「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・黒々抄 6
麒麟を巡る話、第147話。
幾星霜を越えて。
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6.
晴奈たちと出会ったランドとイールはしばらく、彼女らと同行していた。
ジーン王国に逗留しイールの回復に努めた後、晴奈の故郷である央南へと共に渡り、さらに同時期に起こった事件――いわゆる「ミッドランド異変」にも同行したところで、ランドとイールは二人旅を決意した。
「丁度いいよ、ここからなら」
「そうかのう……?」
ちなみに、すんなり6世紀の言語を習得できたランドに対し、イールは十分には習得できず、中途半端に古臭い話し方の癖が付いてしまっている。
「時期と言うか、タイミングも、さ。これ以上僕たちがセイナたちと一緒だと、なんか邪魔になりそうだし」
「ふむ。確かにあの唐変木のトマスも、ようやくセイナに向かい合うようになったからの」
「それにエルスさんも、コスズさんと何かいい感じっぽくなったみたいだし」
そんなことを言ったランドに、イールは顔をぷい、と背けて小声でなじる。
(人の色恋は目ざとい癖に、自分に向けられとる思慕はちいとも分からんのかっ)
「どしたの?」
「何でもない。……まあ、お主の言う通りじゃな。
そうじゃな、元々いつかは旅をしたいと言うておったし、いい頃合いかも知れん。ここからぶらりと行くかの」
「うん」
そこを起点として、ネロとジーナは当ての無い旅を続けた。
政治的結束を失い荒れ行く央北。西大海洋同盟に加盟し、その恩恵を多少なりとも享受した北方。そんな政変とは無関係に、のんびりと時間が過ぎ行く南海。
そして2年、3年ほど旅を続け、世界中を渡り歩くうちに――ネロが大火の施術により、難訓の呪縛から逃れたためか、それともいい加減、連れ添った時間が功を奏したのか――二人の関係も変わっていった。
「のう、ネロや」
「ん?」
南海のとある小島。
夕焼けを並んで見つめていたところで、ジーナが話を切り出した。
「もう随分になるのう」
「旅が?」
「それもあるが、わしの言いたいのは、お主と知り合ってからの時間じゃ」
「はは、200年だとねぇ」
「茶化すな」
ジーナはネロの顔をぐい、と引き寄せる。
「ん……?」
「もう随分じゃ。随分長く一緒にいたと言うのに、何故お主はわしの気持ちに気付かん?」
「気持ちって?」
「……また、これか」
ジーナは吐き捨てるように、こうつぶやいた。
「わしはどれほど、お主を好いてきたか。タイカに頼み、共にこの時代まで眠ってきたと言うのに」
「ああ、それでなんだ」
あっけらかんとそう返され、ジーナは声を荒げた。
「『それでなんだ』? その程度だったのか、お主にとっては!」
「いや、……うーん、何て言ったらいいかな。どうしてもジーナ、君がこの時代にまでも僕と一緒にいてくれたのか、それが分からなかったからね。
それがはっきりしたんで、まあ、すっきりしたかなって」
「……もうええわい」
ジーナの目から、ぽろっと涙がこぼれる。
「お主は一生、わしの気持ちに気付かんのじゃ」
「いや、そうでもないよ?」
「……は?」
ネロは困った顔を見せ、こう言った。
「いや、はっきりさせたかったんだよね、そこを。もしもさ、君が望んでも無いのに僕なんかと一緒にいることになっちゃって、それで他に相手もいないから仕方なく僕を、……とかだったら、なんか申し訳ないかなって」
「……はあ?」
これを聞いたジーナはいきなり、ネロの口をぐいぐいと引っ張った。
「いひゃひゃ、いひゃいっへ(痛た、痛いって)」
「どこまで朴念仁なんじゃ、お主は~! これだけ長くいて、何故そんな考えに至るか!
