「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・賊帝抄 5
麒麟を巡る話、第136話。
絶対渡さない、絶対離さない。
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5.
「……ひっく、……ひっく」
ベルの泣き声で、秋也はようやく我に返る。
「……ベルちゃん!」
秋也は慌てて、ベルに駆け寄った。
「大丈夫か!? な、何も、何にもされてないよな!?」
「しゅ、……」
ベルは秋也の顔を見るなり、また、大声を挙げて泣き出した。
「うああああん、じゅうやぐうううん」
「お、おい? まさかもう、何かされて……」
「ごわがっだよおお」
ベルは大泣きしながら、秋也にぎゅっと抱き着いた。
「……ああ、うん、もう大丈夫。大丈夫だから、うん。悪いヤツはオレがやっつけてやった。
もう大丈夫だから。安心してくれ、ベルちゃん」
「うん……うん……」
ベルはまだ嗚咽を漏らしながらも、どうにか泣き止む。
「ありがと、シュウヤくん、ひっく、……ありがと」
「いいよ、礼なんて。最初っから助けに来たつもりなんだから」
「でもっ、シュウヤくん、ひっく、死んじゃったかと思って」
「……あれ?」
そう言われ、秋也は自分の体を確かめる。
(おかしいな? オレ、確かに全身ぐちゃぐちゃになったかと思うくらい、ボコボコにされてたはずなんだけどな)
その間にベルは、自分の首にかかった鎖を外そうとしていたが、やがてふるふると首を振った。
「外れない。どうしよう、シュウヤくん?」
「あー……、と。刀、……はアイツと一緒にすっ飛んじまったな。
ちょっと待っててくれ。上に鍵、あるよな?」
「鍵、あいつが持ったまんま」
「うわ、マジか。どうすっかな」
秋也も鎖をにぎったまま、ベルと並んで座り込む。
と、ベルがぼそぼそ、と何かをつぶやく。
「ん? 何か言った?」
「……あの、ちょっと、聞きたいんだけどさ」
「何を?」
「さっき、あいつを殴り飛ばした、ちょっと前。
シュウヤくん、……えっと、……あたしのこと。『絶対渡すもんか』って言ってくれた、……よね?」
そう聞かれ、秋也は「えっ」と声を挙げた。
「あ、うん、まあ、言った、かな。言ったけど、あの、そんな、変な意味じゃなくて」
「変な意味で、……いいよ?」
そう言うなり、ベルはもう一度秋也に抱き着き――唇を重ねてきた。
「もごっ!?」
「シュウヤくん、……あのね?」
秋也から離れ、ベルは真っ赤な顔でこう言った。
「妹じゃなくなっていい?
あたしシュウヤくんのこと、……とっても、好きになっちゃったみたいなの」
「え。……えー、あー、うー、……マジで?」
口ごもる秋也を見て、ベルはまた泣きそうな顔をする。
「……ダメかな」
「な、……なワケないだろっ」
秋也は意を決し、こう返した。
「オレも何て言うか、その、アイツに襲われそうになってた君を見て、心の底からやめてくれって叫んでたんだ。
オレ以外の奴と結ばれるようなベルちゃ、……ベルなんて、絶対見たくない」
「あたしもだよ、……シュウヤ。あたし、君以外と絶対、キスとかなんてしない。絶対だよ」
二人は手を取り合い――そしてもう一度、互いに口付けした。
と――。
「お前らなぁ」
サンクの呆れた声が飛んでくる。
「人が心配してここまで来たってのに、のんきにちゅっちゅしてんなよなー」
「ひゃあっ!?」「おわっ!?」
二人は慌てて離れ――ようとしたが、いつの間にか絡んでいた鎖に互いが引っ張られ、揃ってこてんと倒れてしまった。
サンクに錠前を壊してもらい、ベルは秋也に手を引かれながら、王宮一階まで降りてきた。
アルピナとサンデルの二人と合流したところで、サンクが秋也たちを茶化す。
「こいつら俺が見付けた時、抱き合ってキスしてたぞ」
「なんと」
「あらまぁ」
「うー……」「もぉー……」
顔を真っ赤にする二人を見て、アルピナはクスクスと笑う。
「その様子なら、大丈夫そうね。
さあ、急いで帰りましょう。ここでじっとしていたら、いつトッドレール一味や、トッドレール本人に……」「あ、ソレなんスけど」
警戒しかけたアルピナに、秋也が事の顛末を説明した。
「え、じゃあ、トッドレール氏はあなたが始末しちゃったの?」
「ええ、そうなります」
「となると、先程の影はトッドであったか。刀で串刺しにされた上、3階から湖へと真っ逆さま、……となれば恐らく生きてはおらんだろうな」
「……です、よね」
サンデルはバン、と秋也の両肩を叩き、褒め称えた。
「よくやった、シュウヤ! 見事に使命を果たしたな!」
「ええ、まあ……」
あいまいに応えた秋也に、アルピナがこう声をかける。
「殺してしまったと悔やんでいるかも知れないけれど、トッドレール氏はそれこそ殺人をはじめ、相当に汚いことをやり尽くした卑劣漢よ。殺害・死亡はやむを得ない結果だと、わたしは思うわ。
……正当化できるような方便は無いけれど、それでもあなたのその行為で、多くの人の命と将来はきっと救われた。わたしも皆も、そう思ってるわ」
「……ありがとうございます。そう言っていただければ、オレも救われた気がします」
