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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第3部

    白猫夢・崩都抄 5

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    麒麟を巡る話、第129話。
    アルピナ班、危機一髪。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     兵士ら3人から軍服を借り――ちなみに女性であることが判明した1名は、アルピナの軍服を代わりに着せられた――秋也とアルピナ、そしてサンクの3名は帝国兵に擬装した。ちなみにサンデルは元々帝国兵のため、元の格好のままである。
    「これで城内へは侵入できるわね。後は目立たないよう侵入して……」
    「ベルちゃんを救い出して脱出、っスね」
    「できればトッドレール氏も暗殺したいが……、それは難しいだろうな」
    「そうね。もしかしたら訓練場の方にいて、大量の兵士と兵器に守られてることも考えられるし。そんな状況で無理に暗殺しようとすれば、いくら回転連射砲がこっちにあるからと言って、無事では済まないでしょうしね」
    「第一に考えるべきはベル嬢の身柄だ。それを忘れるな、シュウヤ」
    「ええ、分かってます。……任せて下さい」
     誰もいない城門を抜け、一行は玄関口となっている開けた庭に入る。ここも外同様に荒れており、4ヶ月前にはそれなりに磨かれていた石畳も、今は見る影もない。
    「正面が執務院、で間違いなかったわよね」
    「うむ」
     秋也たちは連射砲を四方で抱えて執務院の中に持ち込み、そのまま廊下を転がしていく。
    「まるで廃墟だな。マジで誰もいない」
    「むう……。憂うべきか、幸いと言うべきか」
     そのまま廊下を直進し、一行は執務院を抜ける。
    「右手に訓練場がある。左手奥には小兵舎だ。両側どちらも警戒せねばならん」
    「分かった」
     両側を恐る恐る確認しつつ、一行はさらに奥に控えている王宮へと歩を進める。
    「……く」
     と、サンクがうなる。
    「……まずい。見つかった」
    「えっ、……!」
     兵士が2名、こちらを向いている。しばらく間を置き、彼らは顔を見合わせ、目を凝らす素振りを見せた。
    「……?」「……」「……っ!」
     帝国側の兵士の格好をしても、やはり執務院をわざわざ通って連射砲を持ち込む輩を怪しいと判断したのか――兵士たちは訓練場を向き、何か叫び出した。
     一行もこの間、そのまま硬直していたが――。
    「……走れ、シュウヤ!」
    「えっ?」
    「ボーっとするな! 早く救出に行けッ!」
    「は、……はいっ!」
     こちらを見つめていた兵士たちが銃を手に向かってくるのとほぼ同時に、秋也は王宮へと向かって駆け出した。
     その間に、残った3人は連射砲の安全装置を外す。
    「止まれ! 止まらんと撃つぞッ!」
     サンデルの大声に、兵士たちは怯んだ様子を見せる。
    「11時方向に向けて! 威嚇射撃するわ!」
    「承知!」「了解ッ!」
     アルピナの号令に従い、サンクとサンデルは車輪をぐりっと回す。
    「発射ッ!」
     アルピナが発射レバーを回し、バババ……、と轟音を立てて弾丸を2、30発ほど撒き散らす。
    「ゎ……っ」
     こちらに向かっていた兵士はそれを見て、慌てて引き返した。
     その間に三人は、近くにあった樽や煉瓦で応急的な壁を作り、態勢を整える。
    「サンク、後ろに警戒して! 前はわたしと大尉が引き受けるわ!」
    「分かった!」
     サンクはアルピナたちに背を向け、小銃を構えた。
    「早く戻ってこいよ、シュウヤ……!」
     そうつぶやいているうちに、小兵舎の方角からも兵士が集まってくる。
    「ここは通行止めだ、通すかよッ!」
     サンクは小銃を立て続けに、兵士たちの方へ撃ち込んでいく。
    「サンク、無理な願いとは思うが……」
    「分かってるって、サンデル。あんたの同僚だもんな。……なるべく気を付けてるさ」
     そう返しつつ、サンクは兵士本体ではなく、足元や横の壁を撃っている。
     それでもそれなりの効果はあったらしく、向かって来ていた兵士たちは一様に引き返し、執務院の陰に隠れた。
    「……かたじけない」
    「礼なら無事に帰ってから言ってくれ、……そらよッ」
     20発ほど撃ち込んだところで、小兵舎からの接近がやむ。
    「警戒してくれたかな……?」
    「前からはまだまだ来るわ!」
     細かく威嚇射撃を繰り返し、敵の動きを牽制していたが、奥の方から対装甲ライフルらしき長筒を担いでくる者も見える。
     先んじて駆けつけた者は小銃や散弾銃を構え、絶え間なく撃ち込んできており、アルピナたちの防御は早くも崩れ始めていた。
    「威嚇だけじゃ、そう長くは持たないかも知れないわね……」
    「くそ……! 撃たねばならんのか!?」
     サンデルは苦渋に満ちた顔を見せながら、ギリギリと音を立てて車輪を握りしめた。

     と――その時だった。
    「待てーッ! 撃つなーッ!」
     訓練場の方角から、声が響いてきた。
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