「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・黒々抄 9
麒麟を巡る話、第150話。
西方南部、政変の時。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
9.
しばらくの間、王国は騒がしくなった。
まず、帝国に侵入した秋也たち四人が、国内の話題に上った。秋也たちはトッドレール一味を殲滅した上、帝国領内に連れ去られたベルを救出すると言う、未曽有の大戦果をたった4人で挙げた立役者なのである。
皇帝亡命事件以上の称賛と敬意を以て、四人は多大な表彰を受けた。
「明日から中佐だって」
「同じく俺も、明日付で少佐に格上げだ」
アルピナとサンク、二人の昇進を聞き、ベルは喜んでいた。
「おめでとうございます、アルピナさん、サンクさん」
「ありがと、ベルちゃん。
……それで、あなたはこれからどうするつもり?」
そう尋ねられ、ベルはぐっと握り拳を作ってこう答えた。
「やっぱりあたし、まだ頑張りたいです。これからも寄宿舎で、訓練するつもりです」
「うん、応援してるわ」
アルピナはにっこりと笑い、ベルの握り拳に自分の拳をとん、と合わせた。
「うーむ」
贈られた勲章を握りしめながら、サンデルはうなっている。
それを見たロガン卿が、不思議そうに尋ねてきた。
「どうした、サンデル? 栄誉を称えられたと言うのに、浮かない顔をするとは」
「いや、しかし。敵国の勲章ですからなぁ」
「……早晩、敵国では無くなるだろう。気にせずとも良いではないか」
「なんですと?」
目を丸くしたサンデルに、ロガン卿はこう返す。
「聞いているぞ、あの悪魔参謀が――彼奴以上の悪魔の手によって――ついに滅んだと。ならば、陛下や我が国がこれ以上争いを続ける理由は無い。
それに幸いここ3ヶ月の、卿と陛下の交流により、両国の関係は極めて良いものとなっている。もしかすれば西方南部民の長年の悲願であった三国統一も、近い将来有りうるかも知れん」
帝室亡命政府が用を成さなくなったため、フィッボとロガン卿ら将軍や高官たちは近々、帝国に送還されることが決まった。
今後は王国の支援を受けつつ領内の復興を行い、然るべき時が来れば領地を元の二国に分割するか、それとも三国併合するかの協議を行うと言う。
「あ、後もう一つ、まだ内々にだけど、報告があるんだ」
今後のことを秋也に伝えていたフィッボは、急に小声になる。
「なんですか?」
「実はね、ノヴァと結婚するかも知れない」
「え、マジっスか?」
「3ヶ月も一緒にいると、気心もお互い、分かってくるからね。君も同じだろう?」
「へへ……」
「それにね」
フィッボは真面目な顔になり、こう続けた。
「私が本当に変わったと――今までのように後ろ向きだった、名ばかりの皇帝ではなく、前向きに復興を進めたいとする堅い意志を持ったんだってことを、少しでも国民に感じてもらえるだろうか、と思ってね」
「……頑張ってください。応援してます」
慌ただしく情勢が動き出す中で、渾沌がこの地に長期滞在すると伝えられ、秋也たちはさらに驚かされた。
「なんで……?」
「嫌そうにしないでよ、もう」
不安がるベルの頬を、渾沌はむにっとつまむ。
「いひゃっ」
「アルの件よ。あいつは何度でも復活するし、モダス帝が復位したと知れば、また性懲りも無く現れるかも知れないでしょ?