秋也はそれだけ返し、ベルの手を引いたまま、王宮の外へと出た。
白猫夢・賊帝抄 終
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絶対渡さない、絶対離さない。
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「……ひっく、……ひっく」
ベルの泣き声で、秋也はようやく我に返る。
「……ベルちゃん!」
秋也は慌てて、ベルに駆け寄った。
「大丈夫か!? な、何も、何にもされてないよな!?」
「しゅ、……」
ベルは秋也の顔を見るなり、また、大声を挙げて泣き出した。
「うああああん、じゅうやぐうううん」
「お、おい? まさかもう、何かされて……」
「ごわがっだよおお」
ベルは大泣きしながら、秋也にぎゅっと抱き着いた。
「……ああ、うん、もう大丈夫。大丈夫だから、うん。悪いヤツはオレがやっつけてやった。
もう大丈夫だから。安心してくれ、ベルちゃん」
「うん……うん……」
ベルはまだ嗚咽を漏らしながらも、どうにか泣き止む。
「ありがと、シュウヤくん、ひっく、……ありがと」
「いいよ、礼なんて。最初っから助けに来たつもりなんだから」
「でもっ、シュウヤくん、ひっく、死んじゃったかと思って」
「……あれ?」
そう言われ、秋也は自分の体を確かめる。
(おかしいな? オレ、確かに全身ぐちゃぐちゃになったかと思うくらい、ボコボコにされてたはずなんだけどな)
その間にベルは、自分の首にかかった鎖を外そうとしていたが、やがてふるふると首を振った。
「外れない。どうしよう、シュウヤくん?」
「あー……、と。刀、……はアイツと一緒にすっ飛んじまったな。
ちょっと待っててくれ。上に鍵、あるよな?」
「鍵、あいつが持ったまんま」
「うわ、マジか。どうすっかな」
秋也も鎖をにぎったまま、ベルと並んで座り込む。
と、ベルがぼそぼそ、と何かをつぶやく。
「ん? 何か言った?」
「……あの、ちょっと、聞きたいんだけどさ」
「何を?」
「さっき、あいつを殴り飛ばした、ちょっと前。
シュウヤくん、……えっと、……あたしのこと。『絶対渡すもんか』って言ってくれた、……よね?」
そう聞かれ、秋也は「えっ」と声を挙げた。
「あ、うん、まあ、言った、かな。言ったけど、あの、そんな、変な意味じゃなくて」
「変な意味で、……いいよ?」
そう言うなり、ベルはもう一度秋也に抱き着き――唇を重ねてきた。
「もごっ!?」
「シュウヤくん、……あのね?」
秋也から離れ、ベルは真っ赤な顔でこう言った。
「妹じゃなくなっていい?
あたしシュウヤくんのこと、……とっても、好きになっちゃったみたいなの」
「え。……えー、あー、うー、……マジで?」
口ごもる秋也を見て、ベルはまた泣きそうな顔をする。
「……ダメかな」
「な、……なワケないだろっ」
秋也は意を決し、こう返した。
「オレも何て言うか、その、アイツに襲われそうになってた君を見て、心の底からやめてくれって叫んでたんだ。
オレ以外の奴と結ばれるようなベルちゃ、……ベルなんて、絶対見たくない」
「あたしもだよ、……シュウヤ。あたし、君以外と絶対、キスとかなんてしない。絶対だよ」
二人は手を取り合い――そしてもう一度、互いに口付けした。
と――。
「お前らなぁ」
サンクの呆れた声が飛んでくる。
「人が心配してここまで来たってのに、のんきにちゅっちゅしてんなよなー」
「ひゃあっ!?」「おわっ!?」
二人は慌てて離れ――ようとしたが、いつの間にか絡んでいた鎖に互いが引っ張られ、揃ってこてんと倒れてしまった。
サンクに錠前を壊してもらい、ベルは秋也に手を引かれながら、王宮一階まで降りてきた。
アルピナとサンデルの二人と合流したところで、サンクが秋也たちを茶化す。
「こいつら俺が見付けた時、抱き合ってキスしてたぞ」
「なんと」
「あらまぁ」
「うー……」「もぉー……」
顔を真っ赤にする二人を見て、アルピナはクスクスと笑う。
「その様子なら、大丈夫そうね。
さあ、急いで帰りましょう。ここでじっとしていたら、いつトッドレール一味や、トッドレール本人に……」「あ、ソレなんスけど」
警戒しかけたアルピナに、秋也が事の顛末を説明した。
「え、じゃあ、トッドレール氏はあなたが始末しちゃったの?」
「ええ、そうなります」
「となると、先程の影はトッドであったか。刀で串刺しにされた上、3階から湖へと真っ逆さま、……となれば恐らく生きてはおらんだろうな」
「……です、よね」
サンデルはバン、と秋也の両肩を叩き、褒め称えた。
「よくやった、シュウヤ! 見事に使命を果たしたな!」
「ええ、まあ……」
あいまいに応えた秋也に、アルピナがこう声をかける。
「殺してしまったと悔やんでいるかも知れないけれど、トッドレール氏はそれこそ殺人をはじめ、相当に汚いことをやり尽くした卑劣漢よ。殺害・死亡はやむを得ない結果だと、わたしは思うわ。
……正当化できるような方便は無いけれど、それでもあなたのその行為で、多くの人の命と将来はきっと救われた。わたしも皆も、そう思ってるわ」
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