「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・賊帝抄 2
麒麟を巡る話、第133話。
白猫ショーの役者たち。
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2.
「『第一段階』、……か」
秋也が繰り返したその言葉に、アルトは引きつったような笑いを返した。
「ひひ……、そうさ、『第一段階』。あいつが良く使ってる言葉だ。
俺を有名で実績ある奴に仕立て上げた白猫は、次の段階へ計画を移した。シュウヤ、お前さんが西方に来ると白猫は俺に知らせ、同時にモダス帝亡命計画が長いこと進められてたってことも知らせてきた。
聞いた途端、俺は激昂したね。俺の人生メッチャメチャにしやがったあのクソ野郎が、その業も責任も全部放り投げて逃げようとしてるってんだからよ。だけれども白猫は、俺のそんな怒りも把握した上で、こう命じてきた。
『キミはあえてその亡命計画に加担し、しかし途中で誰にも知られないよう皇帝を殺し、その座を奪うんだ』ってな。
分かるか、シュウヤ? この命令がどれほど俺を、どれほど! 心から幸せに、爽快にしたか! 俺の人生を台無しにした奴をブッ殺し、その上その地位を丸ごと奪えるチャンスを、白猫は俺にくれたんだ。ケチの付いた『アルト・トッドレール』の人生を、『フィッボ・モダス』としてやり直せる、これ以上無いチャンスを、だ。
だがシュウヤ、白猫の命令をこなす一方で、どうも俺は、白猫がお前さんをひいきしているんじゃねえかと、そう感じていた」
「ひいき?」
アルトはつかんでいた鎖を、ぎちぎちと音を立てて握りしめる。
「国境越える時、お前を見捨てて逃げたことがあったが、あの前日に白猫から、『くれぐれもシュウヤだけは見捨てるなよ』と、わざわざ念押しされてたんだ。
だがその翌日、俺はお前さんと口論してたろ? あれでイライラっと来ててな、見捨てたところで俺が役目を全うすりゃどうとでもなるさ、そう思って馬車を走らせたんだ。
しかしそれは、白猫が望んでないシナリオだったらしい。白猫は俺に報復した。白猫は俺に、嘘の預言を教えたんだ。『絶体絶命のピンチに陥るコトがあるけど、フィッボを連れていれば殺されるようなコトは無い。逆に散々彼を罵って、ソレに反論しないような臆病者、助けるような価値もないカスと思わせれば、包囲の手は緩む』ってな。
で、そのまま実行してみりゃ、あのザマだ。喉に穴は開けられるわ、マチェレ王国のアジトは散々荒らされるわ、ならず者として追い回されるわ、だ!」
アルトが語気を荒げると同時に、みぢ、と音を立て、鎖の一部が歪んで千切れる。
「半死半生で逃げ回り、心底疲れ切った俺のところに、白猫はまた現れた。『コレで分かっただろ? もう二度と、ボクの言うコトに逆らうんじゃない。キミなんかボクの機嫌次第で、いつだって殺せるんだからな』って脅した上で、また預言を出してきた。
俺は従うしか無かった。殺されたくねえからな。で、アジトが潰されたことで俺を恨んでた奴らをなだめすかして懐柔したり、中央に渡って金火狐の戦術兵器を盗んだり、兵隊だらけのとこへ押し入ったりと、白猫は俺を散々いたぶりながら、あれこれと無理難題を命じ続けた。
その命令の端々に、白猫はお前を英雄に仕立て上げるため、俺を餌、踏み台にさせようって目論見が、ありありと見えていた。俺は散々いいように扱われ、結局ケチな悪役として仕立て上げられ、そして最後はお前を引き立たせる小悪党役で人生、終わらせられるんだろうなって絶望していた。
……でも、流れは段々おかしくなってたみたいだな。お前さん、白猫をブン殴ったんだってな?」
「……ああ。ハーミット卿を殺せとか、無茶なコト言って俺をボロカスにけなしたからな。アタマ来たんだ」
秋也がそう答えた途端、アルトはゲラゲラと笑い出した。
「ひひ、ひっひっひ……、お前さん、やっぱり馬鹿だな! 自分の身の安全も考えられねえ、正真正銘の大馬鹿だ!
