「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第1部
蒼天剣・縁故録 3
晴奈の話、9話目。
晴奈の初戦。
3.
応接間での一悶着から10分ほど後、晴奈たち師弟と紫明は重蔵に連れられて、ある修練場に集められた。
「えっと……」
晴奈はそこで、重蔵から真剣を渡される。
「仕合と言うやつじゃ。丁度いい手合いがおったのでな」
「手合いって……」
柊が神妙な顔で、その「相手」を眺める。
「小鈴じゃない」
「どーもー」
その相手は柊に向かって、ぺら、と手を振る。もう一方の手には鈴が大量に飾られた杖が握られていた。
「あなたが晴奈ちゃんだっけ? 雪乃から聞いてるけど」
「え、ええ。黄晴奈と申します」
挨拶した晴奈に、赤毛のエルフも自己紹介を返す。
「あたしは橘小鈴。雪乃の友達で、魔術師兼旅人。よろしくね」
「魔術、ですか」
ちなみに魔術とは、中央大陸の北中部などを初めとして世界中に広く伝わっている、焔流とはまた違う形で精神の力、魔力を操る術のことである。
と、まだ状況を飲み込みきれていない面々に、重蔵が説明を足す。
「鈴さんもそれなりの手練でな。丁度温泉街で暇そうにしとったから、晴さんの相手になってもらおうと思ってのう。
同門が相手でも良かったんじゃが、黄大人に八百長だなどと思われてはかなわんしな」
「いや、私は、そんな……」
すっかり調子を狂わされたらしく、紫明の歯切れは悪い。
「そんなわけで、これから二人に戦ってもらう。分かっていると思うが、二人とも真剣に仕合うこと。負けたと思ったら、潔く降参すること。
それでは……、開始ッ!」
重蔵が手を打った瞬間、橘は杖を鳴らし、攻撃を仕掛けてきた。
「んじゃ、遠慮無く行くわよ! 突き刺せッ!」
鈴の音と共に、地面から石の槍が伸びる。晴奈はばっと飛び上がり、槍から離れる。
「わ、わあっ、晴奈!?」
「まあ、じっと見ていなされ」
突然の対戦にうろたえ、叫ぶ紫明を、重蔵がニコニコ笑いながらいさめる。
その間に晴奈は石の槍をかわし切り、橘に斬りかかっていた。
「やあッ!」
「『マジックシールド』!」
だが、晴奈の刀が入るよりも一瞬早く、橘が防御の術を唱える。橘の目の前に薄い透明な壁が現れ、晴奈の刀を止めた。
「へえ? 子供かと思っていたけど、なかなか気が抜けないわね」
「侮るなッ!」
晴奈はもう一度、壁に向かって刀を振り下ろす。
と同時に、晴奈の刀に、ぱっと赤い光がきらめく。焔流の真髄、「燃える刀」である。魔術と源を同じくするためか、橘が作った壁はあっさり切り裂かれた。
「え、うそっ!?」
まだ晴奈を侮っていたらしく、橘は驚いた声を上げる。
しかしすぐに構え直し、晴奈から距離を取ってもう一度、魔術を放つ。
「『ストーンボール』!」
この聞き慣れない単語に、晴奈は心の中でつぶやいていた。
(どうも魔術と言うものは、聞き慣れない言葉が多いな?
いつか私も、央中や央北へ行くことがあるのだろうか。そうなると、こんなけったいな名前の術を耳にする機会も、多くなるのだろうか?
うーん、何だか調子が狂ってしまいそうだ)
目に見えて動揺している橘とは逆に、晴奈は冷静に立ち向かっていた。1年欠かさず続けた精神修養の成果である。
魔術によって発生した無数のつぶても難なく避け、晴奈はもう一度橘を斬りつけようとした。
「くッ……!」
橘は何とか杖を盾にして晴奈の攻撃を防ぎ、ギン、と金属同士がぶつかり合う音が修練場に鋭くこだまする。
どうにか攻撃をしのいだところで、橘はまた距離を取り、魔杖を構えようとする。
「甘いッ!」「え……」
橘が後ろに飛びのいた瞬間を狙って晴奈が踏み込み、刀の腹でばしっと橘を叩く。刀で押されて体勢を崩し、橘は尻餅をついてしまった。
「あ、きゃあっ! ……あっ」
橘が起き上がろうとした時には、晴奈は既に、彼女の首に刃を当てていた。
「勝負、ありましたね」
「なーんか、自分にがっかりしちゃったわ、マジで。
あたしの半分も生きてないよーな子に、あっさりやられるなんて思わなかった」
対決の後、がっくりと肩を落としている橘を、柊が慰めていた。
「まあまあ……。もう一度、修行を積んで再戦すればいいじゃない」
「うー……。修行とかめんどくさいけど、……この体たらくじゃ仕方無いかぁ」
ちなみにその後、橘はしばらくの間、晴奈たちと共に精神修養を主として修行に励んでいた。よほど、晴奈の戦いぶりに感心したのだろう。
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晴奈の初戦。
3.
