黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第3部

    白猫夢・追鉄抄 2

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    麒麟を巡る話、第138話。
    最後の逃走。

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    2.
    「動け、動け、動けッ!」
     サンクが顔を真っ赤にしてクランクレバーを回し、エンジンを動かす。
     出発した当初とはまるで違う、ボロボロとくぐもった音を立ててエンジンが動き出すと同時に、アルピナがクラッチとアクセルとを目一杯に踏み込む。
    「飛ばすわよ!」
     サンクがリヤカーにつかまったところで、車は排気管から黒い煙と真っ赤な炎を勢い良く吐き出して発進する。
    「なんだ……ありゃあ!?」
     車後方から、ローブをまとった何かがゴツ、ゴツと石畳を砕きながら、猛スピードで迫ってくる。
    「……クサーラ卿!」
     遠目ながらもその姿を確認し、サンデルが叫ぶ。
    「クサーラ卿って……、帝国参謀の!?」
    「モダス帝が言っていた、『鉄の悪魔』か!」
     どうにかリヤカーに乗り込んだサンクが、備え付けられていた対装甲ライフルに手を伸ばす。
    「一目で分かるぜ――あれは、人間じゃない!」
     サンクは追ってくるアロイスに狙いを定め、叫ぶ。
    「耳を塞げ! 撃つぞ!」
     サンクは引き金を引き、ライフルを発射する。
     ドゴンと言う猛烈な炸裂音と同時に、追っていたアロイスが頭から仰向けに倒れた。
    「命中ッ!」
     サンクは右手を挙げかけ――すぐに青ざめ、構え直す。
    「……ふざけんな、嘘だろ!?」
    「ま、まだ追って来るのか!?」
     後方はるか遠くへ弾き飛ばされたアロイスは、事も無げにむくりと起き上がり、再び猛追し始める。
    「冗談じゃないぞ……! 機関車をブチ抜けるライフルで頭を撃って、何で生きてやがる!?」
    「大尉!」
     と、車を運転しているアルピナがサンデルを呼ぶ。
    「なんだ!?」
    「運転代わって! わたしは後方を援護するわ!」
    「な、何!? 吾輩がか!? 一度も触ったことが……」
     うろたえるサンデルに代わり、秋也が名乗り出る。
    「オレがやります!」
    「……お願い!」
     秋也はリヤカーから車へ飛び移り、アルピナが床まで踏み込んでいたペダルを、横から踏み込む。
     入れ替わりにアルピナがリヤカーへと移り、積んでいた小銃を取り出して構える。
    「ベルちゃんも撃って!」
    「は、はいっ!」
    「わ、吾輩も撃つぞ!」
     運転を秋也に任せ、残りの四人は対装甲ライフルと小銃とを、アロイスに向かって懸命に撃ち込む。
    「撃て、撃て、撃てーッ!」
     四人の放った弾丸は立て続けにアロイスの体中に命中し、アロイスは何度も転がり、倒れる。
     しかしその度に立ち上がり、追跡を止めようとはしない。
    「なんなの、あいつ……!」
    「何故追って来られるのだ!?」
     何度も撃たれ、転がるうちに、着ていたローブはぼろぼろに破け、やがてアロイスの体から離れる。
     そして露わになったアロイスの全身を見て、アルピナたちは息を呑んだ。
    「全身に、甲冑!?」
    「って言うより、あれはまるで……」
    「鉄塊が……走ってるみたい」
    「やはり人間では無い! 悪魔だ! でなければあんな鉄の塊が、あんな速さで迫れるものか!」
     一向に倒すことも振り切ることもできず、その上に、黒光りするアロイスの全身を目にした四人の心は、今まさに折れかけていた。
     そして秋也の方も、「くそッ」と絶望的な声で叫ぶ。
    「速度がガンガン落ちてる……! 目一杯踏み込んでるってのに!」
    「……!」
     アルピナが振り返り、後部エンジンの様子を確かめる。
    「やっぱり、外しておくべきだったか……!」
     とっくの昔にマウントが脱落した後部エンジンはブルブルと震え、接合部と言う接合部からはボタボタと黒い油が垂れ、あちこちで火が明滅していた。
    「エンジンの出力が落ちてる! これ以上は逃げられないわ!
     もう一度全員掃射よ! これが最後のチャンス!」
     四人は各々懸命に己を奮い立たせ、一斉に銃を構える。
    「一点集中よ! 頭を!」
     アルピナの号令に従い、四人はアロイスの頭に狙いを定める。
    「……撃てーッ!」
     一斉に発射された銃弾4発のうち、1発は残念ながら外れ、空を切る。
     しかし残り3発はアロイスの額に、確かに命中した。
    「グオ……ッ」
     アロイスのうめく声が、遠目ながら聞こえる。
     アロイスはもう一度倒れ、そして動かなくなった。
    「やった……!」
     アルピナたちは勝利を確信し、安堵のため息を漏らしかけた。

     しかし――それは次の瞬間、極度の緊張へと変わった。
    「うわあ……ッ!?」
     エンジンがついに限界に達し、爆発したのだ。
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