「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・荒野抄 4
麒麟を巡る話、第122話。
戦地の晩餐。
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4.
アルトたちが首都に到着して半日後、夕暮れが迫ろうかと言う頃になって、秋也たちもカプラスランド郊外に到着した。
「ああ、腕が痛い。脚もつりそうだったわ。帰ったらお義父さんに『もっとステアリングとクラッチ軽くして』って言っとこう」
「尻も痛えよ。やっぱり線路の上を走るってのはきつかったな。事実上ここまでの直通とは言え、枕木乗ってる時のガクガク来る感じはなぁ。
もうちょっとショックの軽減、どうにかならないもんかな」
「ええ、それも伝えてみるわ」
アルピナとサンクが車を降り、手や足をぷらぷらさせてほぐしているところに、サンデルのダミ声が飛ぶ。
「市街地はまだまだ先であるぞ! 何故ここで止まる!?」
「もう夜が近いからよ。あなたとシュウヤ君は街や城の地理に明るいかも知れないけれど、わたしたちはそうじゃないもの。見通しの悪い状況で無暗に動くのは、得策とは言えないわ。
それにお腹も空いたし、半日走り通しだから眠たいし。疲労困憊で敵陣に突入なんて、そこまで侮れるような敵ではなさそうだしね」
「……なるほど、もっともか。吾輩も腹が鳴っているところだ」
サンデルが納得したところで、サンクがリヤカーから食材と調理器具を取り出す。
「そう言うことだ。まずは飯にしよう」
「ういーっす」
近代化政策を推し進めている王国らしく、野外での調理にも、相当に高い技術が使われていた。
「近くに井戸があって良かったわね。パスタゆで放題だわ」
「同感。……っと、ソースはこんなもんでいいかな」
組み立て式の簡易コンロを使って調理する二人を見て、サンデルがうめく。
「まさかこんな場所で、缶詰や野の禽獣以外のものが食えるとは思わなんだ」
「兵士の精神衛生にも卿は気を配ってくれてるからな。戦場での数少ない楽しみを少しでも増やそうって言う、卿の温情さ。
それにギリギリの精神状態じゃ弾ひとつ、まともに当たらないってことは最近の研究でも明らかになってるそうだし。こうしてうまいもん食って、緊張を適度にほぐさないとな。
味見してみるか、サンデル、シュウヤ?」
「うん?」
サンクが向けた玉杓子の中のソースに、二人はスプーンをちょん、と付けて味を見る。
「うめぇー」
「うむ、うまいな。まるで本職並だ」
「何故か軍では調理実習も徹底してるのよね。変なもの食べてお腹壊さないようにって配慮なのかしら」
そんなことを言っているうちに調理が済み、4人は食事に着いた。
「いただきまーす」
秋也は手を合わせ、ミートソースのかかったパスタをちゅるる、と音を立ててすすり込む。
「……うまぁ」
至福に満ちた言葉が、勝手に口から漏れる。サンデルも口に運んだ途端、岩のような顔面をほころばせた。
「むむむ、確かにこれは、……うまいと言う他に言葉が無い」
二人の様子を見て、アルピナたちはにこっと微笑む。
「一杯作ったから、じゃんじゃん食べてくれ」
「かたじけない」
「……ってかシュウヤ君」
「ずずー。……はい?」
「君は西方のマナー、あんまり詳しくないみたいだな」
「そうね。音が……」
ズルズルと音を立てて麺をすする秋也に、アルピナとサンクが苦笑する。
「……立てちゃまずかったっスか?」
「ああ」「あんまりね」
秋也がチラ、と横のサンデルに目をやると、彼は肩を揺らして笑っていた。
アルピナたちから西方の礼儀作法を教わっているうちに、辺りに夕闇が迫る。
「……っと、そろそろ寝るとしよう。車と寝床は……、どうする?」
「空になった民家と納屋があっちにあるから、そこに隠しましょう。それにここなら、すぐ側で寝られるわ」
「では、吾輩がまず見張りに付こう」
手を挙げたサンデルに、アルピナはわずかに首を傾げる。
「うーん……、あんまり必要はないかもね」
「何故だ?」
「相手はわたしたちのこと、知ってるどころか予期すらしてないんじゃないか、って。軍本営の中ですら卿とチェスター司令しか知らない存在、非正規部隊よ?
