「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・黒々抄 8
麒麟を巡る話、第149話。
因縁の清算。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
「で?」
話が一通り済んだところで、ハーミット卿が大火に尋ねた。
「肝心のところが、まだ聞けてないよ。
どうして僕とイールが、この時代に蘇ったか。それを聞かせてほしいんだけど」
「……」
「言えないのかい?」
何も答えない大火に、ハーミット卿は突っかかる。
「じゃあ僕が代わりに答えようか?」
「……」
「そんなに言わせたいのかい? ……じゃあ、言うよ。
恐らくとっくの昔に、……具体的に言うなら僕が封印されてから、どんなに遅くても100年くらいで、封印を解いてたはずだ。そこからさらに100年も封印期間をプラスした、その理由は?
君は魔力が欲しかったんだ、イールのね。確かに僕を封じた理由は、君がイールに言った通りだったんだろうさ。君が嘘を言わないのは知ってるから。
でも、それだけじゃない。その部分は隠して話していた。そうだろ?」
「……」
「『システム』、……恐らくナンバリングはA1かな」
「何故Aと?」
「『アル』の頭文字さ。アル関係でつかまえた1番目の人間って意味と、そう読んだんだ。
どうかな?」
「いや、Mだ。御子(救世主:Messiah)の意だ。番号は相違ない」
大火の答えを聞くなり――ハーミット卿は手に持っていたジーナの杖で、大火を引っぱたいた。
「……っ」
「タイカ。君の悪いところは大事なことを隠し、勝手に抱え込んで勝手に処理しようとすることだ。
僕を自分の側に置く? イールを『システム』に取り込む? ……冗談じゃない。僕たちは歯車や部品じゃないんだ。
僕たちは君に対して友情と敬意を持っていたってのに、君と来たら――僕たちをよくも、物扱いしてくれたもんだ!
タイカ、……君はもっと剛毅で、孤高で、信頼を大切にする奴だと思っていたのに」
「……すまない」
大火はす、と頭を下げる。しかしそれでも、ハーミット卿は詰問をやめない。
「僕とイールがこの時代に蘇ったのは、『システム』維持ができなくなったからだろ?
黒炎戦争での一件で君は激しく傷付いたから、『システム』の維持に回していた魔力まで全部、自分の回復に使った。
そのせいでイールを取り込んでいた『システム』は崩壊し、結果、僕とイールはこの時代に目覚めたわけだ。
僕の解釈に間違っているところは、あるかい?」
「……いや」
大火は小さく頭を振る。
「なら良かった。じゃあタイカ」
ハーミット卿はジーナに杖を返しつつ、続けてこう尋ねた。
「君が秘密裏に行ってきた、僕たちに対する背任。その代償を払ってくれるかい?」
「……ああ」
「それも良かった。そう言える。
何故ならタイカ」
ハーミット卿は大火の左手を、両手で握った。
「これで僕とイールの、君に対する恨みや怒りが帳消しにできるからだ。
君とは仲直りして、改めてネロおよびジーナとして付き合いたい。嘘やごまかしだけじゃなく、隠し事も僕たちの間には、無いようにしてほしかった。
君だってしたかっただろ? じゃなきゃ、僕が『来い』って言って来るわけがないもの」
「……」
大火は何も言わず、ハーミット卿の両手を握り返した。
ハーミット卿が大火に対して何を要求したのかは定かではないが、書斎に籠っての話し合いを終え、共に夕食を囲んでいる二人は、少なくとも秋也の目にはすべてのわだかまりが解消し、こじれていた関係が修復されたように見えた。
「それにしても」
と、その席で秋也の左隣に座っていた渾沌が、小声でささやく。
「師匠が真正面から叩かれるところなんて、まさか目にするとは思わなかったわね」
「びっくりしたよな、アレ」
今度は右隣に座るベルが、秋也の袖を引っ張る。
「でもさ、でもさ。まさかパパとママが、歴史上の人物だなんて思わなかった」
「オレもだよ」
「私も」
また渾沌が話に加わり、それを受けてさらにベルが突っかかる。
「なんで話の輪に入ってくるのよー」
「いいじゃない、別に。あなたが秋也を気に入ってるのとはちょっと方向が違うけど、私だって秋也のこと、気に入ってるんだから。話くらいいいでしょ?」
「むー」
「それに私、あなたのことも気に入ってるんだけどね」
「……それはそれでなんか、嫌」
「あら残念」
クスクスと笑う渾沌に、ベルは辟易しているようだった。
「シュウヤぁ、あたしこの人苦手だ」
「……実はオレも」
「聞こえてるわよ」
二人のやり取りに、渾沌はまた笑い出した。
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因縁の清算。
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「で?」
話が一通り済んだところで、ハーミット卿が大火に尋ねた。
「肝心のところが、まだ聞けてないよ。
どうして僕とイールが、この時代に蘇ったか。それを聞かせてほしいんだけど」
「……」
「言えないのかい?」
何も答えない大火に、ハーミット卿は突っかかる。
「じゃあ僕が代わりに答えようか?」
「……」
「そんなに言わせたいのかい? ……じゃあ、言うよ。
恐らくとっくの昔に、……具体的に言うなら僕が封印されてから、どんなに遅くても100年くらいで、封印を解いてたはずだ。そこからさらに100年も封印期間をプラスした、その理由は?
