「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・追鉄抄 1
麒麟を巡る話、第137話。
敵陣、脱出へ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
城内には既に、戦おうと言う気配は無い。
そして城を後にし、荒れた市街地へ出ても、どこにも危険は感じられない。
秋也たちは誰にも襲われることなく、帝都を後にする。
「……帰りは楽に済みそうね」
アルピナの言葉に、一行は静かにうなずく。
警戒しつつ動いていた時に比べて3分の1程度の時間で、一行は車を隠した場所に到着した。
「なあ、アルピナ」
と、車の状態を見たサンクがこう提案する。
「やっぱり後ろのエンジンさ、外した方がいいんじゃないか? さっきより油の漏れ方がひどい。もう攻撃される心配も無いし、作業する時間はたっぷりあるぜ」
「……そうね。このまま動かしたら燃え出しそうだしね。外してリヤカーに載せましょ」
二人は革手袋をはめ、作業に取り掛かろうとする。
その間に秋也は、きょろきょろと辺りを見回していた。
「どうした? 敵らしきものがいるのか?」
その様子を見たサンデルが、訝しそうに尋ねる。
「いや、まあ、ソレも警戒してはいるんスけど」
秋也は腰に佩いた刀の鞘を指差し、こう続けた。
「刀、アルトの奴に刺しっ放しにしたんで、何か代わりになるもん無いかなーって」
「ふむ……。しかしこの辺りには木切れくらいしか無いな」
「ですよねぇ」
と、話を聞いていたアルピナが応じる。
「それなら車に備え付けてるレンチとかどうかしら? 斬れはしないけれど、叩くくらいならできるわよ」
「あー……、そうっスね、お借りします」
「作業が終わってからね」
「はーい」
とりあえずの得物が確保でき、秋也は一安心する。
と、秋也はここで、ベルがぼんやりとした顔でリヤカーにもたれかかっていることに気が付いた。
「……」
その顔には先程、秋也に見せたような安堵・高揚した様子は無く、落ち込んでいるように見える。
「ベル?」
「……」
「おーい、ベル」
「……あ」
何度か秋也に呼ばれたところで、ベルは顔を向ける。
「なに?」
「大丈夫か? 顔色、悪いぞ」
「うん、大丈夫。……うん」
「大丈夫に見えねーよ。どうした?」
重ねて尋ねられ、ベルはようやく答える。
「……あたし、……ダメだなぁって」
「へ?」
「兵士だって強がってたのに、何もできずにさらわれちゃうし、助けられちゃうし、今だって何もできないし」
「……」
「あたしに兵士なんて、向いてなかったのかな」
「……んなコト」
秋也は否定しようとしたが、アルピナはこう返してきた。
「そうね。わたしの目には、あんまり向いてそうには見えないわ」
「ちょ」
「えっ……」
絶句するベルに、アルピナはこう続ける。
「そんな反応するならベルちゃん、あなたはまだ頑張りたいって、頭のどこかでそう思ってるんじゃないかしら?」
「……」
「もし本当にできない、やりたくないって思うなら、あなたはまだ若いんだし。今からでも別の道を探せばいい。
それともこの失敗を返上したい、名誉挽回したいと言うなら、戻ってからまた頑張ればいい。あなたはまだいくらでもやり直せるし、取り返すこともできる。
シルバーレイクに戻るまでには十分時間があるんだから、その間にゆっくり、考えてみればいいんじゃないかしら。今、無理に結論を出す必要は無いわ」
「……はい」
と、そこでアルピナは秋也とベルを交互に見て、いたずらっぽく笑う。
「その辺り、彼氏さんと相談し合ってもいいと思うわよ。もしかしたら長い付き合いになるかも知れないんだしね」
「えっ、……あ、……はい」
「はは……」
秋也とベルは互いに顔を見合わせ、顔を真っ赤にして笑った。
そうこうする間に、黙々と作業していたサンクが顔を挙げる。
「こっち側のマウント周りは外れたぜ。そっちは?」
「あ、ごめん。まだ外せて……」
答えかけたアルピナが、途中で言葉を切る。
「……みんな!」
「ん?」
「乗って! 早く! サンク、すぐマウント付け直して! 無理矢理でいいから!」
「え? え?」
突然の命令に、全員が面食らう。
しかしアルピナの視線を辿ったところで、全員が大慌てでその命令に従った。
街道の端から、恐るべき速さで何かが迫っていたからである。
