「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・崩都抄 7
麒麟を巡る話、第131話。
男サンデル、暴れ回る。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
帝国兵らの注意が逸れたところで、アルピナたちは先程の倒れた兵士たちの側に駆け寄った。
「……ダメだ」
「こっちも」
3名中2名は頭と胸を撃ち抜かれており、既にこと切れている。
しかし、必死に同僚を説得したあの女性兵士は頭や胸ではなく肩を撃たれていたため、まだ息があった。
「おお、生きておったか! しっかりしろ、今手当てしてやるからな!」
サンデルは着ていた上着を引き裂き、包帯代わりにして止血を施す。
しかしその効果もあまり無いらしく、上着はあっと言う間に赤く染まる。
「肩、俺も同じところ撃ってたからな……。肩甲骨、ぐちゃぐちゃだろうな」
サンクも上着を脱ぎ、サンデルが施した上からさらに、きつく縛り上げる。
「何とか血が止まってくれればいいが……、祈るしかないな」
「……ぐ、ぐぐぐ」
と、サンデルが唸り出す。
「どうしたの? あなたもどこか……」
アルピナが尋ねかけたところで、サンデルは突如、吼えた。
「なんたる卑劣、なんたる外道か! あの賊共め、許しておけるかーッ!」
そう叫んだサンデルは、なんと一人で連射砲を担ぎ出し、ならず者目がけて駆け出した。
「うううおおおおおりゃああああーッ!」
「……男気だなぁ、サンデル」
「負けてられないわね。……行きましょう!」
二人も小銃の弾を込め直し、サンデルに続く。
「おらおらおらおらあああーッ!」
サンデルは肩と腕の筋肉をパンパンに膨れ上がらせ、連射砲を振り回す。
「不肖サンデル・マーニュ、加勢いたすぞ! そらそらそらあああーッ!」
重たく反動の強い連射砲を、サンデルはまるで小麦袋のように取り回し、アルト一味らを蹴散らしていく。
「どうだあッ! これがお前たちの運んできた悪魔ぞ! その身を以て、この威力と痛みを知るがいいッ!」
「なっ……!?」
「嘘だろ……」
「バケモノかよ!?」
まさか連射砲をそんな風に扱える者がいるとは思わず、帝国兵らも、ならず者らも一様に怯んでいる。
しかし多少は戦闘慣れしている兵士らの方が、状況の把握が早かった。
「……え、援軍だ! 助けが来たぞ!」
「お、おうッ!」
勢いを得た兵士たちは、ならず者たちに攻め込んでいく。
「う……」
数の上でも、戦闘経験でも圧倒的に劣るならず者たちに勝ち目は無く、勝負は早々に決着した。
「……に、逃げっぞ!」
「死にたくねぇー!」
「お助けぇ~!」
ならず者たちは情けない悲鳴を上げ、バタバタと逃げて行った。
「待て、待たんか貴様らあッ! ……ああ、くそッ! 弾切れか!」
「じゅ、十分じゃないかしら、サンデルさん?」
「……うん?」
アルピナにおずおずと声をかけられ、そこでようやく、サンデルは我に返った。
まだ騒然としている訓練場から早々に抜け出したアルピナたちは、執務院の壁に寄りかからせていた女性兵士のところに戻る。
「血は止まったみたいだな。……まあ、流石に目は覚ましてないみたいだが」
「まさか死んではおらんだろうな?」
サンデルは心配そうに彼女の脈を取り、生きていることを確認してほっとする。
「我々の窮地を救ってくれたと言うのに、見殺しになどできんからな。……救護班を呼んでくる」
「待って、大尉。流石にそこまではする暇が無いわ。シュウヤ君だって、まだ戻って来てないんだし」
アルピナにそう諭され、サンデルは苦い顔をする。
「確かに、……何だかんだと言って、もう2時間は経っておるからな。
場も落ち着いたし、我々が攻撃される心配は最早無し。追ってはどうだ?」
「そうだな……、そうした方がいいかも知れない」
三人は女性兵士をふたたび壁にもたれさせ、王宮へ向かおうとした。
と――王宮の上層から、がしゃん、と音が響いてくる。
「うん?」
三人が見上げるとほぼ同時に、何か長い物を抱えた黒い影が城の外――堀からつながっている湖へと落ちて行った。
