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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第3部

    白猫夢・追鉄抄 3

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    麒麟を巡る話、第139話。
    悪魔の降臨。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     後部エンジン爆発の衝撃により車は大きく後ろに傾き、牽引されていたリヤカーは逆に、前へとつんのめっていく。
    「お、わ、わわ、……だーッ!」
     V字に重なりかけた両車から、秋也は慌てて飛び降りる。
     同時に投げ出されかけた四人を、秋也は空中で何とかつかみ、目の前に迫ったリヤカーを蹴り、その反動で車の間から脱出した。
    「……う、……ぐ、……ぐああっ」
     着地した瞬間、自分を含めた5人分の体重が右脚に乗り、ボキボキと耳障りな音が響く。
    「い、……てぇ」
     それでもどうにか全員、車の衝突から免れることができ、よろよろと立ちあがったサンデルが秋也に肩を貸す。
    「ぶ、無事、か、っ」
    「だ、大丈夫、っス、から」
    「馬鹿を、い、言え、……くっ」
     立ち上がろうとするが、サンデルも秋也も、揃ってがくりと膝を着いてしまう。
    「み、みんな……、無事……?」
     アルピナが皆に呼びかける。その左肩は不自然なほどだらんと垂れ下がり、外れているのは明らかだった。
    「お……おう……」
     サンクは地面に座ったまま答える。どうやら彼も、足を折ったらしい。
    「……」
     ベルは答えない。
    「お、おい、ベル……?」
    「触っちゃ駄目! ……う、く、あう、っ」
     アルピナは肩を自分で入れ直し、倒れたままのベルに近付き、様子を確かめる。
    「気を失ってるだけみたい。擦り傷や打撲はあるけど、折れたり外れたりはしてないわ」
    「……良かった」
     秋也の気が緩み、意識が遠くなりかけた。

     だが――ゴツ、ゴツと言う重い足音が聞こえ、全員が硬直する。
    「……そんな……まさか……!」
    「冗談じゃねえ……!」
    「まだ……生きていると言うのか……!」
    「……くそ……!」
     近付いてきたアロイスはガリガリとした金属質の声を荒げ、こう言い渡す。
    「オ前タチハ……ガガッ、……二度モ私ノ御子……皇帝ヲ……、ガピュ、ガッ……亡キ者ニシタ……!
     ソノ愚行、蛮行……ガ、ガガガ……、万死ニ値スル……! 全員……ココデ……ガガ、ガピュ……死ヌガ良イ」
    「……~ッ!」
     秋也は折れた足を無理矢理に引きずり、落ちていた車のバンパーを構え、アロイスと対峙する。
    「させっかよ……!」
     アロイスは秋也の姿を見て、さらにこう告げる。
    「特ニ貴様……ガガガ……シュウヤ・コウ……コウ……黄……ッ!
     黄……! 貴様ノ血統ニハ……ガッ、ガガッ……心底、怒リト恨ミヲ覚エテイルゾッ! 許サン……ガピ……貴様ハ、貴様ハ微粒子レベルマデ細切レニシテクレルッ……!」
    「……やってみろよ……ッ!」
     秋也はバンパーを上段に構え、アロイスを待ち構えた。

     その時だった。
    「やらせないわよ、そんなこと」
     秋也の前に、とん、と軽い音を立てて、何者かが降り立った。
    「え……?」
     その人物を目にした秋也は唖然とし、思わずバンパーを落としてしまう。
    「……キ、貴様ハ……? ドウ言ウコトダ……?」
    「鉄の悪魔」アロイスもまた、相当に驚いているらしい。
    「何故……貴様ガ今更、ガ、ガッ……、コンナ場所ニ現レル!? アレカラ……ガピュッ……20年モ経ッテマダ、私ニ用ガアルト言ウノカ!?
     答エロ、トモエ・ホウドウ!」
    「アラン。……いいえ、アルだったわね。
     あなたったらまたラッパみたいな声してるのね、あはは……」
     秋也の目の前に現れたその女性は、けらけらとアロイスを嘲笑って見せる。
    「それにしても懐かしいわね、その名前。でももう古いわ。今の私は『克』。克渾沌よ。
     分かるわよね、こう言えば? わたしが何で『こんな場所』にいるのか、その理由が」
    「ガガ、ガガガー……『克』……ダト……!?」
     その名を聞いた途端、アロイスの声に揺らぎが生じる。
    「師匠、克大火からの言伝があるから、ブッ壊す前に伝えてあげる。
    『お前の企みは時代・場所・対象を問わず、発見次第跡形も無く、お前を含めて破壊・消滅させる。俺と俺の弟子による総力を以てして、な』、だそうよ。
     と言うわけで私も、あなたをボコボコにしてあ・げ・る」
    「オ、オオオ、オオ……!」
     秋也はこの時初めて、アロイスの挙動に恐怖じみたものが生じるのを見た。
    「デ、デキルモノカ……オ前ナドニ……!
     20年前、二人ガカリデヨウヤク……ガガッ……私ヲ倒セル程度ノ力量シカ無カッタオ前ガ……ガッ、ガピュッ……ノコノコト一人デヤッテ来テ……ソンナコトヲ……ガ、ガピー……デキルワケガ……」
    「でも、あなたの演算装置はそんな結論を導き出してないんじゃない?
     震えているわよ……うふふふ、ふ」
     渾沌は口元をにやっと歪ませ、剣を抜き払った。
    「『九紋竜』」
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