そうなった場合、私が止めるのよ。だから情勢が安定するまで、しばらくここにいる、ってわけ」
「むー」
頬を膨らませるベルに、渾沌はぼそ、と耳打ちする。
「私が近くにいて、あなたにとって悪いことなんて無いわよ? むしろ秋也のことなら色々知ってるから、その辺り教えてあげてもいいなー、なんて思ってるんだけど」
「……むー」
まんざらでもない顔になるベルを見て、秋也は不安がった。
「何を聞くつもりだよ……」
と、そこへハーミット卿と大火が、共にやって来た。
「あら先生。どうされたんです?」
「向かうところがある。明日一日、同行してくれ」
「どこに?」
その問いに、ハーミット卿の方が答える。
「まだ一つ残ってる、わだかまりの解消にさ。彼にとっては改めて自分の傘下に戻ってほしい、大事な人材だからね。
ま、それ以前に」
ハーミット卿はニヤ、といたずらっぽく笑って見せた。
「何百年単位の父娘喧嘩をいい加減収めたい、ってのもあるらしいし。僕はその仲裁役さ」
白猫夢・黒々抄 終
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西方南部、政変の時。
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しばらくの間、王国は騒がしくなった。
まず、帝国に侵入した秋也たち四人が、国内の話題に上った。秋也たちはトッドレール一味を殲滅した上、帝国領内に連れ去られたベルを救出すると言う、未曽有の大戦果をたった4人で挙げた立役者なのである。
皇帝亡命事件以上の称賛と敬意を以て、四人は多大な表彰を受けた。
「明日から中佐だって」
「同じく俺も、明日付で少佐に格上げだ」
アルピナとサンク、二人の昇進を聞き、ベルは喜んでいた。
「おめでとうございます、アルピナさん、サンクさん」
「ありがと、ベルちゃん。
……それで、あなたはこれからどうするつもり?」
そう尋ねられ、ベルはぐっと握り拳を作ってこう答えた。
「やっぱりあたし、まだ頑張りたいです。これからも寄宿舎で、訓練するつもりです」
「うん、応援してるわ」
アルピナはにっこりと笑い、ベルの握り拳に自分の拳をとん、と合わせた。
「うーむ」
贈られた勲章を握りしめながら、サンデルはうなっている。
それを見たロガン卿が、不思議そうに尋ねてきた。
「どうした、サンデル? 栄誉を称えられたと言うのに、浮かない顔をするとは」
「いや、しかし。敵国の勲章ですからなぁ」
「……早晩、敵国では無くなるだろう。気にせずとも良いではないか」
「なんですと?」
目を丸くしたサンデルに、ロガン卿はこう返す。
「聞いているぞ、あの悪魔参謀が――彼奴以上の悪魔の手によって――ついに滅んだと。ならば、陛下や我が国がこれ以上争いを続ける理由は無い。
それに幸いここ3ヶ月の、卿と陛下の交流により、両国の関係は極めて良いものとなっている。もしかすれば西方南部民の長年の悲願であった三国統一も、近い将来有りうるかも知れん」
帝室亡命政府が用を成さなくなったため、フィッボとロガン卿ら将軍や高官たちは近々、帝国に送還されることが決まった。
今後は王国の支援を受けつつ領内の復興を行い、然るべき時が来れば領地を元の二国に分割するか、それとも三国併合するかの協議を行うと言う。
「あ、後もう一つ、まだ内々にだけど、報告があるんだ」
今後のことを秋也に伝えていたフィッボは、急に小声になる。
「なんですか?」
「実はね、ノヴァと結婚するかも知れない」
「え、マジっスか?」
「3ヶ月も一緒にいると、気心もお互い、分かってくるからね。君も同じだろう?」
「へへ……」
「それにね」
フィッボは真面目な顔になり、こう続けた。
「私が本当に変わったと――今までのように後ろ向きだった、名ばかりの皇帝ではなく、前向きに復興を進めたいとする堅い意志を持ったんだってことを、少しでも国民に感じてもらえるだろうか、と思ってね」
「……頑張ってください。応援してます」
慌ただしく情勢が動き出す中で、渾沌がこの地に長期滞在すると伝えられ、秋也たちはさらに驚かされた。
「なんで……?」
「嫌そうにしないでよ、もう」
不安がるベルの頬を、渾沌はむにっとつまむ。
「いひゃっ」
「アルの件よ。あいつは何度でも復活するし、モダス帝が復位したと知れば、また性懲りも無く現れるかも知れないでしょ?
そうなった場合、私が止めるのよ。だから情勢が安定するまで、しばらくここにいる、ってわけ」
「むー」
頬を膨らませるベルに、渾沌はぼそ、と耳打ちする。
「私が近くにいて、あなたにとって悪いことなんて無いわよ? むしろ秋也のことなら色々知ってるから、その辺り教えてあげてもいいなー、なんて思ってるんだけど」
「……むー」
まんざらでもない顔になるベルを見て、秋也は不安がった。
「何を聞くつもりだよ……」
と、そこへハーミット卿と大火が、共にやって来た。
「あら先生。どうされたんです?」
「向かうところがある。明日一日、同行してくれ」
「どこに?」
その問いに、ハーミット卿の方が答える。
「まだ一つ残ってる、わだかまりの解消にさ。彼にとっては改めて自分の傘下に戻ってほしい、大事な人材だからね。
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