「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・黒々抄 5
麒麟を巡る話、第146話。
「ハーミット」の誕生。
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5.
ランドは恐る恐る、たむろしていた彼らに声をかける。
「この近くの人かい?」
無人と思っていた場所で突然声をかけられた彼らは当然、警戒する素振りを見せた。
「***!?」
「そんなに警戒しないでくれよ……」
「***、と***いる! ***!」
央南人風の猫獣人の女性が刀を向け、ランドに何かを叫んでいる。
「ごめん、もうちょっとゆっくり話してほしいんだけど」
警戒されないよう、やんわりとそう言ってみたが、相手はきょとんとしている。
「お、おにーさん、お***ですかぁ? なんか、おじーちゃんみたいな*****ですけどぉ……」
確かにランドが頼んだ通り、紫髪の短耳はおっとりとした口調で話しかけてくれたが、それでも何を言っているのか分からない。
「(おじーちゃんみたいな、って? ……僕が?)
ごめん、何て言ったのかよく分からないんだ」
こちらも努めてゆっくりと話したつもりだったが、猫獣人にははっきり通じていないようだった。
「うん……?」
それでも懸命に、彼らの話を何度か繰り返し聞くうち、元来聡明なランドは彼らの言葉を概ね理解できるようになった。
「それでお主、名は何と言う?」
尋ねてきた猫獣人――やはり央南人で、名前は黄晴奈と言う――に、ランドは覚えたての言葉でどうにか応じる。
「僕はらん、……いや、……その」
自分の名前を言いかけて、ランドは考え込む。
(念のため偽名を名乗っておいた方がいいかな。彼らがどんな人なのか分かんないし、用心に越したことは無い。
とりあえずネール(Nehru)家から名前借りて……)
「うん?」
怪訝な顔を向ける晴奈に、ランドはこう答えた。
「ネロ(Nehro)、と呼んでくれ。ネロ・ハーミットで」
「……」
どうやら、すぐに偽名とばれたらしい。晴奈たちは一様に、不審そうな目を向けてきた。
しかしそれでも問いただしたりはせず、晴奈が続けてこう聞いてきた。
「……分かった、ネロ。それで、何故こんなところにいるのだ?」
「その前に、……その、良ければ教えてほしいことなんだけど」
ランドは彼らの服装を見て、ある仮説に行き着いていた。
(僕が今着てる官服と、セイナたちが着てる旅装。
普通なら僕の方が相当、高級品なはずなのに、旅装の彼女たちの方が、どう見ても服の造りがしっかりしてる。それも、全員揃ってだ。つまり彼女たちの着てる服の平均値と言うか、水準があのレベルなんだ。
僕の着ている官服より段違いに生地や縫製がしっかりしてる、言い換えれば彼女たちの衣服に使われた技術水準が、僕が知る水準よりも恐ろしく跳ね上がってること。そして言葉が――まったくじゃないけど――通じなかったこと。
そこから導き出される答えは、……にわかには信じられないけど……)
「今は、……えーと、今の日付を教えてほしいんだ。今は何年の、何月何日かな」
「520年の、5月29日だ」
それを聞き、ランドは強いめまいを覚えた。
「ご、……そうか、520年、5月29日、ね。これ、双月暦だよね」
「勿論だ」
ランドは平静を装ってはいたが、内心は絶叫したくなるくらいのショックを受けていた。
(ごひゃく、……って、6世紀だって!? 10年や20年どころじゃない、200年も経ってるって言うのか!?
……ああ、だろうな。それだけ経ってたらそりゃ言葉も通じないし、旅装が官服より豪華になったりするわけだ)
どうにか心を落ち着かせようと、ランドは周囲を見渡す。
そこでようやく気付いたが、ここはどうやら、200年後のブラックウッドらしかった。
(山の形とか、畑の位置とか、何となく見覚えがある)
「それでその、変なことばかり聞いて申し訳ないんだけど、ここは北方のブラックウッド、で間違いないかい?」
「恐らく、そうだ。既に廃村になっており、詳しく確認はできぬが」
「そっか、そうだよね。……えーと、じゃあ、ここはジーン王国領、だよね?」
「そうだ」
それを聞き、ランドは内心ほっとした。
(そっか、ジーン王は僕がいない後も無事に国を治められたらしいな。
……他の国はどうなってるのかな?)
未来の世界に興味を抱き始めたランドは、続けざまに質問する。
「その、世界情勢とか、聞いておきたいんだけど」
「んじゃあたしが説明するわね、そーゆーのは詳しいし」
赤毛の長耳、橘小鈴が手を挙げたところで、ランドはようやくイールのことを思い出した。
「あ」
「ん? どしたの?」
「コスズさん、だっけ。彼女に話を聞いている間に、お願いしたいことがあるんだ」
ランドはイールを寝かせている場所を伝え、彼女の看病を頼み込んだ。
「相分かった、向かおう」
「ありがとう、セイナさん」
「……おっと。こいつは返しておくぞ」
晴奈は今まで抱えていた子狐をひょい、とランドに渡す。
「え?」
「お主が飼っていたのだろう? すまぬな、ずっと持ちっ放しにして」
「あ、いえ。まあ、飼ってたと言うか、勝手にやって来たと言うか」
「うん?」
「……いや、うん。飼ってたんだ」
「そうか、やはりな」
それを聞いた晴奈は微笑み、それからイールのいる場所へと向かって行った。
「んふふ」
やり取りを聞いていた小鈴が、ニヤニヤしている。
「あの子はかーわいいの、大好きだから。
さ、それじゃ世界情勢について、講義のお時間ね」
「よろしく、コスズさん」
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「ハーミット」の誕生。
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ランドは恐る恐る、たむろしていた彼らに声をかける。
「この近くの人かい?」
無人と思っていた場所で突然声をかけられた彼らは当然、警戒する素振りを見せた。
「***!?」
「そんなに警戒しないでくれよ……」
「***、と***いる! ***!」
央南人風の猫獣人の女性が刀を向け、ランドに何かを叫んでいる。
「ごめん、もうちょっとゆっくり話してほしいんだけど」
警戒されないよう、やんわりとそう言ってみたが、相手はきょとんとしている。
「お、おにーさん、お***ですかぁ? なんか、おじーちゃんみたいな*****ですけどぉ……」
確かにランドが頼んだ通り、紫髪の短耳はおっとりとした口調で話しかけてくれたが、それでも何を言っているのか分からない。
「(おじーちゃんみたいな、って? ……僕が?)
