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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第3部

    白猫夢・崩都抄 4

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    麒麟を巡る話、第128話。
    まさか、の助け。

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    4.
    「お、覚えている! 覚えているぞ! シュウヤ、お前も覚えているだろう!?」
    「え? ……あ、何か見覚えある」
    「昨年の秋口、共に煉瓦運びをした者です」
    「あー、……うん、覚えてる」
     兵士は憔悴した顔で、こう続けた。
    「この4ヶ月がどれだけ地獄であったか……。
     参謀殿は狂ったように皇帝陛下奪還を唱え、内政や外交などは放置するばかりで。我々は勝ち目のない戦いに何度も、何度も投入され、その8割以上が犬死にしました。あの時一緒に煉瓦運びをした同僚は、最早一人もこの世にいません。
     そして生き残った私も、……危うくあなた方に殺されかける始末ですし」
    「す、すまん」
     頭を下げたサンデルに、兵士は小さく首を振って見せる。
    「いえ、肩は撃たれましたけど、……結果として生きてますから、それは、まあ。
     参謀殿はその上に、どこの馬の骨とも分からないならず者を、あろうことか我々の主君、新たな『フィッボ・モダス』皇帝陛下と仰ぐように命じてきました。
     武器を与えられて一時、浮かれてはいたものの……、こうやって拘束されて冷静になってみれば、我々はどんどんおかしな方向へ追いやられているような気がしてきて」
     兵士はここで言葉を切り、そして覇気の無い声で、こう続けた。
    「そこへ現れたのが4ヶ月前、この国を発ったマーニュ大尉殿です。
     話を聞けば、あのならず者らがさらってきた女の子を助け、さらにはあのならず者皇帝を討つおつもりだと言うではないですか。
     私はこれ以上変な道へ流されたくありません。だから協力できることは、協力します。……と言っても、内部の情報を伝えるのでやっとですが」
    「それで十分だ。教えてくれ」

     兵士から聞いた城内の様子は、次の通り。
     まず兵力は、前述した通り約300名。元々の帝国兵200名とアルト一味100名の混成軍となっているが、統率や連携らしきものは皆無であると言う。
    「我々にしてみれば、いきなり城を占拠した奴らですから。共に戦おうなどとは、とても思えません」
    「さもありなん」
     続いて、アルト一味が持ってきた兵器の質と量。
     アルピナが予想していた通り、城内の兵士全員に行き渡る程度の量が持ち込まれており、また、その総量を以てすれば、多少の軍勢は苦も無く蹴散らせるほどだと言う。
    「偽皇帝は金火狐商会から購入したと言っていましたが、私には信じられません」
    「普通に考えれば、いくら武器商人だからって、一般人に対装甲ライフルやら回転連射砲なんて物騒な代物、売るわけが無いからな」
    「アイツのコトだから盗んだんスよ、きっと」
    「どちらにせよ、城内に相当数が存在するのは間違いない。真正面から攻めれば敵う道理は無いだろうな」
    「それについてですが」
     続いて伝えられたのは、城内の兵力分布である。
     サンデルが言っていた通り、城内に兵士が詰める場所は大小の兵舎と軍本営、訓練場の4ヶ所となっている。しかし大量の兵器の扱いに慣れるため、そのほとんどが訓練場に集まっている。
     そして王宮すぐ横にあり、本来なら軍事行動の中枢となる軍本営に関しては、逆に手薄となっている。
    「元々参謀殿が単独で切り盛りしていましたし、現在においては将軍は一人もおらず、士官級の者もほとんどいないため、指揮系統は壊滅しています。
     参謀殿に見つかりさえしなければ、執務院から軍本営を抜け、王宮まで侵入するのは容易なはずです」
    「……となると、採る作戦はこうね」
     アルピナは地図の、王宮の南に印を付けた。
    「我々は正面からこの兵士が言った通りに進み、まず王宮前で陣取る。
     向かってくる敵兵に対しては回転連射砲で牽制し、でき得る限り足止めする。その間にシュウヤ君、身軽なあなたが王宮内を回り、ベルちゃんを助け出してちょうだい」
     続いてアルピナは、拘束していた兵士にもう一度声をかける。
    「服を貸してもらえるかしら? 安全に城内へ入りたいから」
    「え、……そ、その」
     と、これまで情報を提供してくれていた兵士は、困った顔をした。
    「わ、私のは破れてますし、肩。血だらけですし」
    「……ん?」
     と、アルピナが何かに気付いたらしく、相手の兎耳にぼそ、と耳打ちした。
    「……あ、……ええ、……それなら」
    「ありがとう。他の二人は男?」
    「ええ」
     この会話に、サンクもピンと来たらしい。
    「てっきり男3人だと思ってたが、違うのか?」
    「みたいよ。声低いから、わたしも男だと思ってた」
    「うぬ?」「えっ?」
     サンデルと秋也は互いに顔を見合わせ、それからその兵士の顔を確認した。
    「……兎獣人は男女とも背が低いからなぁ。軍帽も深く被っておったし。まったく分からなんだ」
    「オレもですよ……」
    「良く言われるんです。ロガン卿にもそう思われてましたし」
     二人の反応に、兵士はため息を漏らした。
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