応接間での一悶着から10分ほど後、晴奈たち師弟と紫明は重蔵に連れられて、ある修練場に集められた。
「えっと……」
晴奈はそこで、重蔵から真剣を渡される。
「仕合と言うやつじゃ。丁度いい手合いがおったのでな」
「手合いって……」
柊が神妙な顔で、その「相手」を眺める。
「小鈴じゃない」
「どーもー」
その相手は柊に向かって、ぺら、と手を振る。もう一方の手には鈴が大量に飾られた杖が握られていた。
「あなたが晴奈ちゃんだっけ? 雪乃から聞いてるけど」
「え、ええ。黄晴奈と申します」
挨拶した晴奈に、赤毛のエルフも自己紹介を返す。
「あたしは橘小鈴。雪乃の友達で、魔術師兼旅人。よろしくね」
「魔術、ですか」
ちなみに魔術とは、中央大陸の北中部などを初めとして世界中に広く伝わっている、焔流とはまた違う形で精神の力、魔力を操る術のことである。
と、まだ状況を飲み込みきれていない面々に、重蔵が説明を足す。
「鈴さんもそれなりの手練でな。丁度温泉街で暇そうにしとったから、晴さんの相手になってもらおうと思ってのう。
同門が相手でも良かったんじゃが、黄大人に八百長だなどと思われてはかなわんしな」
「いや、私は、そんな……」
すっかり調子を狂わされたらしく、紫明の歯切れは悪い。
「そんなわけで、これから二人に戦ってもらう。分かっていると思うが、二人とも真剣に仕合うこと。負けたと思ったら、潔く降参すること。
それでは……、開始ッ!」
重蔵が手を打った瞬間、橘は杖を鳴らし、攻撃を仕掛けてきた。
「んじゃ、遠慮無く行くわよ! 突き刺せッ!」
鈴の音と共に、地面から石の槍が伸びる。晴奈はばっと飛び上がり、槍から離れる。
「わ、わあっ、晴奈!?」
「まあ、じっと見ていなされ」
突然の対戦にうろたえ、叫ぶ紫明を、重蔵がニコニコ笑いながらいさめる。
その間に晴奈は石の槍をかわし切り、橘に斬りかかっていた。
「やあッ!」
「『マジックシールド』!」
だが、晴奈の刀が入るよりも一瞬早く、橘が防御の術を唱える。橘の目の前に薄い透明な壁が現れ、晴奈の刀を止めた。
「へえ? 子供かと思っていたけど、なかなか気が抜けないわね」
「侮るなッ!」
晴奈はもう一度、壁に向かって刀を振り下ろす。
と同時に、晴奈の刀に、ぱっと赤い光がきらめく。焔流の真髄、「燃える刀」である。魔術と源を同じくするためか、橘が作った壁はあっさり切り裂かれた。
「え、うそっ!?」
まだ晴奈を侮っていたらしく、橘は驚いた声を上げる。
しかしすぐに構え直し、晴奈から距離を取ってもう一度、魔術を放つ。
「『ストーンボール』!」
この聞き慣れない単語に、晴奈は心の中でつぶやいていた。
(どうも魔術と言うものは、聞き慣れない言葉が多いな?
いつか私も、央中や央北へ行くことがあるのだろうか。そうなると、こんなけったいな名前の術を耳にする機会も、多くなるのだろうか?
うーん、何だか調子が狂ってしまいそうだ)
目に見えて動揺している橘とは逆に、晴奈は冷静に立ち向かっていた。1年欠かさず続けた精神修養の成果である。
魔術によって発生した無数のつぶても難なく避け、晴奈はもう一度橘を斬りつけようとした。
「くッ……!」
橘は何とか杖を盾にして晴奈の攻撃を防ぎ、ギン、と金属同士がぶつかり合う音が修練場に鋭くこだまする。
どうにか攻撃をしのいだところで、橘はまた距離を取り、魔杖を構えようとする。
「甘いッ!」「え……」
橘が後ろに飛びのいた瞬間を狙って晴奈が踏み込み、刀の腹でばしっと橘を叩く。刀で押されて体勢を崩し、橘は尻餅をついてしまった。
「あ、きゃあっ! ……あっ」
橘が起き上がろうとした時には、晴奈は既に、彼女の首に刃を当てていた。
「勝負、ありましたね」
「なーんか、自分にがっかりしちゃったわ、マジで。
あたしの半分も生きてないよーな子に、あっさりやられるなんて思わなかった」
対決の後、がっくりと肩を落としている橘を、柊が慰めていた。
「まあまあ……。もう一度、修行を積んで再戦すればいいじゃない」
「うー……。修行とかめんどくさいけど、……この体たらくじゃ仕方無いかぁ」
ちなみにその後、橘はしばらくの間、晴奈たちと共に精神修養を主として修行に励んでいた。よほど、晴奈の戦いぶりに感心したのだろう。



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
初コメおじゃまいたします
武術と魔術の戦闘おもしろいですねぇ!
苦戦するのかと思ったら、焔流晴奈さんの圧勝。
精神力の作用が一番重要かもしれないですね。
巫女装束・・・良い響きです。和風ファンタジーイイ!
