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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第3部

    白猫夢・黒々抄 1

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    麒麟を巡る話、第142話。
    200年ぶりの再会。

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    1.
    「囲碁、……は打てそうにないかな」
     ぼそ、とそうつぶやいたハーミット卿に、秋也は苦い顔を返した。
    「流石にきついっス」
    「ごめんごめん。……遅いな。来てくれると思ったんだけど」
     その言葉に、ベルは怪訝な表情を見せる。
    「ねえ、パパ」
    「うん?」
    「タイカ・カツミに会ったことがあるの?」
    「あるよ。いや、それ以上と言っていい。
     結構長いこと、一緒に仕事をしていたんだ。ジーナとも一緒にね」
     それを聞いて、疲れ切ってソファへもたれ込んでいた一同が顔を挙げる。
    「『黒い悪魔』とですか?」
    「うん」
    「いつです?」
    「ここで大臣やる前」
    「旅してたってパパ、言ってなかった?」
    「うん、そのさらに前」
    「仕事と言うのは、一体?」
    「簡単に言うと、……うーん、簡単には言いにくいかな。『ずっと昔』に、とある大きな国があってね、それを倒したんだ。タイカと一緒に」
    「大きな国?」
    「うん、世界中を支配するくらいの大きな国さ」
    「え……?」
     どんなに質問を重ねても、一向に納得の行く回答が、ハーミット卿の口から出てこない。
    「さっぱり分かんない。パパって一体、何をしてた人なの?」
    「……」
     ハーミット卿は黒眼鏡を外し、青と黒のオッドアイを皆に晒した。
    「これから僕とタイカが話す内容はね、全部本当の話なんだ。それをまず、分かってほしい。
     それから、その話はここにいるみんなだけに伝えるつもりだ。口外は絶対に、しないでほしい。いいかな?」
    「ん、まあ……」
    「卿の願いとあらば、誓って口外なぞいたしません」
    「同じく」
     と、秋也が手を挙げる。
    「言えない話なら、聞かせない方がいいんじゃ……?」
    「そうも行かないんだ。君たちにはいざと言う時の証人になってほしいし」
    「証人?」
    「確かにタイカは嘘はつかない。だけど悪い癖があって、本当のこともしれっと隠そうとする性分があるからね。
     その、彼が隠そうとしてた秘密を今回、僕は詳(つまび)らかにするつもりだ。そしてそれについてタイカが肯定したと言うことを、確認してほしい。いいかな?」
    「なるほど、分かりました」
     全員の承諾を確認し、ハーミット卿は傍らに座っていた妻、ジーナの肩を抱く。
    「僕、ネロ・ハーミットとジーナ・ルーカスと言う人間は、実は存在しない」
    「え?」
    「これは偽名なんだ。何故かって言うと、本名がちょっと、あんまりにも有名過ぎるからなんだ」
    「偽名……?」
    「何か犯罪を犯した、と?」
    「それは『はい』とも『いいえ』とも言えないな。歴史が変わるくらいの大事件だから、正悪の判断は付けようが無い。
     ただ、そう言うのは抜きにして、ね。本名を名乗ってしまうと、『こいつは頭がおかしい』と思われちゃうくらいの、それくらい世界中に広まった名前なんだ」
    「意味が……、分かりかねます」
     率直に述べるアルピナに、ハーミット卿は肩をすくめる。
    「だろうね。ただ、僕の口から言っても信用は絶対にしてもらえないから、『彼』から僕とジーナが何者か、紹介してもらおうと思って。
     ごめんね、回りくどくて……」
     と、ジーナが顔を挙げる。
    「来たようじゃ」
    「そうか。……入ってくれ、タイカ」

     居間の外から、足音が二人分聞こえてくる。
     入って来たのは渾沌と、頭から肌の色、服、爪先まで全身真っ黒な、細い目をした長身の男だった。
    「……!」
     男の姿を見た秋也たちは、一様に絶句する。
    「しばらく、……だったな、ランド」
     その黒い男は、ハーミット卿に対してそう挨拶した。
    「しばらくだね、タイカ」
     ハーミット卿は立ち上がり、その黒い男を紹介した。
    「みんな、彼の名前は知っているみたいだけど、会うのは多分初めてだろう。
     彼が『黒い悪魔』『契約の悪魔』『黒炎教団の現人神』『古今無双の奸雄』『不死身の魔術師』――タイカ・カツミだ」
    「……っ」
     ハーミット卿とジーナを除く全員が、ゴクリと喉を鳴らす。
     しかしただ一人、ベルだけは恐る恐る、口を開いた。
    「……ランド、って誰?」
     それに応えたのは、大火だった。
    「今、俺の前に立っている、黒眼鏡の長耳のことだ」
    「その通り」
     ハーミット卿はにこやかな顔で、大火に向かってこう頼んだ。
    「タイカ、悪いけど僕と、あそこに座っている緑髪の彼女。
     僕ら二人の名前を、フルネームで答えてくれないかい?」
    「ああ」
     大火は静かに、ハーミット卿とジーナをこう呼んだ。
    「ランド・ファスタとイール・サンドラだ」

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    なぜ「蒼天剣」から「火紅狐」へ話を進め、
    「白猫夢」の時代に戻って来たか。
    その理由は、この二人でした。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    大丈夫、ポールさんの脳神経はまだまだ大丈夫です。
    先日は失礼しました(;´∀`)

    前作「火紅狐」の第3部と前々作「蒼天剣」の第8部辺りを読み返していただければ、この二人の活躍が書かれています。

    NoTitle 

    話が長編過ぎて、名前に聞き覚えはあるもののどんなことをしたどんな人だったのかすっかり忘れ果てている今日この頃。

    ……脳細胞の老化現象みたい。それかわたしの脳神経のどこかが切れてしまったか(^^;)
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