「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・荒野抄 5
麒麟を巡る話、第123話。
気になる問題、あれこれ。
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5.
アルピナの言う通り、アルトたちは秋也たちのようなイレギュラーな戦力が既に帝国領内に入っていることなど、予想もしていないらしい。サンデルが見張りに付いてから秋也が起こされるまで、何も起こらなかったからだ。
秋也が見張りに立っている間も、民家の軒先にぶら下がったまますっかり萎びてしまっている干し肉を、山猫が二、三匹、ちょろちょろと食べに来るくらいのことしか起こらず、秋也は欠伸を噛み殺しながら民家の庭を眺めていた。
「ふあ、……あ~、あ」
この家からは庭より遠くの様子は分からず、帝都がどうなっているのかなど、さっぱり目視できない。
とは言えプラティノアール首都、シルバーレイクでの夜間に比べれば、その闇の濃度の違いははっきりと感じられた。
(向こうじゃ夜でも結構、ポツポツ灯りがあったけど、こっちは真っ暗だな。今日は曇ってるから、月は二つとも見えないし。
マジ暗い。猫獣人のオレでも何が何だか分かんねーくらい、暗い)
べっとりとした暗闇に、秋也はぼんやりと視線を泳がせていた。
と――秋也はその暗闇の向こう、林になっているところに、ほんのり白いものを見たような気がした。
(……ん? なんだ?)
目を瞬かせ、もう一度確認しようとしたが、やはり何も無いように見えた。
(気のせい? ……だよな?)
秋也は思わずぷるっと身を震わせ、逆立った耳と尻尾の毛を撫でつけた。
これ以外にはまったく特筆するようなことも起こらないまま、秋也は見張りを2時間こなし、それからサンクを起こして、そのまま眠りに就いた。
秋也にとっては横になって目を閉じ、開けたくらいの感覚だったが、どうやら2時間半経ったらしい。
「おい、起きろ! 出発するぞ!」
「ふ……んにゃ……」
「起きろと言ってるだろうが、まったく!」
べちべちとサンデルに頭を叩かれ、秋也はようやく目を覚ます。
「……ふ、ふあ!? ……あ、おはようございます」
「やっと目を覚ましたか! ほら、井戸で顔を洗ってこい! すぐ出発だ!」
「ふあ……、はーい」
まだぼんやりしている頭で、秋也は井戸の方へ向かう。
「……あれ?」
その途中、納屋の方に目を向けると、アルピナとサンクが真剣な顔で何かを話し合っているのが見えた。
「おはようございます、アルピナさん、サンクさん」
「あら、おはようシュウヤ君」
「よう、おはよう」
爽やかに挨拶を返してきたものの、二人の顔には困ったような色が浮かんでいる。
「どうしたんスか?」
「車の調子が悪いのよ。やっぱり研究用車輌だからかしら」
「え、じゃあ走れないんスか?」
「いや、そうでもないんだ。
詳しく言うとだな、後方に付いてたエンジンが半分、灼け付いてるみたいなんだよ。こうなると出力は半分以下になっちまう。熱膨張で中の部品が歪んで、滑らかに動かなくなってくるからな。
俺としちゃ、外した方がいいんじゃないかと思うんだが……」
「確かにエンジン一つ分軽くなればもう一方のエンジンの負担が減るし、長持ちするとは思うけれど、それでもまだ動くし、外すとなると手間だし、車のバランスがおかしくなっちゃうから。
それに勝手に部品外したらお義父さん、怒りそうだし」
「ですよねぇ」
と、サンクが車を指差し、こう提案した。
「決を採らないか? 外すか、このまま行くか」
「そうね。どちらにもメリットとデメリットはあるし、選ぶ価値はあるわ」
「あ、じゃあオレ、サンデルさん呼んで、……っと、来た」
やって来たサンデルに改めて状況を説明し、4人で決を採る。
「外す方に2。このままに、……2」
「割れちゃったわね」
「割れるよな、そりゃ。4人なんだし。……うーん」
サンクは頭をコリコリとかきながら、自分の意見を翻した。
「分かった、このままにしとこう。博士にヘソ曲げられても困る」
「ごめんね、サンク」
「いいよいいよ。壊れなきゃ問題ない」
その後簡単な整備を行い、4人は改めて、帝都に向けて出発した。
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5.
