「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・追鉄抄 5
麒麟を巡る話、第141話。
ハーミット卿の伝言。
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5.
ハーミット卿の質問を受け、渾沌は戸惑ったような様子を見せた。
「え……? そう、だけど?」
「やっぱりか。いきなり『テレポート』で現れて、アルがどうとか言うような人なら、そうじゃないかと思ったけど、当たりだったね」
「……あなた、何?」
警戒する渾沌に対し、卿はこう返した。
「タイカのことを良く知っている者さ。
あ、そうだコントンさん。良ければタイカに、こう言っておいてくれないかな」
「なによ、人の師匠を馴れ馴れしく……」「ま、ま」
憮然とする渾沌に構わず、卿は渾沌に耳打ちする。
「……と伝えてくれ。そう言えば分かるから」
「嫌よ。何それ」
「おや」
卿はにっこりと笑い、こう続ける。
「見たくないかい、彼が驚く顔を?」
「は?」
「今の伝言を伝えたら、間違いなくタイカはそんな顔をするよ。しかも大慌てでこっちにやって来る」
「そんなわけ無いじゃない」
「するよ。きっとする。ま、どうしても嫌ならいいんだけどね」
「……」
渾沌はしばらく黙っていたが、やがて卿にこう返した。
「いいわ。だまされたと思って言ってみるわ。
その代わり師匠に怒られたり機嫌損ねられたりしたら、あんた責任取りなさいよ」
「いいとも。請け負おう」
卿はトン、と自分の胸を叩く。
「……んじゃ、ま。帰るわね」
渾沌は狐につままれたような様子で、その場から消えた。
残された一同も同様にきょとんとしている中、卿が冷静に提案した。
「とりあえず皆、中に入って休んでくれ。軍本営には無事に作戦終了したことを、僕が連絡しておくよ」
「あ、……はい」
「あの」
と、秋也が手を挙げる。
「ハーミットさん、渾沌のコト知ってるんですか?」
「いや、彼女の師匠のことは知ってるけど、彼女については何にも。
詳しい話は『彼』が来てからにするよ。さ、入って入って」
ハーミット卿がそそくさと屋敷に戻ったところで、一同は顔を見合わせる。
「……彼って、……まさか、『黒い悪魔』カツミが?」
「来るのか? マジで?」
「吾輩、もう頭が弾けてしまいそうだ。何が何だか……」
「あたしも頭ん中、うにゃうにゃ……」
「……卿の言う通り、中で休んだ方が良さそうだな」
「克渾沌、ただいま戻りました」
世界のどこか――渾沌はその場所に、半年ぶりに戻ってきた。
渾沌に背を向け、ソファに寝そべっていたその黒い男に、渾沌はいつものように飄々とした様子をまったく見せず、淡々と報告した。
「西方南部にてアルを発見し、破壊しました」
「そうか」
ソファからのそ、と身を乗り出し、相手がその細い目を向けてくる。
「奴の計画については?」
「今回、アルは西方南部にて御子を仕立て上げ、皇帝と称させて侵略行為を行わせていましたが、御子本人が侵略を拒否し、計画はほぼ破綻状態でした。
そして御子が隣国へ亡命したことと、築き上げてきた帝国が崩壊したことで、その計画は潰えたものと判断しております。再興の可能性は、まずありません」
「なるほど。……クク」
男は細い目をさらに細め、こう返す。
「よくやった。念のため、後2年か3年は西方で監視を続けてくれ。アルが舞い戻った時は……」
「ええ、即刻退治します」
「頼んだ」
男が再びソファにもたれかかろうとしたところで、渾沌はハーミット卿からの伝言を伝えた。
「あの、それとですね」
「まだ何かあるのか?」
「その、西方南部のプラティノアール王国にて、先生に言伝を頼まれました」
「俺に?」
「ええ。……その、『ランド・ファスタがタイカ・カツミに会いたがっている』と」
伝えたその瞬間、ソファからがたっ、と音が立った。
「誰からだ?」
再び振り向いたその顔は確かにハーミット卿が言った通り、驚きに満ちたものだった。
「え」
本当にそんな表情が見られるとは思わず、渾沌も面食らう。
「その伝言は誰からだ、と聞いている」
「プラティノアール王国の宰相、ネロ・ハーミット、……です」
「案内しろ。すぐに、だ」