そんなもの、好きで無ければやるわけが無かろうが!」
「ごへん、いひゃ、ほんほうひ(ごめん、いや、本当に)」
「……まったく!」
ジーナはネロから手を放し、ぷい、と顔を背けて、こうつぶやいた。
「……好きなのはずっとお主だけじゃ。……お主は好いてくれるか、わしを?」
「あー、と」
この期に及んで、ネロはまだしどろもどろに理屈を練る。
「いや、まあ、うん、好意を向けられて悪い気は全然しないよ。確かに僕も君なら不足は無いなとは思うよ、いや、それ以上かな、君以外はちょっと考えられないし、うん。
でもさ、今の僕は大臣でも何でもない、ただの政治オタクの旅人でしかないし、君に釣り合うかどうかって考えたら……」「やかましい」
ジーナはくるりと顔を向け、ネロの口を自分の口で塞いだ。
「むぐぐっ」
口を放し、ジーナは強い口調でこう言った。
「単純に言え。一言でじゃ」
「……じゃあ」
「じゃあはいらん」
「うん」
「うんじゃなくて」
「はい」
「もっといい言葉があるじゃろうが」
「……好きだよ」
「ようし」
その日のうちに、ネロとジーナはその小島で結婚した。
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晴奈たちと出会ったランドとイールはしばらく、彼女らと同行していた。
ジーン王国に逗留しイールの回復に努めた後、晴奈の故郷である央南へと共に渡り、さらに同時期に起こった事件――いわゆる「ミッドランド異変」にも同行したところで、ランドとイールは二人旅を決意した。
「丁度いいよ、ここからなら」
「そうかのう……?」
ちなみに、すんなり6世紀の言語を習得できたランドに対し、イールは十分には習得できず、中途半端に古臭い話し方の癖が付いてしまっている。
「時期と言うか、タイミングも、さ。これ以上僕たちがセイナたちと一緒だと、なんか邪魔になりそうだし」
「ふむ。確かにあの唐変木のトマスも、ようやくセイナに向かい合うようになったからの」
「それにエルスさんも、コスズさんと何かいい感じっぽくなったみたいだし」
そんなことを言ったランドに、イールは顔をぷい、と背けて小声でなじる。
(人の色恋は目ざとい癖に、自分に向けられとる思慕はちいとも分からんのかっ)
「どしたの?」
「何でもない。……まあ、お主の言う通りじゃな。
そうじゃな、元々いつかは旅をしたいと言うておったし、いい頃合いかも知れん。ここからぶらりと行くかの」
「うん」
そこを起点として、ネロとジーナは当ての無い旅を続けた。
政治的結束を失い荒れ行く央北。西大海洋同盟に加盟し、その恩恵を多少なりとも享受した北方。そんな政変とは無関係に、のんびりと時間が過ぎ行く南海。
そして2年、3年ほど旅を続け、世界中を渡り歩くうちに――ネロが大火の施術により、難訓の呪縛から逃れたためか、それともいい加減、連れ添った時間が功を奏したのか――二人の関係も変わっていった。
「のう、ネロや」
「ん?」
南海のとある小島。
夕焼けを並んで見つめていたところで、ジーナが話を切り出した。
「もう随分になるのう」
「旅が?」
「それもあるが、わしの言いたいのは、お主と知り合ってからの時間じゃ」
「はは、200年だとねぇ」
「茶化すな」
ジーナはネロの顔をぐい、と引き寄せる。
「ん……?」
「もう随分じゃ。随分長く一緒にいたと言うのに、何故お主はわしの気持ちに気付かん?」
「気持ちって?」
「……また、これか」
ジーナは吐き捨てるように、こうつぶやいた。
「わしはどれほど、お主を好いてきたか。タイカに頼み、共にこの時代まで眠ってきたと言うのに」
「ああ、それでなんだ」
あっけらかんとそう返され、ジーナは声を荒げた。
「『それでなんだ』? その程度だったのか、お主にとっては!」
「いや、……うーん、何て言ったらいいかな。どうしてもジーナ、君がこの時代にまでも僕と一緒にいてくれたのか、それが分からなかったからね。
それがはっきりしたんで、まあ、すっきりしたかなって」
「……もうええわい」
ジーナの目から、ぽろっと涙がこぼれる。
「お主は一生、わしの気持ちに気付かんのじゃ」
「いや、そうでもないよ?」
「……は?」
ネロは困った顔を見せ、こう言った。
「いや、はっきりさせたかったんだよね、そこを。もしもさ、君が望んでも無いのに僕なんかと一緒にいることになっちゃって、それで他に相手もいないから仕方なく僕を、……とかだったら、なんか申し訳ないかなって」
「……はあ?」
これを聞いたジーナはいきなり、ネロの口をぐいぐいと引っ張った。
「いひゃひゃ、いひゃいっへ(痛た、痛いって)」
「どこまで朴念仁なんじゃ、お主は~! これだけ長くいて、何故そんな考えに至るか!
そんなもの、好きで無ければやるわけが無かろうが!」
「ごへん、いひゃ、ほんほうひ(ごめん、いや、本当に)」
「……まったく!」
ジーナはネロから手を放し、ぷい、と顔を背けて、こうつぶやいた。
「……好きなのはずっとお主だけじゃ。……お主は好いてくれるか、わしを?」
「あー、と」
この期に及んで、ネロはまだしどろもどろに理屈を練る。
「いや、まあ、うん、好意を向けられて悪い気は全然しないよ。確かに僕も君なら不足は無いなとは思うよ、いや、それ以上かな、君以外はちょっと考えられないし、うん。
でもさ、今の僕は大臣でも何でもない、ただの政治オタクの旅人でしかないし、君に釣り合うかどうかって考えたら……」「やかましい」
ジーナはくるりと顔を向け、ネロの口を自分の口で塞いだ。
「むぐぐっ」
口を放し、ジーナは強い口調でこう言った。
「単純に言え。一言でじゃ」
「……じゃあ」
「じゃあはいらん」
「うん」
「うんじゃなくて」
「はい」
「もっといい言葉があるじゃろうが」
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