アルピナの言う通り、アルトたちは秋也たちのようなイレギュラーな戦力が既に帝国領内に入っていることなど、予想もしていないらしい。サンデルが見張りに付いてから秋也が起こされるまで、何も起こらなかったからだ。
秋也が見張りに立っている間も、民家の軒先にぶら下がったまますっかり萎びてしまっている干し肉を、山猫が二、三匹、ちょろちょろと食べに来るくらいのことしか起こらず、秋也は欠伸を噛み殺しながら民家の庭を眺めていた。
「ふあ、……あ~、あ」
この家からは庭より遠くの様子は分からず、帝都がどうなっているのかなど、さっぱり目視できない。
とは言えプラティノアール首都、シルバーレイクでの夜間に比べれば、その闇の濃度の違いははっきりと感じられた。
(向こうじゃ夜でも結構、ポツポツ灯りがあったけど、こっちは真っ暗だな。今日は曇ってるから、月は二つとも見えないし。
マジ暗い。猫獣人のオレでも何が何だか分かんねーくらい、暗い)
べっとりとした暗闇に、秋也はぼんやりと視線を泳がせていた。
と――秋也はその暗闇の向こう、林になっているところに、ほんのり白いものを見たような気がした。
(……ん? なんだ?)
目を瞬かせ、もう一度確認しようとしたが、やはり何も無いように見えた。
(気のせい? ……だよな?)
秋也は思わずぷるっと身を震わせ、逆立った耳と尻尾の毛を撫でつけた。
これ以外にはまったく特筆するようなことも起こらないまま、秋也は見張りを2時間こなし、それからサンクを起こして、そのまま眠りに就いた。
秋也にとっては横になって目を閉じ、開けたくらいの感覚だったが、どうやら2時間半経ったらしい。
「おい、起きろ! 出発するぞ!」
「ふ……んにゃ……」
「起きろと言ってるだろうが、まったく!」
べちべちとサンデルに頭を叩かれ、秋也はようやく目を覚ます。
「……ふ、ふあ!? ……あ、おはようございます」
「やっと目を覚ましたか! ほら、井戸で顔を洗ってこい! すぐ出発だ!」
「ふあ……、はーい」
まだぼんやりしている頭で、秋也は井戸の方へ向かう。
「……あれ?」
その途中、納屋の方に目を向けると、アルピナとサンクが真剣な顔で何かを話し合っているのが見えた。
「おはようございます、アルピナさん、サンクさん」
「あら、おはようシュウヤ君」
「よう、おはよう」
爽やかに挨拶を返してきたものの、二人の顔には困ったような色が浮かんでいる。
「どうしたんスか?」
「車の調子が悪いのよ。やっぱり研究用車輌だからかしら」
「え、じゃあ走れないんスか?」
「いや、そうでもないんだ。
詳しく言うとだな、後方に付いてたエンジンが半分、灼け付いてるみたいなんだよ。こうなると出力は半分以下になっちまう。熱膨張で中の部品が歪んで、滑らかに動かなくなってくるからな。
俺としちゃ、外した方がいいんじゃないかと思うんだが……」
「確かにエンジン一つ分軽くなればもう一方のエンジンの負担が減るし、長持ちするとは思うけれど、それでもまだ動くし、外すとなると手間だし、車のバランスがおかしくなっちゃうから。
それに勝手に部品外したらお義父さん、怒りそうだし」
「ですよねぇ」
と、サンクが車を指差し、こう提案した。
「決を採らないか? 外すか、このまま行くか」
「そうね。どちらにもメリットとデメリットはあるし、選ぶ価値はあるわ」
「あ、じゃあオレ、サンデルさん呼んで、……っと、来た」
やって来たサンデルに改めて状況を説明し、4人で決を採る。
「外す方に2。このままに、……2」
「割れちゃったわね」
「割れるよな、そりゃ。4人なんだし。……うーん」
サンクは頭をコリコリとかきながら、自分の意見を翻した。
「分かった、このままにしとこう。博士にヘソ曲げられても困る」
「ごめんね、サンク」
「いいよいいよ。壊れなきゃ問題ない」
その後簡単な整備を行い、4人は改めて、帝都に向けて出発した。
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