君は魔力が欲しかったんだ、イールのね。確かに僕を封じた理由は、君がイールに言った通りだったんだろうさ。君が嘘を言わないのは知ってるから。
でも、それだけじゃない。その部分は隠して話していた。そうだろ?」
「……」
「『システム』、……恐らくナンバリングはA1かな」
「何故Aと?」
「『アル』の頭文字さ。アル関係でつかまえた1番目の人間って意味と、そう読んだんだ。
どうかな?」
「いや、Mだ。御子(救世主:Messiah)の意だ。番号は相違ない」
大火の答えを聞くなり――ハーミット卿は手に持っていたジーナの杖で、大火を引っぱたいた。
「……っ」
「タイカ。君の悪いところは大事なことを隠し、勝手に抱え込んで勝手に処理しようとすることだ。
僕を自分の側に置く? イールを『システム』に取り込む? ……冗談じゃない。僕たちは歯車や部品じゃないんだ。
僕たちは君に対して友情と敬意を持っていたってのに、君と来たら――僕たちをよくも、物扱いしてくれたもんだ!
タイカ、……君はもっと剛毅で、孤高で、信頼を大切にする奴だと思っていたのに」
「……すまない」
大火はす、と頭を下げる。しかしそれでも、ハーミット卿は詰問をやめない。
「僕とイールがこの時代に蘇ったのは、『システム』維持ができなくなったからだろ?
黒炎戦争での一件で君は激しく傷付いたから、『システム』の維持に回していた魔力まで全部、自分の回復に使った。
そのせいでイールを取り込んでいた『システム』は崩壊し、結果、僕とイールはこの時代に目覚めたわけだ。
僕の解釈に間違っているところは、あるかい?」
「……いや」
大火は小さく頭を振る。
「なら良かった。じゃあタイカ」
ハーミット卿はジーナに杖を返しつつ、続けてこう尋ねた。
「君が秘密裏に行ってきた、僕たちに対する背任。その代償を払ってくれるかい?」
「……ああ」
「それも良かった。そう言える。
何故ならタイカ」
ハーミット卿は大火の左手を、両手で握った。
「これで僕とイールの、君に対する恨みや怒りが帳消しにできるからだ。
君とは仲直りして、改めてネロおよびジーナとして付き合いたい。嘘やごまかしだけじゃなく、隠し事も僕たちの間には、無いようにしてほしかった。
君だってしたかっただろ? じゃなきゃ、僕が『来い』って言って来るわけがないもの」
「……」
大火は何も言わず、ハーミット卿の両手を握り返した。
ハーミット卿が大火に対して何を要求したのかは定かではないが、書斎に籠っての話し合いを終え、共に夕食を囲んでいる二人は、少なくとも秋也の目にはすべてのわだかまりが解消し、こじれていた関係が修復されたように見えた。
「それにしても」
と、その席で秋也の左隣に座っていた渾沌が、小声でささやく。
「師匠が真正面から叩かれるところなんて、まさか目にするとは思わなかったわね」
「びっくりしたよな、アレ」
今度は右隣に座るベルが、秋也の袖を引っ張る。
「でもさ、でもさ。まさかパパとママが、歴史上の人物だなんて思わなかった」
「オレもだよ」
「私も」
また渾沌が話に加わり、それを受けてさらにベルが突っかかる。
「なんで話の輪に入ってくるのよー」
「いいじゃない、別に。あなたが秋也を気に入ってるのとはちょっと方向が違うけど、私だって秋也のこと、気に入ってるんだから。話くらいいいでしょ?」
「むー」
「それに私、あなたのことも気に入ってるんだけどね」
「……それはそれでなんか、嫌」
「あら残念」
クスクスと笑う渾沌に、ベルは辟易しているようだった。
「シュウヤぁ、あたしこの人苦手だ」
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かつて争っていた悪役と手を取り合い協調する展開、自分は好きです。