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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・狂狐録 7

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    晴奈の話、第125話。
    一派の頭領・篠原との決戦。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     咆哮を挙げて、巨大な爪を持った六本脚の虎が倒れる。
    「いい加減にしやがれよ……」
    「まったくだ。気が滅入る」
     三体目の怪物も、何の抵抗もせずに倒れた。
     晴奈とウィルバーは既に、研究室の中に入っていた。そこでも天原が放った怪物に遭遇したが、皆まだ人間の心が残っているのか、まったく攻撃も、抵抗もしなかった。
    「気がおかしくなりそうだぜ、こんな戦いは。まるで魔界だか地獄だかの奥底で戦ってるって気分だぜ」
    「そうだな。とっとと終わらせて、地上に戻りたいところだ」
     研究所の隅にあった扉を開き、奥へと入る。そこは一層、獣の臭いが立ち込めていた。
    「う、っく……」
    「怪物たちの、檻か」
     部屋の中にはズラリと檻が積み上げられ、並んでいる。
     と、怪物たちが騒ぎだした。
    「うるせえな。……ん?」
    「ウィルバー、気をつけろ」
     晴奈もウィルバーも、その部屋に佇む異常に気付く。先程の楓井たちとは比べ物にならない強烈な闘気が放たれ、晴奈たちに放射されている。
     この異様な殺気を怪物たちも感じ取り、騒いでいるのだ。
    「……何だよ、この、寒気すら感じる、冷たい剣気は」
    「とうとう向こうの大将が、お出ましのようだ」
     晴奈とウィルバーは刀を構え直し、慎重に部屋を進んで行った。

     と、真横の檻が突然――中の怪物もろとも――真っ二つに斬られ、そこから篠原が現れた。
    「黄晴奈、そしてウィルバー・ウィルソン。ここで止めさせてもらうぞ」
    「出たな、篠原ッ!」
     晴奈はすぐに反応し、篠原に斬りかかる。
    「りゃああッ!」「甘い」
     篠原はすっと刀を受け、一歩踏み込んで弾き飛ばす。
    「な……ッ」
     晴奈は檻に背中をぶつけ、えづく。
    「ぐえ、ゲホ、……っく」
    「黄、俺が昔紅蓮塞で何と呼ばれていたか知っているか?」
     篠原は攻め込むこともせず、じっと晴奈を見下ろしている。
    「知って、げほっ、い、る。……ハァ。『魔剣』の、篠原龍明」
    「そうだ。打てば打ち返し、薙げば薙ぎ返し、斬れば斬り返す。鏡に返すが如く敵を葬り去る、これぞ『魔剣』の極意、……と諸人は言ったものだ。
     せいぜい芸を披露して、俺の反射で我が身を焼くがいい、黄」
    「く、そ……」
     晴奈はよろよろと立ち上がり、刀を構え直す。篠原が晴奈に注意を向けている間にウィルバーが背後へ回りこみ、苦無を放った。
    「オラぁ!」「笑止」
     だが、篠原はくるりと振り返り、飛んできた苦無を弾く。苦無はそのまままっすぐと、ウィルバーの元へと帰っていく。
    「な……!?」
     側転し、間一髪で避けたウィルバーのすぐ目の前に篠原が迫り、思い切り蹴飛ばしてきた。
    「がっ……、ぐえっ!?」
     ウィルバーも檻にぶつかり、鈍い音を立てて床に倒れた。どうやら骨を折ったらしい。
    「これならどうだッ!」
     呼吸を整えた晴奈が「火射」を放つ。
    「愚か者め! その技は前回破ったはずだ!」
     しかし前回と同じく、篠原は「火閃」でそれを吹き飛ばした。
    「う、お、あああ……!」
     炎が炸裂し、辺りに肉の焦げる血なまぐさい臭いが漂い始めた。



    「あたしのお父ちゃんね、『霊剣』って呼ばれてたんだって」
    「うん、聞いたことがある。でも、詳しくは知らないな」
     軍を進めて既に4時間経ち、空の端が白くなり始めていた。それを見た霙子が、唐突に昔話をし始める。
    「あたしも実際に見たこと無いんだけど、篠原が言うには『音も無く敵を討ち、妖怪や霊魂のごとく斬り進む、これぞ『霊剣』の極意なり』って称されてたんだって」
    「ふーん……?」
    「何でも、稽古してる人はみんな、『向かい合っているといつの間にかいなくなる』とか、『いつ打ち込んでくるのか、どうやっても見極められない』って不思議がってたんだって」
    「ああ、なるほど」
     エルスの反応に、霙子はいぶかしがる。
    「なるほど、って?」
    「フジカワさんの『霊剣』って、多分人間の認識力を逆手に取った戦法なんじゃないかな」
    「え?」
     エルスは指を立て、例え話をする。
    「こんな経験、無いかな? 同じ文字を何十回も書いていると、時々自分で何を書いていたか分からなくなったりしない?」
    「うーん……? あ、あるかも」
    「それと同じことだよ、多分。
     人間の認識力って、いつでもキッチリ、しっかりしてるわけじゃ無いからね。1分も2分も同じ物を見ていると、必ず1秒くらい集中が切れて、眼前のものが何なのか一瞬、認識できなくなることがある。フジカワさんはそう言う『途切れ』を見抜く力が、特別鋭かったんだと思うよ。
     集中力が途切れる一瞬を見抜いて動けば、誰にも知覚されること無く叩ける」
    「そんなもんかなぁ……? あ、じゃあ篠原もそう言う戦い方なのかな?」
     霙子の言葉が気にかかり、エルスは尋ねてみた。
    「シノハラは確か『魔剣』だったよね。どんな風に称されてるの?」
    「えーと、確か……『打てば打ち返し、薙げば薙ぎ返し、斬れば斬り返す。鏡に返すが如く敵を葬り去る、これぞ『魔剣』の極意なり』、だって」
    「カウンター、か。それも、人間の感覚と反応を使った戦法かもね」

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    2016.04.01 修正
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