「……今のは?」
「分からない。……まさかとは思うが」
「急ぎましょう!」
三人は全速力で、王宮へと駆け出した。
白猫夢・崩都抄 終
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帝国兵らの注意が逸れたところで、アルピナたちは先程の倒れた兵士たちの側に駆け寄った。
「……ダメだ」
「こっちも」
3名中2名は頭と胸を撃ち抜かれており、既にこと切れている。
しかし、必死に同僚を説得したあの女性兵士は頭や胸ではなく肩を撃たれていたため、まだ息があった。
「おお、生きておったか! しっかりしろ、今手当てしてやるからな!」
サンデルは着ていた上着を引き裂き、包帯代わりにして止血を施す。
しかしその効果もあまり無いらしく、上着はあっと言う間に赤く染まる。
「肩、俺も同じところ撃ってたからな……。肩甲骨、ぐちゃぐちゃだろうな」
サンクも上着を脱ぎ、サンデルが施した上からさらに、きつく縛り上げる。
「何とか血が止まってくれればいいが……、祈るしかないな」
「……ぐ、ぐぐぐ」
と、サンデルが唸り出す。
「どうしたの? あなたもどこか……」
アルピナが尋ねかけたところで、サンデルは突如、吼えた。
「なんたる卑劣、なんたる外道か! あの賊共め、許しておけるかーッ!」
そう叫んだサンデルは、なんと一人で連射砲を担ぎ出し、ならず者目がけて駆け出した。
「うううおおおおおりゃああああーッ!」
「……男気だなぁ、サンデル」
「負けてられないわね。……行きましょう!」
二人も小銃の弾を込め直し、サンデルに続く。
「おらおらおらおらあああーッ!」
サンデルは肩と腕の筋肉をパンパンに膨れ上がらせ、連射砲を振り回す。
「不肖サンデル・マーニュ、加勢いたすぞ! そらそらそらあああーッ!」
重たく反動の強い連射砲を、サンデルはまるで小麦袋のように取り回し、アルト一味らを蹴散らしていく。
「どうだあッ! これがお前たちの運んできた悪魔ぞ! その身を以て、この威力と痛みを知るがいいッ!」
「なっ……!?」
「嘘だろ……」
「バケモノかよ!?」
まさか連射砲をそんな風に扱える者がいるとは思わず、帝国兵らも、ならず者らも一様に怯んでいる。
しかし多少は戦闘慣れしている兵士らの方が、状況の把握が早かった。
「……え、援軍だ! 助けが来たぞ!」
「お、おうッ!」
勢いを得た兵士たちは、ならず者たちに攻め込んでいく。
「う……」
数の上でも、戦闘経験でも圧倒的に劣るならず者たちに勝ち目は無く、勝負は早々に決着した。
「……に、逃げっぞ!」
「死にたくねぇー!」
「お助けぇ~!」
ならず者たちは情けない悲鳴を上げ、バタバタと逃げて行った。
「待て、待たんか貴様らあッ! ……ああ、くそッ! 弾切れか!」
「じゅ、十分じゃないかしら、サンデルさん?」
「……うん?」
アルピナにおずおずと声をかけられ、そこでようやく、サンデルは我に返った。
まだ騒然としている訓練場から早々に抜け出したアルピナたちは、執務院の壁に寄りかからせていた女性兵士のところに戻る。
「血は止まったみたいだな。……まあ、流石に目は覚ましてないみたいだが」
「まさか死んではおらんだろうな?」
サンデルは心配そうに彼女の脈を取り、生きていることを確認してほっとする。
「我々の窮地を救ってくれたと言うのに、見殺しになどできんからな。……救護班を呼んでくる」
「待って、大尉。流石にそこまではする暇が無いわ。シュウヤ君だって、まだ戻って来てないんだし」
アルピナにそう諭され、サンデルは苦い顔をする。
「確かに、……何だかんだと言って、もう2時間は経っておるからな。
場も落ち着いたし、我々が攻撃される心配は最早無し。追ってはどうだ?」
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と――王宮の上層から、がしゃん、と音が響いてくる。
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