「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・黒々抄 2
麒麟を巡る話、第143話。
歴史の裏の疑問。
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2.
大火がそう答えた瞬間、そこにいた全員が仰天した。
その驚き様は、大火が現れた時以上だった。
「ランド? ……ランド・ファスタ!?」
「え、嘘でしょ、そんな?」
「き、聞いたことがあるぞ! 確か3、いや4世紀の……」
「『千里眼鏡』ファスタ卿と『猫姫』サンドラ将軍……!?」
「……うそ」
顔を真っ青にし、倒れそうになるベルを、秋也は慌てて支える。
「嘘ではない。その二人はランドとイールだ。俺が保証する」
「ほ、保証ったって」
サンクがうろたえた声で、大火に反論する。
「第一、あんたがタイカ・カツミだってことも……」
「そう思うのか?」
「……いや、……そんだけ威圧感出されたら、……マジなんだろうなとは、はい」
一同が静まったところで、ハーミット卿が口を開く。
「聞いての通りだ。僕の本名は、ランド・ファスタ。本来なら6世紀の今、生きているはずの無い男さ。
しかしこうして今、ネロ・ハーミットと名乗り、この6世紀に生きている。その理由は、……実を言えば僕にも分からない。だもんで、それをタイカに教えてもらいたかったのさ」
ハーミット卿は大火に向き直り、改めて尋ねる。
「そう言うわけで、教えてほしいんだ。
何故、僕とジーナ、……いや、イールはこの時代に蘇ることになったのか? それを説明してほしい。きっちりとね」
「……こた」「答える義理はあるはずだ」
大火の言おうとすることを先読みし、ハーミット卿は詰問する。
「何故なら君は、イールに対して説明責任を果たしてないからだ」
「説明責任だと?」
「イールを封じた後、彼女を何に利用したか。それを君は伝えてない。
イールは『僕に会える』とは聞いたけど、『君に利用される』とは聞いてない。そうだよね、イール」
「うむ、聞いておらんし、利用されたことについて未だ納得もしておらん。である以上、何らかの『弁償』をしてもらわねば気が済まんのう」
ジーナにそう言われ、大火は顔をしかめる。
「……なるほど」
大火はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「では――どこから話すか――そうだな、イールを封じる直前から話した方が、説明もしやすいだろうか」
双月暦315年3月、北方大陸沿岸部の寒村、ブラックウッド近辺の丘陵地帯。
「あたしはどうなったって構わないのよ」
大火に対する反乱軍を結成した「猫姫」イール・サンドラ元准将は、その丘の頂上にて大火に対し、己の激情を吐露していた。
「ソレでアイツのところに逝けるなら、何だってするわ」
「……イール。お前は勘違いしている」
大火は彼女に向かって、こう伝えた。
「ランドについてだが、あいつは死んでいない。やむを得ない事情で封印はしたが、な」
「……は?」
それを聞いたイールは、責めるような視線を大火に向けた。
「何言ってんの? アンタが殺したって……」
「あの鉄クズからそう聞いたのか? それはあいつが、実際に見たと言ったのか? そしてお前も、実際に見たと?」
「……言って、ないけど」
イールは一瞬、納得しかけるが、なお食い下がる。
「……じゃあ。……じゃあ! 逆に証拠はあるの!? あいつが……」
「耐え切れれば、見せてやろう」
大火は刀を掲げ、呪文を唱える。
その瞬間、イールの視界は真っ白に染まった。
「……う……っ」
イールは目を覚まし、辺りを見回そうとした。
しかし一杯に目を見開いても、何も見えない。
「気が付いたか」
大火の声がする。
「ええ。……灯り、無いの?」
「うん?」
ひた、と左頬に革手袋の感触が伝わる。
「……ふむ」
「な……、何?」
続いて、右頬にも革手袋を当てられた。
「大きな代償だったな」
「え?」
「お前はどうやら、己の限界以上の術を行使したようだ」
何を言っているか分からず、イールは尋ねる。
「何言ってんの?」
「その目、恐らくは治るまい」
「え? 目? ……え?」
「術の副作用とでも言おうか。夥(おびただ)しい威力の雷術を行使した影響で、お前の神経は大きく変質している。特に視神経が、な。
自然治癒や現代の医療、俺の術を以てしても、治すことはできん」
「そんな……!」
言葉を失うイールに、大火は本題を切り出してきた。
「それよりも、だ。見えていないとなると説明が難しいが、ここにランドがいる」
「え……!」
イールは暗い視界を懸命に眺め、どうにか前方にある、何か大きな物体を、ぼんやりとではあるが確認することができた。