相手は確かに我々のことを、それなりに研究して対策を練ってるとは思うけれど、それは正規活動に限ってのことでしょうし」
「いやしかし、やはり敵陣の真っ只中であるし、そこまで気を抜いてはどうかと」
「そうね、確かにマーニュ大尉の言う通りかも。気を付け過ぎ、ってことは無いし。
じゃあ、屋内の目立たない場所でお願いするわね。2時間半ずつの交代で、大尉のあとはわたし、それからシュウヤ君、サンクの順にしましょう」
「相分かった」
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アルトたちが首都に到着して半日後、夕暮れが迫ろうかと言う頃になって、秋也たちもカプラスランド郊外に到着した。
「ああ、腕が痛い。脚もつりそうだったわ。帰ったらお義父さんに『もっとステアリングとクラッチ軽くして』って言っとこう」
「尻も痛えよ。やっぱり線路の上を走るってのはきつかったな。事実上ここまでの直通とは言え、枕木乗ってる時のガクガク来る感じはなぁ。
もうちょっとショックの軽減、どうにかならないもんかな」
「ええ、それも伝えてみるわ」
アルピナとサンクが車を降り、手や足をぷらぷらさせてほぐしているところに、サンデルのダミ声が飛ぶ。
「市街地はまだまだ先であるぞ! 何故ここで止まる!?」
「もう夜が近いからよ。あなたとシュウヤ君は街や城の地理に明るいかも知れないけれど、わたしたちはそうじゃないもの。見通しの悪い状況で無暗に動くのは、得策とは言えないわ。
それにお腹も空いたし、半日走り通しだから眠たいし。疲労困憊で敵陣に突入なんて、そこまで侮れるような敵ではなさそうだしね」
「……なるほど、もっともか。吾輩も腹が鳴っているところだ」
サンデルが納得したところで、サンクがリヤカーから食材と調理器具を取り出す。
「そう言うことだ。まずは飯にしよう」
「ういーっす」
近代化政策を推し進めている王国らしく、野外での調理にも、相当に高い技術が使われていた。
「近くに井戸があって良かったわね。パスタゆで放題だわ」
「同感。……っと、ソースはこんなもんでいいかな」
組み立て式の簡易コンロを使って調理する二人を見て、サンデルがうめく。
「まさかこんな場所で、缶詰や野の禽獣以外のものが食えるとは思わなんだ」
「兵士の精神衛生にも卿は気を配ってくれてるからな。戦場での数少ない楽しみを少しでも増やそうって言う、卿の温情さ。
それにギリギリの精神状態じゃ弾ひとつ、まともに当たらないってことは最近の研究でも明らかになってるそうだし。こうしてうまいもん食って、緊張を適度にほぐさないとな。
味見してみるか、サンデル、シュウヤ?」
「うん?」
サンクが向けた玉杓子の中のソースに、二人はスプーンをちょん、と付けて味を見る。
「うめぇー」
「うむ、うまいな。まるで本職並だ」
「何故か軍では調理実習も徹底してるのよね。変なもの食べてお腹壊さないようにって配慮なのかしら」
そんなことを言っているうちに調理が済み、4人は食事に着いた。
「いただきまーす」
秋也は手を合わせ、ミートソースのかかったパスタをちゅるる、と音を立ててすすり込む。
「……うまぁ」
至福に満ちた言葉が、勝手に口から漏れる。サンデルも口に運んだ途端、岩のような顔面をほころばせた。
「むむむ、確かにこれは、……うまいと言う他に言葉が無い」
二人の様子を見て、アルピナたちはにこっと微笑む。
「一杯作ったから、じゃんじゃん食べてくれ」
「かたじけない」
「……ってかシュウヤ君」
「ずずー。……はい?」
「君は西方のマナー、あんまり詳しくないみたいだな」
「そうね。音が……」
ズルズルと音を立てて麺をすする秋也に、アルピナとサンクが苦笑する。
「……立てちゃまずかったっスか?」
「ああ」「あんまりね」
秋也がチラ、と横のサンデルに目をやると、彼は肩を揺らして笑っていた。
アルピナたちから西方の礼儀作法を教わっているうちに、辺りに夕闇が迫る。
「……っと、そろそろ寝るとしよう。車と寝床は……、どうする?」
「空になった民家と納屋があっちにあるから、そこに隠しましょう。それにここなら、すぐ側で寝られるわ」
「では、吾輩がまず見張りに付こう」
手を挙げたサンデルに、アルピナはわずかに首を傾げる。
「うーん……、あんまり必要はないかもね」
「何故だ?」
「相手はわたしたちのこと、知ってるどころか予期すらしてないんじゃないか、って。軍本営の中ですら卿とチェスター司令しか知らない存在、非正規部隊よ?
相手は確かに我々のことを、それなりに研究して対策を練ってるとは思うけれど、それは正規活動に限ってのことでしょうし」
「いやしかし、やはり敵陣の真っ只中であるし、そこまで気を抜いてはどうかと」
「そうね、確かにマーニュ大尉の言う通りかも。気を付け過ぎ、ってことは無いし。
じゃあ、屋内の目立たない場所でお願いするわね。2時間半ずつの交代で、大尉のあとはわたし、それからシュウヤ君、サンクの順にしましょう」
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今日の旅岡さん

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ちなみに、携行食料としてのパスタは、ビンラディンも食べていたことからもわかるように、非常に効率的な食糧です。
とはいえ、ゆでて湯を切って食べるのでは水と燃料が惜しいですから、スープの具にするか、いざとなったら天日に干されて小麦がα化しているやつを、そのままポリポリ食べるそうです。
ゲリラ豆知識。
とはいえ、ゆでて湯を切って食べるのでは水と燃料が惜しいですから、スープの具にするか、いざとなったら天日に干されて小麦がα化しているやつを、そのままポリポリ食べるそうです。
ゲリラ豆知識。
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調理実習でも、もしかしたら残り汁を使ったおいしいスープの作り方を教えているのかも。