「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・賊帝抄 3
麒麟を巡る話、第134話。
剣士対超人。
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3.
アルトが襲いかかってきた瞬間、秋也は全身の毛がバリバリと逆立つほど、その脳内一杯に危険を感じていた。
「……ッ」
その直感を受け、体が勝手に動く。とっさに構えた刀でアルトの初弾をギリギリ止め――たつもりだったが、気が付けば秋也は壁に叩き付けられていた。
「……げほっ!?」
何が起こったか分からず、秋也はゲホゲホと咳き込む。
「おいおい、トロくせえな? そんなにノロマだったか?」
アルトとの距離はこの時、3、4メートルほど離れていた。
(見えなかった……! 変だな、ここまで強くなるなんて?)
どうにか態勢を整え直し、今度は秋也が、アルトへと斬りかかった。
「りゃああッ!」
刀に火を灯し、自分が出せるであろう最高速度で振りかぶったが、刀は赤い軌跡を残して空を切るだけだった。
「ひっひ、どこ狙ってんだ?」「……!」
ぐい、と襟をつかまれ、引っ張られると同時に足払いをかけられて、秋也の視界が180度縦回転する。
「何だよ、これでおしまいか?」
間延びしたアルトの声が聞こえてくる。
秋也はこれから来る攻撃を察知し、両手を後頭部に回した。
「そーら、……よぉッ!」
ボキボキと音を立て、秋也の左手の甲が砕ける。しかしそれでも威力を殺し切れず、首に嫌な痛みが走った。
「がっ、あ、……あ、っ」
床を二度、三度跳ね、秋也はまた壁際に飛ばされた。
「はあっ、……はあっ、はあっ」
たった二回の攻撃で、既に秋也の視界は赤黒く染まっている。
(お、おかしい、強すぎる……。ほんの3日前、戦った時は、こんな、強さじゃ)
どうにか立ち上がろうとしたが、膝の力ががくんと抜け、体勢を大きく崩す。
秋也とアルトの力量差は、明らかに前回と逆転していた。
「っかしいな……?」
だが、それでもアルトにとっては満足いく状態ではないらしかった。
「今の一撃でお前の脳みそ、半分くらいぶっちゃけるはずだったんだがな。……いや、初弾の時点で、真っ二つにブッ千切るつもりだったんだけどな。
何で俺の速さに付いて来られる? 何で俺の力を受け止められる? 超人になったはずのこの俺に、お前はどうして対応できるんだ?」
「ちょ、う、じん……?」
声もまともに張れないほどダメージを負った秋也に、アルトはニヤニヤと笑って見せる。
「そうさ。俺は超人になった。だからこそお前と、対等以上に戦えるんだぜ。
ほれ、もっかい来てみろよ、シュウヤ。俺のやさっしーい情けだ、もう一太刀くらいは相手してやんぜ?」
アルトは床に落ちていた秋也の刀を蹴り、秋也のところに寄越す。
「なめ、や、がって……!」
胃から口の中に上っていた血をビチャビチャと吐き、秋也は刀を拾い、構える。
だが既に左手を粉砕骨折しているため、構えたその刀は、ガタガタと揺れている。
「てめー、なんかに、……やられて、たまるか、……ッ」
それでも全身に力をみなぎらせ、秋也はアルトに向かって駆け出した。
「『火閃』ッ!」
振り払った刀から火が撒き散らされ、アルトへ飛んで行く。
しかし、アルトはひょい、と事も無げにそれを避ける。
「……ッ」
秋也はもう一度、薙ぐ。それも避けられる。
「……ぁッ」
もう一度。
「ら……っ」
もう一度。
「は……ぁ」
もう一度。さらにもう一度。立て続けに、振るい続ける。
「……そ……っ、……くそっ、……くそ、ぉ、っ」
やがて、秋也の動きが止まる。
「どうした? もう、来ねえのか?」
「……くそ、……が……、っ」
体がぶるぶると震えだし、上段に構えた刀から火が消える。
「……ごぼ、ぼ、ぼごごっ」
それと同時に、秋也の口からおびただしい血が、泡になって吐き出された。
「……限界か? くくく、ザマぁねえな? 剣士が聞いて呆れるぜ!」
だが、それでも秋也は倒れない。
「……」
ガクガクと足を震わせ、刀を上段に構えたまま、眼だけがギラギラと生気を持って、アルトをにらんでいた。
「倒れないのは立派だな、……とでも言ってほしいか?」
アルトはニヤついた顔で、秋也との距離を詰める。
「俺がそんなクサいセリフ言うわけねえだろーが、バーカ! ただただ惨めで無様でみっともねえだけだぜ、無謀で能無しのお坊ちゃんよぉ?」
アルトは依然倒れない秋也の前で立ち止まり――その首をギリギリとつかむ。
「げ、げぼ、げぼっ、ごぼっ」
秋也の口から、さらに血の泡が流れ出す。顔からはみるみる血の気が引き、血走った眼はぐるんと白目をむいた。
「持って後5分、か? ならいい、丁度いい。
俺がお前の目の前で、あの小娘を手籠めにし、お前を絶望させるにゃ、十分な時間だ」
アルトは秋也の首をつかんだ手を、ぐいぐいと下げる。
「……ごぼ、がはっ」
その力に抗えず、秋也の体がついに、地面へと落とされた。
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アルトが襲いかかってきた瞬間、秋也は全身の毛がバリバリと逆立つほど、その脳内一杯に危険を感じていた。
「……ッ」
その直感を受け、体が勝手に動く。とっさに構えた刀でアルトの初弾をギリギリ止め――たつもりだったが、気が付けば秋也は壁に叩き付けられていた。
「……げほっ!?」
何が起こったか分からず、秋也はゲホゲホと咳き込む。
「おいおい、トロくせえな? そんなにノロマだったか?」
アルトとの距離はこの時、3、4メートルほど離れていた。
(見えなかった……! 変だな、ここまで強くなるなんて?)