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歴史の裏の疑問。
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大火がそう答えた瞬間、そこにいた全員が仰天した。
その驚き様は、大火が現れた時以上だった。
「ランド? ……ランド・ファスタ!?」
「え、嘘でしょ、そんな?」
「き、聞いたことがあるぞ! 確か3、いや4世紀の……」
「『千里眼鏡』ファスタ卿と『猫姫』サンドラ将軍……!?」
「……うそ」
顔を真っ青にし、倒れそうになるベルを、秋也は慌てて支える。
「嘘ではない。その二人はランドとイールだ。俺が保証する」
「ほ、保証ったって」
サンクがうろたえた声で、大火に反論する。
「第一、あんたがタイカ・カツミだってことも……」
「そう思うのか?」
「……いや、……そんだけ威圧感出されたら、……マジなんだろうなとは、はい」
一同が静まったところで、ハーミット卿が口を開く。
「聞いての通りだ。僕の本名は、ランド・ファスタ。本来なら6世紀の今、生きているはずの無い男さ。
しかしこうして今、ネロ・ハーミットと名乗り、この6世紀に生きている。その理由は、……実を言えば僕にも分からない。だもんで、それをタイカに教えてもらいたかったのさ」
ハーミット卿は大火に向き直り、改めて尋ねる。
「そう言うわけで、教えてほしいんだ。
何故、僕とジーナ、……いや、イールはこの時代に蘇ることになったのか? それを説明してほしい。きっちりとね」
「……こた」「答える義理はあるはずだ」
大火の言おうとすることを先読みし、ハーミット卿は詰問する。
「何故なら君は、イールに対して説明責任を果たしてないからだ」
「説明責任だと?」
「イールを封じた後、彼女を何に利用したか。それを君は伝えてない。
イールは『僕に会える』とは聞いたけど、『君に利用される』とは聞いてない。そうだよね、イール」
「うむ、聞いておらんし、利用されたことについて未だ納得もしておらん。である以上、何らかの『弁償』をしてもらわねば気が済まんのう」
ジーナにそう言われ、大火は顔をしかめる。
「……なるほど」
大火はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「では――どこから話すか――そうだな、イールを封じる直前から話した方が、説明もしやすいだろうか」
双月暦315年3月、北方大陸沿岸部の寒村、ブラックウッド近辺の丘陵地帯。
「あたしはどうなったって構わないのよ」
大火に対する反乱軍を結成した「猫姫」イール・サンドラ元准将は、その丘の頂上にて大火に対し、己の激情を吐露していた。
「ソレでアイツのところに逝けるなら、何だってするわ」
「……イール。お前は勘違いしている」
大火は彼女に向かって、こう伝えた。
「ランドについてだが、あいつは死んでいない。やむを得ない事情で封印はしたが、な」
「……は?」
それを聞いたイールは、責めるような視線を大火に向けた。
「何言ってんの? アンタが殺したって……」
「あの鉄クズからそう聞いたのか? それはあいつが、実際に見たと言ったのか? そしてお前も、実際に見たと?」
「……言って、ないけど」
イールは一瞬、納得しかけるが、なお食い下がる。
「……じゃあ。……じゃあ! 逆に証拠はあるの!? あいつが……」
「耐え切れれば、見せてやろう」
大火は刀を掲げ、呪文を唱える。
その瞬間、イールの視界は真っ白に染まった。
「……う……っ」
イールは目を覚まし、辺りを見回そうとした。
しかし一杯に目を見開いても、何も見えない。
「気が付いたか」
大火の声がする。
「ええ。……灯り、無いの?」
「うん?」
ひた、と左頬に革手袋の感触が伝わる。
「……ふむ」
「な……、何?」
続いて、右頬にも革手袋を当てられた。
「大きな代償だったな」
「え?」
「お前はどうやら、己の限界以上の術を行使したようだ」
何を言っているか分からず、イールは尋ねる。
「何言ってんの?」
「その目、恐らくは治るまい」
「え? 目? ……え?」
「術の副作用とでも言おうか。夥(おびただ)しい威力の雷術を行使した影響で、お前の神経は大きく変質している。特に視神経が、な。
自然治癒や現代の医療、俺の術を以てしても、治すことはできん」
「そんな……!」
言葉を失うイールに、大火は本題を切り出してきた。
「それよりも、だ。見えていないとなると説明が難しいが、ここにランドがいる」
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