「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・黒々抄 3
麒麟を巡る話、第144話。
想い人を追って。
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3.
「あれが、……ランドなの?」
ぼんやりと見えるその物体を、イールが指差す。そしてその質問を、大火は肯定した。
「概ね、そうだ。厳密に言えば、ランドはあの中に封じられている」
「なんで?」
「その前に」
大火はイールに、こう前置きした。
「これから俺が言うことは、すべて事実だ。嘘やごまかしは無い。信じるな?」
「ええ、いいわよ。アンタ、嘘は言わないはずだし」
「まず、ランドの出自について話そう。
あいつはある人物に――そうだな、魔女とでも言うべきか――よって造られた存在だ。普通の人間とは、少し違う」
「人間じゃない?」
「いや、9割9分人間だ。今現在は、な。昔は人形だったのだ」
これを聞いて、イールは思わず否定する。
「嘘でしょ!?」
「事実だ。そして造られた理由だが、『魔女』はランドを世界の王に仕立て上げ、そして傀儡として裏から操るつもりだったのだ。
イール、お前と同じように、な」
「……どう言うコト?」
「あのアルコンとか言う鉄人形に、お前は長い間操られてきたのだ。思い当たる節はあるだろう?」
「そ、ソレも、……信じられ、……」
「事実だ」
「……ううん、信じたくなかったけど、でも、……うん、あるわ、思い当たるトコ。
確かに薄々、そうじゃないかとは思ってたわ。そうね、アルコンがあたしに付きまとう理由、色々考えたコトもあったけど、アンタの説明が一番納得するわ。……信じたくは無かったけど。
人形って言ったわよね、アルコンのコト」
「ああ」
「じゃあ逆じゃない」
「うん?」
イールの目から、ぽろっと涙が流れる。
「人形のアイツに、あたしが操られてたってコトでしょ? そんなの、……あたしの人生、全部無様じゃない」
「……」
「……まあ、……今はアンタの話の続きが聞きたいから、……泣きたいけど後にするわ。
封じた理由、もっと詳しく教えて? ランドが『魔女』の操り人形で、だからランドが世界を支配する前に封印したって言うのは信じるわ。
でも、じゃあ、封印して何をするつもりなの?」
「その支配を解こうとしているのだ」
「……なんで?」
イールは大火の行動に不可解なものを感じ、さらに尋ねる。
「アンタ、そんなタイプじゃないでしょ? そりゃ、世界を支配されたくないって考えるのは分かるけど、ソレが嫌だって言うならランドを殺せば話は済むじゃないの。
なんでわざわざ封印して、その支配を解こうとするの?」
「相手がその『魔女』だからだ。
これは俺の個人的感情に近い憶測だが、恐らく俺がランドを単に殺そうものなら、『魔女』はこれでもかと言うくらいに俺を嘲笑うだろう。
『弟子の自分が用意したパズルを解けない、愚かな師匠だ』と、な」
「弟子? その『魔女』、アンタの弟子だったの?」
「そうだ。そしてこれも俺の感情から来る理由だが、ランドをただ殺すのでは俺に何の得も無い。
奴の人形を奪い取り、俺の側に置くことができれば、奴の目論見を完膚なきまでに潰すことになるからだ」
「……結局、アンタのためにランドは封印されたのね」
忌々しくそう言い捨てたイールに、大火はこう返した。
「しかし、事実として死んではいない。殺してほしかったわけではあるまい?」
「そりゃ、そうよ」
「そしてできることなら、ランドと添い遂げたいと思っている。そうだな?」
「……そうよ」
「ならば一つ、提案がある。
あいつの封印を解くのには、短くとも50年かかると考えている。もっとかかる可能性もある。それだけの時間をただ待つとなれば、お前の寿命では到底、間に合うまい。
そこでランドと同様にお前を封印し、最低でもランドに仕掛けられた術を解除するまでの期間は、共に眠ってもらう。
どうする? 封印されるか?」
「え、……と」
イールは一瞬迷ったが、うすぼんやりと見える封印されたランドを一瞥し、意を決した。
「……いいわ。このままダラダラ生きてたって、あたしの想いは実らないもの。ランドの封印が解けるまで、あたしを一緒に封印してちょうだい」
「承知した」
次の瞬間、イールの意識は途切れた。
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3.