苦戦するのかと思ったら、焔流晴奈さんの圧勝。
精神力の作用が一番重要かもしれないですね。
巫女装束・・・良い響きです。和風ファンタジーイイ!
NoTitle
まとめてお返事。
食事中、楽しくお話しすると言うのもありと言えばありですが、人によっては下品に見えてしまうことも。
食べる時は静かに、食べることに集中した方が上品だし、綺麗でもあると思ってます。
央南は「仁徳と礼節の世界」ですからね。(蒼天剣・紀行録 参照)
紅蓮塞のご飯の内容、質素かつ、適度に栄養あるものでしょうね。
白米と一汁一菜か二菜くらい、お漬物なども付くかな。
「まさに朝の和食」って感じですね。
紫明さん、確かに多少は手を挙げてるかも。
頑固親父そのものですね。
戦闘の描写は、何度書いてもなかなか決まらないことが多く、度々苦労しますね。
自分の場合は、剣道など武術経験があるので、部屋の中でこっそりポーズを取ったり、台詞を口に出して読んだりしながら構想を練っています。
その間は、絶対にドアを開けてもらいたくないですね(;´∀`)
基本、詠唱はあります。また、絵や図形で作成する魔法陣もあったり。
双月世界における魔術は、電子回路(絵)やプログラム(呪文、文章)のようなものだと考えています。
威力に関しては、
「呪文の長さや魔法陣の規模」×「魔力」=「魔術の威力」
と言う感じですね。
簡単な魔術でも、魔力を目一杯込めれば威力は大きくなります。
橘さんについてですが。
まず、歳は柊さんと同じくらい。
エルフさん(作中では「長耳」と言う表記もあり)は成人するまでは、他の種族と成長の仕方は一緒。
そこから中壮年、老年に至るまでの、青年期の時間が非常に長い人たちです。
ちなみに橘さん、巫女さんでもなんでもなく、「そーゆー服」が大好きなだけ。
魔術知識と腕前は本物ですが。
晴奈は真面目っ子ですね。
一度「頑張る」と決意したら、どこまでも頑張りきる子です。
食事中、楽しくお話しすると言うのもありと言えばありですが、人によっては下品に見えてしまうことも。
食べる時は静かに、食べることに集中した方が上品だし、綺麗でもあると思ってます。
央南は「仁徳と礼節の世界」ですからね。(蒼天剣・紀行録 参照)
紅蓮塞のご飯の内容、質素かつ、適度に栄養あるものでしょうね。
白米と一汁一菜か二菜くらい、お漬物なども付くかな。
「まさに朝の和食」って感じですね。
紫明さん、確かに多少は手を挙げてるかも。
頑固親父そのものですね。
戦闘の描写は、何度書いてもなかなか決まらないことが多く、度々苦労しますね。
自分の場合は、剣道など武術経験があるので、部屋の中でこっそりポーズを取ったり、台詞を口に出して読んだりしながら構想を練っています。
その間は、絶対にドアを開けてもらいたくないですね(;´∀`)
基本、詠唱はあります。また、絵や図形で作成する魔法陣もあったり。
双月世界における魔術は、電子回路(絵)やプログラム(呪文、文章)のようなものだと考えています。
威力に関しては、
「呪文の長さや魔法陣の規模」×「魔力」=「魔術の威力」
と言う感じですね。
簡単な魔術でも、魔力を目一杯込めれば威力は大きくなります。
橘さんについてですが。
まず、歳は柊さんと同じくらい。
エルフさん(作中では「長耳」と言う表記もあり)は成人するまでは、他の種族と成長の仕方は一緒。
そこから中壮年、老年に至るまでの、青年期の時間が非常に長い人たちです。
ちなみに橘さん、巫女さんでもなんでもなく、「そーゆー服」が大好きなだけ。
魔術知識と腕前は本物ですが。
晴奈は真面目っ子ですね。
一度「頑張る」と決意したら、どこまでも頑張りきる子です。
NoTitle
おっ魔術だぁ~
巫女に杓杖か
日本っぽいね
戦闘描写ってムズイですよね
これから自分も書くことになりますがどうなる事か
この時代の魔術って詠唱なし?あるパターンもあるのかな?
それの有無で威力が違うとか
継続は力なりってやつだ
努力はいつか報われる
驕らず鍛錬してたんだぬ
ん?闘ったエルフって……相当なお年?
巫女に杓杖か
日本っぽいね
戦闘描写ってムズイですよね
これから自分も書くことになりますがどうなる事か
この時代の魔術って詠唱なし?あるパターンもあるのかな?
それの有無で威力が違うとか
継続は力なりってやつだ
努力はいつか報われる
驕らず鍛錬してたんだぬ
ん?闘ったエルフって……相当なお年?
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NoTitle
本作品においては、魔術は剣術や体術、杖術などと同じように、
「戦うための術(すべ)」と位置付けています。
魔術の熟練者であれば、剣や槍を持った相手にだって互角に戦える。
そういう世界観の表現ですね。
それでも勝った晴奈はやはり、精神力が素晴らしかったということで。
巫女装束はかわいいですね。色合いといい、デザインといい。
そういう目で見てはいけないものかも知れませんが。