ごめん、何て言ったのかよく分からないんだ」
こちらも努めてゆっくりと話したつもりだったが、猫獣人にははっきり通じていないようだった。
「うん……?」
それでも懸命に、彼らの話を何度か繰り返し聞くうち、元来聡明なランドは彼らの言葉を概ね理解できるようになった。
「それでお主、名は何と言う?」
尋ねてきた猫獣人――やはり央南人で、名前は黄晴奈と言う――に、ランドは覚えたての言葉でどうにか応じる。
「僕はらん、……いや、……その」
自分の名前を言いかけて、ランドは考え込む。
(念のため偽名を名乗っておいた方がいいかな。彼らがどんな人なのか分かんないし、用心に越したことは無い。
とりあえずネール(Nehru)家から名前借りて……)
「うん?」
怪訝な顔を向ける晴奈に、ランドはこう答えた。
「ネロ(Nehro)、と呼んでくれ。ネロ・ハーミットで」
「……」
どうやら、すぐに偽名とばれたらしい。晴奈たちは一様に、不審そうな目を向けてきた。
しかしそれでも問いただしたりはせず、晴奈が続けてこう聞いてきた。
「……分かった、ネロ。それで、何故こんなところにいるのだ?」
「その前に、……その、良ければ教えてほしいことなんだけど」
ランドは彼らの服装を見て、ある仮説に行き着いていた。
(僕が今着てる官服と、セイナたちが着てる旅装。
普通なら僕の方が相当、高級品なはずなのに、旅装の彼女たちの方が、どう見ても服の造りがしっかりしてる。それも、全員揃ってだ。つまり彼女たちの着てる服の平均値と言うか、水準があのレベルなんだ。
僕の着ている官服より段違いに生地や縫製がしっかりしてる、言い換えれば彼女たちの衣服に使われた技術水準が、僕が知る水準よりも恐ろしく跳ね上がってること。そして言葉が――まったくじゃないけど――通じなかったこと。
そこから導き出される答えは、……にわかには信じられないけど……)
「今は、……えーと、今の日付を教えてほしいんだ。今は何年の、何月何日かな」
「520年の、5月29日だ」
それを聞き、ランドは強いめまいを覚えた。
「ご、……そうか、520年、5月29日、ね。これ、双月暦だよね」
「勿論だ」
ランドは平静を装ってはいたが、内心は絶叫したくなるくらいのショックを受けていた。
(ごひゃく、……って、6世紀だって!? 10年や20年どころじゃない、200年も経ってるって言うのか!?
……ああ、だろうな。それだけ経ってたらそりゃ言葉も通じないし、旅装が官服より豪華になったりするわけだ)
どうにか心を落ち着かせようと、ランドは周囲を見渡す。
そこでようやく気付いたが、ここはどうやら、200年後のブラックウッドらしかった。
(山の形とか、畑の位置とか、何となく見覚えがある)
「それでその、変なことばかり聞いて申し訳ないんだけど、ここは北方のブラックウッド、で間違いないかい?」
「恐らく、そうだ。既に廃村になっており、詳しく確認はできぬが」
「そっか、そうだよね。……えーと、じゃあ、ここはジーン王国領、だよね?」
「そうだ」
それを聞き、ランドは内心ほっとした。
(そっか、ジーン王は僕がいない後も無事に国を治められたらしいな。
……他の国はどうなってるのかな?)
未来の世界に興味を抱き始めたランドは、続けざまに質問する。
「その、世界情勢とか、聞いておきたいんだけど」
「んじゃあたしが説明するわね、そーゆーのは詳しいし」
赤毛の長耳、橘小鈴が手を挙げたところで、ランドはようやくイールのことを思い出した。
「あ」
「ん? どしたの?」
「コスズさん、だっけ。彼女に話を聞いている間に、お願いしたいことがあるんだ」
ランドはイールを寝かせている場所を伝え、彼女の看病を頼み込んだ。
「相分かった、向かおう」
「ありがとう、セイナさん」
「……おっと。こいつは返しておくぞ」
晴奈は今まで抱えていた子狐をひょい、とランドに渡す。
「え?」
「お主が飼っていたのだろう? すまぬな、ずっと持ちっ放しにして」
「あ、いえ。まあ、飼ってたと言うか、勝手にやって来たと言うか」
「うん?」
「……いや、うん。飼ってたんだ」
「そうか、やはりな」
それを聞いた晴奈は微笑み、それからイールのいる場所へと向かって行った。
「んふふ」
やり取りを聞いていた小鈴が、ニヤニヤしている。
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