白猫は飄々と振る舞ってるように見えて、実際は相当に執念深い性格をしてるんだぜ。『このボクの顔面に拳をブチ当てるなんて! 絶対に許してやるもんか!』っつって、相当キレてた。
そして俺にこう命じたのさ――『もう金輪際、シュウヤのアホタレなんか世話してやるもんか! アルト、お前が代わりに英雄になれ! 王宮に乗り込んでくるシュウヤをコレ以上無いくらいに無残に、残酷に屠殺して、お前がその役目を継げ!』ってな」
アルトは握っていた鎖を玉座に巻き付け、その一部に錠前をかけた。
「これでこのお嬢ちゃんは逃げられない。俺が外すか、シュウヤ、お前さんが俺を倒さない限りな。
さあ、戦おうぜシュウヤ! お前をこの小娘の前で引き裂き、お前に散々恥と恨みと絶望を目一杯に被せて、地獄の底へ叩き込んでやる!」
アルトはそう叫び、秋也に向かって飛びかかった。
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白猫ショーの役者たち。
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「『第一段階』、……か」
秋也が繰り返したその言葉に、アルトは引きつったような笑いを返した。
「ひひ……、そうさ、『第一段階』。あいつが良く使ってる言葉だ。
俺を有名で実績ある奴に仕立て上げた白猫は、次の段階へ計画を移した。シュウヤ、お前さんが西方に来ると白猫は俺に知らせ、同時にモダス帝亡命計画が長いこと進められてたってことも知らせてきた。
聞いた途端、俺は激昂したね。俺の人生メッチャメチャにしやがったあのクソ野郎が、その業も責任も全部放り投げて逃げようとしてるってんだからよ。だけれども白猫は、俺のそんな怒りも把握した上で、こう命じてきた。
『キミはあえてその亡命計画に加担し、しかし途中で誰にも知られないよう皇帝を殺し、その座を奪うんだ』ってな。
分かるか、シュウヤ? この命令がどれほど俺を、どれほど! 心から幸せに、爽快にしたか! 俺の人生を台無しにした奴をブッ殺し、その上その地位を丸ごと奪えるチャンスを、白猫は俺にくれたんだ。ケチの付いた『アルト・トッドレール』の人生を、『フィッボ・モダス』としてやり直せる、これ以上無いチャンスを、だ。
だがシュウヤ、白猫の命令をこなす一方で、どうも俺は、白猫がお前さんをひいきしているんじゃねえかと、そう感じていた」
「ひいき?」
アルトはつかんでいた鎖を、ぎちぎちと音を立てて握りしめる。
「国境越える時、お前を見捨てて逃げたことがあったが、あの前日に白猫から、『くれぐれもシュウヤだけは見捨てるなよ』と、わざわざ念押しされてたんだ。
だがその翌日、俺はお前さんと口論してたろ? あれでイライラっと来ててな、見捨てたところで俺が役目を全うすりゃどうとでもなるさ、そう思って馬車を走らせたんだ。
しかしそれは、白猫が望んでないシナリオだったらしい。白猫は俺に報復した。白猫は俺に、嘘の預言を教えたんだ。『絶体絶命のピンチに陥るコトがあるけど、フィッボを連れていれば殺されるようなコトは無い。逆に散々彼を罵って、ソレに反論しないような臆病者、助けるような価値もないカスと思わせれば、包囲の手は緩む』ってな。
で、そのまま実行してみりゃ、あのザマだ。喉に穴は開けられるわ、マチェレ王国のアジトは散々荒らされるわ、ならず者として追い回されるわ、だ!」
アルトが語気を荒げると同時に、みぢ、と音を立て、鎖の一部が歪んで千切れる。
「半死半生で逃げ回り、心底疲れ切った俺のところに、白猫はまた現れた。『コレで分かっただろ? もう二度と、ボクの言うコトに逆らうんじゃない。キミなんかボクの機嫌次第で、いつだって殺せるんだからな』って脅した上で、また預言を出してきた。
俺は従うしか無かった。殺されたくねえからな。で、アジトが潰されたことで俺を恨んでた奴らをなだめすかして懐柔したり、中央に渡って金火狐の戦術兵器を盗んだり、兵隊だらけのとこへ押し入ったりと、白猫は俺を散々いたぶりながら、あれこれと無理難題を命じ続けた。
その命令の端々に、白猫はお前を英雄に仕立て上げるため、俺を餌、踏み台にさせようって目論見が、ありありと見えていた。俺は散々いいように扱われ、結局ケチな悪役として仕立て上げられ、そして最後はお前を引き立たせる小悪党役で人生、終わらせられるんだろうなって絶望していた。
……でも、流れは段々おかしくなってたみたいだな。お前さん、白猫をブン殴ったんだってな?」
「……ああ。ハーミット卿を殺せとか、無茶なコト言って俺をボロカスにけなしたからな。アタマ来たんだ」
秋也がそう答えた途端、アルトはゲラゲラと笑い出した。
「ひひ、ひっひっひ……、お前さん、やっぱり馬鹿だな! 自分の身の安全も考えられねえ、正真正銘の大馬鹿だ!
白猫は飄々と振る舞ってるように見えて、実際は相当に執念深い性格をしてるんだぜ。『このボクの顔面に拳をブチ当てるなんて! 絶対に許してやるもんか!』っつって、相当キレてた。
そして俺にこう命じたのさ――『もう金輪際、シュウヤのアホタレなんか世話してやるもんか! アルト、お前が代わりに英雄になれ! 王宮に乗り込んでくるシュウヤをコレ以上無いくらいに無残に、残酷に屠殺して、お前がその役目を継げ!』ってな」
アルトは握っていた鎖を玉座に巻き付け、その一部に錠前をかけた。
「これでこのお嬢ちゃんは逃げられない。俺が外すか、シュウヤ、お前さんが俺を倒さない限りな。
さあ、戦おうぜシュウヤ! お前をこの小娘の前で引き裂き、お前に散々恥と恨みと絶望を目一杯に被せて、地獄の底へ叩き込んでやる!」
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~ Comment ~
なんというか……この世界の知的存在は、努力をせずに力を手に入れると、それだけアホになる、というという法則でもあるとですか?
イヤなエネルギー保存律(^_^;)
イヤなエネルギー保存律(^_^;)
- #1456 ポール・ブリッツ
- URL
- 2012.11/10 01:01
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NoTitle
有効利用できる人間がどれだけいるでしょうか。
恐らく99%の人間が遊興費で使い潰すでしょう。
それと同じことです。
ちなみにアルトも苦労せずに力を得たわけではなく、
白猫に散々いいようにこき使われた末に、ようやく手にした力です。
その上でこの振る舞いなので、アルトが元からアホなだけです。