予想もしていなかった反応を続け様に見せられ、渾沌の方が驚いていた。
白猫夢・追鉄抄 終
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ハーミット卿の伝言。
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ハーミット卿の質問を受け、渾沌は戸惑ったような様子を見せた。
「え……? そう、だけど?」
「やっぱりか。いきなり『テレポート』で現れて、アルがどうとか言うような人なら、そうじゃないかと思ったけど、当たりだったね」
「……あなた、何?」
警戒する渾沌に対し、卿はこう返した。
「タイカのことを良く知っている者さ。
あ、そうだコントンさん。良ければタイカに、こう言っておいてくれないかな」
「なによ、人の師匠を馴れ馴れしく……」「ま、ま」
憮然とする渾沌に構わず、卿は渾沌に耳打ちする。
「……と伝えてくれ。そう言えば分かるから」
「嫌よ。何それ」
「おや」
卿はにっこりと笑い、こう続ける。
「見たくないかい、彼が驚く顔を?」
「は?」
「今の伝言を伝えたら、間違いなくタイカはそんな顔をするよ。しかも大慌てでこっちにやって来る」
「そんなわけ無いじゃない」
「するよ。きっとする。ま、どうしても嫌ならいいんだけどね」
「……」
渾沌はしばらく黙っていたが、やがて卿にこう返した。
「いいわ。だまされたと思って言ってみるわ。
その代わり師匠に怒られたり機嫌損ねられたりしたら、あんた責任取りなさいよ」
「いいとも。請け負おう」
卿はトン、と自分の胸を叩く。
「……んじゃ、ま。帰るわね」
渾沌は狐につままれたような様子で、その場から消えた。
残された一同も同様にきょとんとしている中、卿が冷静に提案した。
「とりあえず皆、中に入って休んでくれ。軍本営には無事に作戦終了したことを、僕が連絡しておくよ」
「あ、……はい」
「あの」
と、秋也が手を挙げる。
「ハーミットさん、渾沌のコト知ってるんですか?」
「いや、彼女の師匠のことは知ってるけど、彼女については何にも。
詳しい話は『彼』が来てからにするよ。さ、入って入って」
ハーミット卿がそそくさと屋敷に戻ったところで、一同は顔を見合わせる。
「……彼って、……まさか、『黒い悪魔』カツミが?」
「来るのか? マジで?」
「吾輩、もう頭が弾けてしまいそうだ。何が何だか……」
「あたしも頭ん中、うにゃうにゃ……」
「……卿の言う通り、中で休んだ方が良さそうだな」
「克渾沌、ただいま戻りました」
世界のどこか――渾沌はその場所に、半年ぶりに戻ってきた。
渾沌に背を向け、ソファに寝そべっていたその黒い男に、渾沌はいつものように飄々とした様子をまったく見せず、淡々と報告した。
「西方南部にてアルを発見し、破壊しました」
「そうか」
ソファからのそ、と身を乗り出し、相手がその細い目を向けてくる。
「奴の計画については?」
「今回、アルは西方南部にて御子を仕立て上げ、皇帝と称させて侵略行為を行わせていましたが、御子本人が侵略を拒否し、計画はほぼ破綻状態でした。
そして御子が隣国へ亡命したことと、築き上げてきた帝国が崩壊したことで、その計画は潰えたものと判断しております。再興の可能性は、まずありません」
「なるほど。……クク」
男は細い目をさらに細め、こう返す。
「よくやった。念のため、後2年か3年は西方で監視を続けてくれ。アルが舞い戻った時は……」
「ええ、即刻退治します」
「頼んだ」
男が再びソファにもたれかかろうとしたところで、渾沌はハーミット卿からの伝言を伝えた。
「あの、それとですね」
「まだ何かあるのか?」
「その、西方南部のプラティノアール王国にて、先生に言伝を頼まれました」
「俺に?」
「ええ。……その、『ランド・ファスタがタイカ・カツミに会いたがっている』と」
伝えたその瞬間、ソファからがたっ、と音が立った。
「誰からだ?」
再び振り向いたその顔は確かにハーミット卿が言った通り、驚きに満ちたものだった。
「え」
本当にそんな表情が見られるとは思わず、渾沌も面食らう。
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