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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第3部

    白猫夢・賊帝抄 1

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    麒麟を巡る話、第132話。
    秋也とアルトの、最後の対決。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     一人、王宮内に飛び込んだ秋也は、あちこちでアルト一味に追い回されていた。
    「待てやゴルァ!」
    「生かして帰すかよッ!」
     階段の上から、あるいは柱の陰から、壁の向こうからと、大勢で秋也を追いかけ、銃や短剣で攻撃してくる。
    「うっせぇ! 邪魔すんなッ!」
     しかし相手は腕力も機転もこらえ性も無い、粗雑な盗賊たちである。
     ハーミット邸の時のように、四方八方から不意打ちに次ぐ不意打ちを仕掛けて攻め込んでくるならともかく、気配も消さず、真正面からのこのこと現れ、半ば蛮勇で襲ってくるだけの陣営ならば、少なからず場数を踏んできた秋也の敵ではない。
     峰打ちや拳骨で敵を蹴散らしながら、一階から二階、二階から三階へと強行突破を続けるうち、やがて相手の攻めが途切れる。
    「……もしかして、全員のしちゃったか?」
     そんな風にぽつりとつぶやいてみたが、答える者は誰もいない。
    「もう打ち止めなら、……まあ、ソレでいいか。楽だし」

     秋也は刀を握り締めたまま、障害の無くなった王宮内を回る。
    (ドコにいるんだろう、ベルちゃん?)
     当ても無くうろついているうちに、秋也は広い部屋に入り込んだ。
    「ココは……、玉座があるし、謁見の間? みたいなトコか」
    「みたいな、じゃねえよ。謁見の間だ」
     と、部屋の奥、玉座の背後にあった階段から、ゴツ、ゴツと威圧感のある音を立てて、アルトが現れた。
    「アルト……!」
    「ひひ、誰のことだ? ……ひひひ、もうアルト・トッドレールなんて破落戸は、この世にはいねえんだよ」
     アルトの手には鎖が握られており、それは階段の上部へと延びていた。
    「とっとと来いよ、お嬢ちゃんよぉ?」
    「やめてよ、引っ張らないで……!」
     ジャラジャラと重い音を立てて、階段からもう一人現れる。
    「ベルちゃん!」
    「シュウヤくん!」
     秋也の姿を確認するなり、ベルは階段を駆け下り、秋也の方へと向かおうとする。
    「おおっと」
     が、アルトが彼女の首にかけた鎖を引き、それを止める。
    「うっ、……げほ、げほっ、やめてよ!」
    「俺の許可なく、動くんじゃねえ。……へへへ、お前はこれから、俺の女になるんだからな」
    「女って、どう言うことだ! まさかお前……ッ」
     憤る秋也に、アルトは鎖をがっちりと握ったまま、こう返す。
    「慌てんじゃねえよ、シュウヤ。まだ、何にもしてねえぜ。まだ、な。
     お前をここでズタズタにしてから、死にゆくてめーの前でこの小娘を奪ってやろうって言う、最高の嫌がらせを思い付いたのさ。
     ま、こんな乳臭え小娘なんざ好みでも何でもねーが、お前を絶望のどん底に落っことして惨めにブチ殺す、一番の方法だと思ってよ。
     お前だけは俺の手で、地獄に落としてやりたくってな」
    「オレを……? いや、待てよ」
     秋也は浮かんだ疑問を、率直にぶつける。
    「オレが来るって、何故分かった? 王国にも帝国にもオレたち……、いや、オレがココへ来てるコトなんか、知られてないはずだ。
     それに王宮に侵入するのは、オレじゃない可能性だってあっただろ? なんでオレが来るの前提で、そんなコトを?」
    「……どうだっていいじゃねえか、んなことは」
     言葉を濁したアルトに、秋也は畳み掛けた。
    「白猫か? コレも白猫が、お前に伝えたコトなのか?」
    「……フン、勘の鈍いお前さんでも、いい加減気付いたか。
     ああ、そうだ。俺もお前さんと同じく、あのいけ好かねえ白猫の野郎から預言されてたんだよ。もう、5年も昔からな。
     前にもお前に言った通り、俺は『パスポーター』なんて呼ばれちゃいたが、腕ははっきり言って二流、できる仕事しかコソコソやらねー小物だった。
     ところが、だ。5年前から白猫が俺の夢に度々現れ、『キミを王様にしてあげるよ』っつって、あれこれと命令してきた。最初は確かにうぜえと思ってはいたが、言う通りにすればするほど、まるで筋書きが前もって書いてあったかのように、何もかもがうまく行くようになった。
     いや――奴が筋書きを全部書いてたんだろうな。俺とお前さんのように、白猫はあっちこっち、要所要所で色んな奴に命令して、すべてあいつの思い通りに行くよう、調整してたんだろう。
     とは言え俺にとっちゃ、そんなのは好都合以外の何事でもなかった。結果的に、俺は『どんな仕事でも絶対にしくじらない、凄腕の何でも屋』と思われるようになったんだからな。
     それが『第一段階』だった」
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