞココ!?」
しかし秋也のずれた心配は無用だったらしい。窓枠に鉤爪が引っかかっており、アルトはそれを使って無事に着地していた。
秋也とフィッボが庭を見下ろしたところで、アルトの声が聞こえる。
「作戦成功だ! 引き上げるぞ! 集合場所は例の場所だ、急いで向かえッ!」
「おうっ!」
アルトが率いてきたならず者たちは、あっと言う間にハーミット邸から逃げ出していった。
「……どう言うことだ?」
「作戦成功、……って、何が?」
秋也とフィッボは互いに顔を見合わせ、呆然としていた。
と――秋也の耳に、聞きなれた声が届く。
「嫌っ! やめて、放してっ!」
「え?」
その声は庭の方、今まさに逃げ去ろうとする一味らの方から聞こえてくる。
「ベル!?」
思わず叫び、秋也は窓から身を乗り出そうとする。
それと当時に、開け放たれたままのドアから、真っ青な顔をしたハーミット卿と、アルピナが入ってきた。
「卿! 今、あいつらの方からベルちゃんの声が! まさか……!?」
「ああ、察しの通りだよ、シュウヤ君。狙いは……、どうやら陛下の身柄や命では無かったようだ。
ベルが、……さらわれた」
「何ですって……!?」
ハーミット卿からそう伝えられ、秋也たちも真っ青になった。
未だ邸内のあちこちからぶすぶすと黒煙が上がる中、秋也たちは居間に集まり状況の確認を行った。
そして、依然真っ青な顔色の卿が、それを総括する。
「モダス陛下については、シュウヤ君が頑張ってくれたおかげで、十分にお守りすることができた。しかし妙なことに、トッドレール氏は陛下を殺害するつもりだったことが判明した。どうやら前回のように、誘拐するつもりではなかったらしい。
そして今回の騒動を起こした本当の理由は、ベルを誘拐することにあったようだ。今にしてみれば、彼は僕や陛下だけではなく、僕の家族に対しても観察の目を向けていたらしい。でなければ――これはシュウヤ君から聞いたことだけど――彼女がリスト寄宿舎にいたことや、そこでの訓練内容に言及できるはずがないからね。
誘拐した理由は恐らく、僕の権限を何らかの形で使用しようとしているのだと思う。例えば僕が誘拐され何らかの要求を突き付けたところで、それを融通できる人間がいなきゃ話にならない。
その点、僕の娘が誘拐され、彼女の身柄の無事を条件に交渉されれば、嫌とは言い切れない。
もっと早く、気が付くべきだった……!」
と、ここでフィッボが手を挙げる。
「しかし気になるのは、アルト君が卿に対し、何を要求するのかだ。
卿は確かに庶民よりは裕福であるとは言え、金銭が目的であればわざわざ厳重警戒で迎え撃たれるようなところに押し入ったりはしない。
となればやはり卿が言った通り、何らかの権限を行使させるのが目当てではないかと思うのだが」
「そうですね、その線が濃厚です。しかし何に対して行使させるつもりなのか、判断材料が無さ過ぎます。
シュウヤ君、もう一度聞くけど、彼について何か気になった点とか、言動とか、無かったかい?」
そう問われ、秋也は先程フィッボと確認したことを伝えようとした。
「えーと……、さっき戦った後にですね、……いや、でも関係ないかな」
「うん? ……何でもいい、何かの手掛かりになるかも知れない。聞かせてくれ」
「あのですね、あいつの髪と耳の色が変わってたんです。染めたのかな」
「色が?」
「ええ」
秋也はフィッボの方をチラ、と見て、こう続けた。
「フィッボさんみたいに、髪は白地にちょっと桃色、耳も同じように、真っ白になってたんです。あ、髪形もそっくりになってました」
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