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敵陣、脱出へ。
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城内には既に、戦おうと言う気配は無い。
そして城を後にし、荒れた市街地へ出ても、どこにも危険は感じられない。
秋也たちは誰にも襲われることなく、帝都を後にする。
「……帰りは楽に済みそうね」
アルピナの言葉に、一行は静かにうなずく。
警戒しつつ動いていた時に比べて3分の1程度の時間で、一行は車を隠した場所に到着した。
「なあ、アルピナ」
と、車の状態を見たサンクがこう提案する。
「やっぱり後ろのエンジンさ、外した方がいいんじゃないか? さっきより油の漏れ方がひどい。もう攻撃される心配も無いし、作業する時間はたっぷりあるぜ」
「……そうね。このまま動かしたら燃え出しそうだしね。外してリヤカーに載せましょ」
二人は革手袋をはめ、作業に取り掛かろうとする。
その間に秋也は、きょろきょろと辺りを見回していた。
「どうした? 敵らしきものがいるのか?」
その様子を見たサンデルが、訝しそうに尋ねる。
「いや、まあ、ソレも警戒してはいるんスけど」
秋也は腰に佩いた刀の鞘を指差し、こう続けた。
「刀、アルトの奴に刺しっ放しにしたんで、何か代わりになるもん無いかなーって」
「ふむ……。しかしこの辺りには木切れくらいしか無いな」
「ですよねぇ」
と、話を聞いていたアルピナが応じる。
「それなら車に備え付けてるレンチとかどうかしら? 斬れはしないけれど、叩くくらいならできるわよ」
「あー……、そうっスね、お借りします」
「作業が終わってからね」
「はーい」
とりあえずの得物が確保でき、秋也は一安心する。
と、秋也はここで、ベルがぼんやりとした顔でリヤカーにもたれかかっていることに気が付いた。
「……」
その顔には先程、秋也に見せたような安堵・高揚した様子は無く、落ち込んでいるように見える。
「ベル?」
「……」
「おーい、ベル」
「……あ」
何度か秋也に呼ばれたところで、ベルは顔を向ける。
「なに?」
「大丈夫か? 顔色、悪いぞ」
「うん、大丈夫。……うん」
「大丈夫に見えねーよ。どうした?」
重ねて尋ねられ、ベルはようやく答える。
「……あたし、……ダメだなぁって」
「へ?」
「兵士だって強がってたのに、何もできずにさらわれちゃうし、助けられちゃうし、今だって何もできないし」
「……」
「あたしに兵士なんて、向いてなかったのかな」
「……んなコト」
秋也は否定しようとしたが、アルピナはこう返してきた。
「そうね。わたしの目には、あんまり向いてそうには見えないわ」
「ちょ」
「えっ……」
絶句するベルに、アルピナはこう続ける。
「そんな反応するならベルちゃん、あなたはまだ頑張りたいって、頭のどこかでそう思ってるんじゃないかしら?」
「……」
「もし本当にできない、やりたくないって思うなら、あなたはまだ若いんだし。今からでも別の道を探せばいい。
それともこの失敗を返上したい、名誉挽回したいと言うなら、戻ってからまた頑張ればいい。あなたはまだいくらでもやり直せるし、取り返すこともできる。
シルバーレイクに戻るまでには十分時間があるんだから、その間にゆっくり、考えてみればいいんじゃないかしら。今、無理に結論を出す必要は無いわ」
「……はい」
と、そこでアルピナは秋也とベルを交互に見て、いたずらっぽく笑う。
「その辺り、彼氏さんと相談し合ってもいいと思うわよ。もしかしたら長い付き合いになるかも知れないんだしね」
「えっ、……あ、……はい」
「はは……」
秋也とベルは互いに顔を見合わせ、顔を真っ赤にして笑った。
そうこうする間に、黙々と作業していたサンクが顔を挙げる。
「こっち側のマウント周りは外れたぜ。そっちは?」
「あ、ごめん。まだ外せて……」
答えかけたアルピナが、途中で言葉を切る。
「……みんな!」
「ん?」
「乗って! 早く! サンク、すぐマウント付け直して! 無理矢理でいいから!」
「え? え?」
突然の命令に、全員が面食らう。
しかしアルピナの視線を辿ったところで、全員が大慌てでその命令に従った。
街道の端から、恐るべき速さで何かが迫っていたからである。
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