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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・狂狐録 10

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    晴奈の話、第128話。
    大団円。……か?

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    10.
    「そう、ですか。桂おじ様が、廃人に……」
     英岡に飛んだ晴奈とエルスは、かつて師匠と共に訪れた樫原の家を訪ね、その妻である棗に経緯を説明した。
     話し終えたところで、棗は自分が天原家の者であったことを二人に明かしてくれた。
    「しかし、わたくしはもう天原家と縁を切ったのです。他には、いらっしゃらないのですか?」
    「ええ。ケイさんが当主になる際、縁者はみんな殺されてしまったそうで」
    「一人残らず、ですか。何てむごいこと……」
     棗は顔を覆い、涙声で話す。
    「天原家の当主がいなくなったことで、天玄では既に混乱の兆しが見え始めています。
     このまま治める者が不在のままなら、いずれ荒廃するでしょう」
    「……しかし、わたくしは」「棗」
     隣の部屋で桃と遊んでいた謙が、口を挟んできた。
    「受けてみなって。お前以外、継ぐ奴がいないんだろ? それならお前がやらなきゃ」
    「でも、あなたとの暮らしや桃のことは……」
    「大丈夫だって。桃は俺が面倒見るし、大都会での暮らしも悪かない。
     俺が全力で助けてやるから、お前も頑張ってみろよ、な?」
    「……」
     棗はしばらく逡巡した後、小さくうなずいた。

     棗は実に10年ぶりに故郷へと戻り、そしてすぐさま天原家の新しい当主となった。これにより、混乱しかかっていた天玄の街はふたたび平静を取り戻した。
     また、エルスたちが奔走している間に、紫明も様々な準備を整えてくれていた。連合軍の西側配備、銃の改良と量産、そして晴奈たちの休養期間まで設定しており、晴奈たちはゆっくりと体を休めることができた。
     ウィルバーの方も「大したコト無い」とうそぶいてはいたが、実は相当な大怪我だったらしい。この後3ヶ月ほどの間姿を見せることは無く、双方の間で戦いが激化することは無かった。



     時間は、篠原たちの隠れ家が制圧された頃に戻る。
    「危ないところだったな」
    「ええ、本当に。あのバカ狼のせいで、死ぬところでしたよ」
     制圧された隠れ家を見下ろすように、2人の黒いコートを着た者たちと、柳が立っていた。傍らには、まだ気を失ったままの楓井が倒れている。
    「それよりすみません、モノさん。折角こちらまで、お車を回していただいたのに」
    「構わんさ。こちらも最初から、アマハラが『売りに出す』と言う情報は信じていなかった。だから組織も、こんな小さい車一台だけをよこしたわけだ」
    「はは……、恐縮です。まあ、でも。それでも何人か納められそうで、何よりです」
    「確かに予想外の収穫だった」
     モノと呼ばれた片腕の短耳は、気を失ったままの楓井の襟をつかみ、後ろに停めてあった馬車の荷台に投げ入れる。
    「これで全員だな。うち28名が、シノハラの手下とは。なかなかの利益が上がりそうだ」
    「ええ、本当に。あ、良かったら俺、馬車動かしますよ。モノさんも、オッドさんも休んでてください」
    「おお、すまんなカモフ君」
     モノが嬉しそうに馬車へ乗る。オッドと呼ばれた猫獣人も無言で馬車に乗り、柳もニコニコと愛想良く振る舞いながら、御者台に乗った。
    「それじゃ出発します。とりあえず、青江でしたよね?」
    「頼んだ。その後は船で黄海に渡り、南に……」
     モノは不意に言葉を切る。柳はどうしたのかと、モノの方を向く。
    「どしたんですか?」
    「……ふあ、あ。カモフ君、すまんが我々は眠る。ここまで一睡もせず来たのでな」
    「あ、了解です。ゆっくりお休みになってください、モノさん、オッドさん」
     柳――いや、カモフは手綱を振り上げ、馬車を動かした。



    「これは……」
     ほぼ同時刻、隠れ家に忍び込んでいたモールは、愕然とした。
     確かに求めていたもの――天原が研究の手本にした本はあったのだ。
     だが、その頁をめくるうち、その顔色はどんどん悪くなる。
    「何だこりゃ!? 央南語で書かれてるね!? んなアホな――遺跡から発掘されたんだから、現代語で書いてあるわけが無いじゃないね!
     もしかして、……ああ、やっぱり! 『魔獣の本 現代語訳 第1版/訳者 セッカ・ヒイラギ クリス・ゴールドマン』、……くそッ!」
     モールは本を投げ捨て、魔杖を振り上げてそれを灰にする。
    「原本じゃないね! ただのコピーだ!
     クリスめ、偽物バラ撒いてるね!? くそ……! 何てことするね、まったく! こんな本が世界中に広まったら、世界の終わりだね!」
     灰になった本を踏みつけて粉々にしつつ、憤る。
    「……第1版、か。アマハラがこれを手に入れたのは、巻末に書かれてた年からして、恐らく499年か、500年くらい。もう15年以上経ってるし、第2版、第3版が出ていてもおかしくないね。
     ああ、まったく! クリスめ、面倒なことを!」
     モールは頭をクシャクシャとかき乱し、叫ぶ。
    「こうなりゃヤケだね! 世界中の本のコピー、全部燃やしてやるね! 見てろ、クリス!」



     こうして混乱は、一つ収まった。
     だが、世界は広い。一つの混乱が収まったと言って、別の騒動が連動して収まりはしない。
     世界はまだまだ、混乱に満ち満ちている――。

    蒼天剣・狂狐録 終

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    2016.04.01 修正
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    ~ Comment ~

     

    「狂狐録」、及び篠原一派に関する話は、自分でもなかなか力作になったかな、と自負しています。
    物語に強いメッセージ性を込められたので、非常に満足できる出来になりました。

    勇者と魔王が手を組む話、というのもワクワクしますね。
    楽しみにしていますb

     

    ひとまず区切りですね。
    ウィルバーとセイナが一緒に闘ったり、共通の敵がいたりと結構オールスター的な感じがした話ですね。……まあ、グッゲンハイムも話自体がオールスターみたいな話になってますけどね。
    今回は非常に面白かったですね。
    また読ませていただきますね~~
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