「あれが、……ランドなの?」
ぼんやりと見えるその物体を、イールが指差す。そしてその質問を、大火は肯定した。
「概ね、そうだ。厳密に言えば、ランドはあの中に封じられている」
「なんで?」
「その前に」
大火はイールに、こう前置きした。
「これから俺が言うことは、すべて事実だ。嘘やごまかしは無い。信じるな?」
「ええ、いいわよ。アンタ、嘘は言わないはずだし」
「まず、ランドの出自について話そう。
あいつはある人物に――そうだな、魔女とでも言うべきか――よって造られた存在だ。普通の人間とは、少し違う」
「人間じゃない?」
「いや、9割9分人間だ。今現在は、な。昔は人形だったのだ」
これを聞いて、イールは思わず否定する。
「嘘でしょ!?」
「事実だ。そして造られた理由だが、『魔女』はランドを世界の王に仕立て上げ、そして傀儡として裏から操るつもりだったのだ。
イール、お前と同じように、な」
「……どう言うコト?」
「あのアルコンとか言う鉄人形に、お前は長い間操られてきたのだ。思い当たる節はあるだろう?」
「そ、ソレも、……信じられ、……」
「事実だ」
「……ううん、信じたくなかったけど、でも、……うん、あるわ、思い当たるトコ。
確かに薄々、そうじゃないかとは思ってたわ。そうね、アルコンがあたしに付きまとう理由、色々考えたコトもあったけど、アンタの説明が一番納得するわ。……信じたくは無かったけど。
人形って言ったわよね、アルコンのコト」
「ああ」
「じゃあ逆じゃない」
「うん?」
イールの目から、ぽろっと涙が流れる。
「人形のアイツに、あたしが操られてたってコトでしょ? そんなの、……あたしの人生、全部無様じゃない」
「……」
「……まあ、……今はアンタの話の続きが聞きたいから、……泣きたいけど後にするわ。
封じた理由、もっと詳しく教えて? ランドが『魔女』の操り人形で、だからランドが世界を支配する前に封印したって言うのは信じるわ。
でも、じゃあ、封印して何をするつもりなの?」
「その支配を解こうとしているのだ」
「……なんで?」
イールは大火の行動に不可解なものを感じ、さらに尋ねる。
「アンタ、そんなタイプじゃないでしょ? そりゃ、世界を支配されたくないって考えるのは分かるけど、ソレが嫌だって言うならランドを殺せば話は済むじゃないの。
なんでわざわざ封印して、その支配を解こうとするの?」
「相手がその『魔女』だからだ。
これは俺の個人的感情に近い憶測だが、恐らく俺がランドを単に殺そうものなら、『魔女』はこれでもかと言うくらいに俺を嘲笑うだろう。
『弟子の自分が用意したパズルを解けない、愚かな師匠だ』と、な」
「弟子? その『魔女』、アンタの弟子だったの?」
「そうだ。そしてこれも俺の感情から来る理由だが、ランドをただ殺すのでは俺に何の得も無い。
奴の人形を奪い取り、俺の側に置くことができれば、奴の目論見を完膚なきまでに潰すことになるからだ」
「……結局、アンタのためにランドは封印されたのね」
忌々しくそう言い捨てたイールに、大火はこう返した。
「しかし、事実として死んではいない。殺してほしかったわけではあるまい?」
「そりゃ、そうよ」
「そしてできることなら、ランドと添い遂げたいと思っている。そうだな?」
「……そうよ」
「ならば一つ、提案がある。
あいつの封印を解くのには、短くとも50年かかると考えている。もっとかかる可能性もある。それだけの時間をただ待つとなれば、お前の寿命では到底、間に合うまい。
そこでランドと同様にお前を封印し、最低でもランドに仕掛けられた術を解除するまでの期間は、共に眠ってもらう。
どうする? 封印されるか?」
「え、……と」
イールは一瞬迷ったが、うすぼんやりと見える封印されたランドを一瞥し、意を決した。
「……いいわ。このままダラダラ生きてたって、あたしの想いは実らないもの。ランドの封印が解けるまで、あたしを一緒に封印してちょうだい」
「承知した」
次の瞬間、イールの意識は途切れた。
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