どうにか態勢を整え直し、今度は秋也が、アルトへと斬りかかった。
「りゃああッ!」
刀に火を灯し、自分が出せるであろう最高速度で振りかぶったが、刀は赤い軌跡を残して空を切るだけだった。
「ひっひ、どこ狙ってんだ?」「……!」
ぐい、と襟をつかまれ、引っ張られると同時に足払いをかけられて、秋也の視界が180度縦回転する。
「何だよ、これでおしまいか?」
間延びしたアルトの声が聞こえてくる。
秋也はこれから来る攻撃を察知し、両手を後頭部に回した。
「そーら、……よぉッ!」
ボキボキと音を立て、秋也の左手の甲が砕ける。しかしそれでも威力を殺し切れず、首に嫌な痛みが走った。
「がっ、あ、……あ、っ」
床を二度、三度跳ね、秋也はまた壁際に飛ばされた。
「はあっ、……はあっ、はあっ」
たった二回の攻撃で、既に秋也の視界は赤黒く染まっている。
(お、おかしい、強すぎる……。ほんの3日前、戦った時は、こんな、強さじゃ)
どうにか立ち上がろうとしたが、膝の力ががくんと抜け、体勢を大きく崩す。
秋也とアルトの力量差は、明らかに前回と逆転していた。
「っかしいな……?」
だが、それでもアルトにとっては満足いく状態ではないらしかった。
「今の一撃でお前の脳みそ、半分くらいぶっちゃけるはずだったんだがな。……いや、初弾の時点で、真っ二つにブッ千切るつもりだったんだけどな。
何で俺の速さに付いて来られる? 何で俺の力を受け止められる? 超人になったはずのこの俺に、お前はどうして対応できるんだ?」
「ちょ、う、じん……?」
声もまともに張れないほどダメージを負った秋也に、アルトはニヤニヤと笑って見せる。
「そうさ。俺は超人になった。だからこそお前と、対等以上に戦えるんだぜ。
ほれ、もっかい来てみろよ、シュウヤ。俺のやさっしーい情けだ、もう一太刀くらいは相手してやんぜ?」
アルトは床に落ちていた秋也の刀を蹴り、秋也のところに寄越す。
「なめ、や、がって……!」
胃から口の中に上っていた血をビチャビチャと吐き、秋也は刀を拾い、構える。
だが既に左手を粉砕骨折しているため、構えたその刀は、ガタガタと揺れている。
「てめー、なんかに、……やられて、たまるか、……ッ」
それでも全身に力をみなぎらせ、秋也はアルトに向かって駆け出した。
「『火閃』ッ!」
振り払った刀から火が撒き散らされ、アルトへ飛んで行く。
しかし、アルトはひょい、と事も無げにそれを避ける。
「……ッ」
秋也はもう一度、薙ぐ。それも避けられる。
「……ぁッ」
もう一度。
「ら……っ」
もう一度。
「は……ぁ」
もう一度。さらにもう一度。立て続けに、振るい続ける。
「……そ……っ、……くそっ、……くそ、ぉ、っ」
やがて、秋也の動きが止まる。
「どうした? もう、来ねえのか?」
「……くそ、……が……、っ」
体がぶるぶると震えだし、上段に構えた刀から火が消える。
「……ごぼ、ぼ、ぼごごっ」
それと同時に、秋也の口からおびただしい血が、泡になって吐き出された。
「……限界か? くくく、ザマぁねえな? 剣士が聞いて呆れるぜ!」
だが、それでも秋也は倒れない。
「……」
ガクガクと足を震わせ、刀を上段に構えたまま、眼だけがギラギラと生気を持って、アルトをにらんでいた。
「倒れないのは立派だな、……とでも言ってほしいか?」
アルトはニヤついた顔で、秋也との距離を詰める。
「俺がそんなクサいセリフ言うわけねえだろーが、バーカ! ただただ惨めで無様でみっともねえだけだぜ、無謀で能無しのお坊ちゃんよぉ?」
アルトは依然倒れない秋也の前で立ち止まり――その首をギリギリとつかむ。
「げ、げぼ、げぼっ、ごぼっ」
秋也の口から、さらに血の泡が流れ出す。顔からはみるみる血の気が引き、血走った眼はぐるんと白目をむいた。
「持って後5分、か? ならいい、丁度いい。
俺がお前の目の前で、あの小娘を手籠めにし、お前を絶望させるにゃ、十分な時間だ」
アルトは秋也の首をつかんだ手を、ぐいぐいと下げる。
「……ごぼ、がはっ」
その力に抗えず、秋也の体がついに、地面へと落とされた。
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