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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第3部

    白猫夢・清算抄 5

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    麒麟を巡る話、第155話。
    これから、これから。

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    5.
     相当気恥ずかしかったのか、天狐は応接間に大火たちを案内し直した途端、顔を押さえて自室に駆け込み、そのまま閉じこもってしまった。
    「……」
     一方、大火も同様だったらしい。誰とも目を合わせず、窓の方をずっと向いていた。
    「どうなったんだろ?」
    「さあ……」
     二人の関係がどうなったのか、秋也たちは小声で尋ね合っている。
    「天狐ちゃん、大火さんを許したのかな」
    「分かんないよ、何にも言ってないもんっ」
    「コレはコレで微妙な空気だよな……」
     と、ハーミット卿が明るい声を出す。
    「さてと。もう夕暮れも近いから、僕たちはそろそろ帰るとするよ。テンコちゃんにもよろしく言っておいてくれ。
     さ、みんな。あんまり長居するのも悪いから、ね?」
    「え、あ、はあ」
    「い、いいの?」
    「いいよ。ほらほら」
     ハーミット卿に促され、秋也とベルは応接間を後にする。
    「……」
     渾沌も無言で、応接間を出る。
    「……」「行くよ」
     再度ハーミット卿に促され、大火も出ようとした。

     その時だった。
    「……お、おやっ、おっ、……師匠!」
     姿こそ無いものの、天狐の声が廊下に響いた。
    「なんだ?」
     大火が淡々とした声で、それに応じる。
    「そ、その、えっとだな、……またさ、その、昔みたいに、アンタのコトを、師匠とか、……その、……親父とか、……呼んでいいか?」
    「……」
     大火は立ち止まり、淡々と応答する。
    「承知した」
    「……また来てくれるか?」
    「ああ」
    「今度来た時は、……またオレ、気紛れ起こしてやるからさ。アンタも起こしてくれよ」
    「覚えておく」
    「……絶対来てくれよ」
    「勿論だ」
    「……じゃあな。……またな、親父」
    「ああ。またな」
     大火は再び静かに、廊下を進んでいった。

     それから少しして――。
    「あっ」
     天狐が慌てて、自室から飛び出してきた。
    「しまったー……。結局アイツの目がなんでオレたちみたいになってんのか、聞きそびれちまった」



     大火の術により、秋也たちはふたたびプラティノアール王国に戻ってきた。
    「期待していた成果は、不足なく挙げられただろう。大変感謝する、ネロ」
     大火はいつものように淡々とした口調でハーミット卿に礼を述べつつ、ハーミット卿と固い握手を交わした。
    「君との交流を考えれば、これくらいはお安い御用さ。今後ともよろしく、タイカ」
    「ああ。何かあればまた、気軽に呼んでくれ。
     ではそろそろ、失礼する」
     大火はそう言って、その場から消える。
     続いて渾沌が、ハーミット卿と握手した。
    「じゃ、私はしばらくここに駐留と言うことで。よろしくね、大臣さん」
    「ああ。当面は僕の家で過ごすといい」
     と、ハーミット卿はくる、と秋也に向き直った。
    「そうだ、そろそろちゃんと話しておこうと思ってたんだけど」
    「なんでしょう?」
    「君、ベルと結婚する気なんだよね?」
    「へっ?」
     目を丸くする秋也の代わりに、ベルが答える。
    「するよ」
    「うん、するのはいいけどさ。君が選んだ人なら間違いは無いだろうし、僕もジーナも、相手がシュウヤ君なら賛成するよ。
     だけどこれから、どうやって生活するのかなと思って。ここに住むならそれなりの仕事をしなきゃいけないし、旅に出るとしても――自分の体験談で恐縮だけど――すぐ子供ができたりするし。
     コントンさんみたいに、しばらくは僕の家に住むのも構わないけど、義理の両親と一緒じゃ落ち着かないだろうし」
    「う、うーん」
     悩む秋也の腕を、ベルがぎゅっと抱きしめる。
    「あたしと一緒に兵士やる、って言うのはどうかな?」
    「剣士の需要はほぼ無いよ。あっても典礼用とか儀式用とか、役職が空骸化しちゃってるから、活躍することはまず無い。若い身空でそんな閑職に回ったら、若ボケしちゃうよ」
    「う、……それはヤダ」
    「剣術以外に何かできるの? 囲碁は……、普通にしか打てないみたいだし」
    「確かにそうっスね……。うーん」
     秋也はベルの腕を離し、考え込む。
    「ココで剣術道場、……とか開いても意味無さそうだよなぁ」
    「……ん?」
     と、その言葉にハーミット卿が反応した。
    「それなら案外、流行るかも知れないね」
    「へっ?」
    「勿論、ただの剣術道場じゃ集客力は無いだろうけど、君はその点、強味があるじゃないか」
    「って言うと……、オレの母さんスか」
    「そう。それに焔流本家の免許皆伝も持ってる、ちゃんとした剣士だ。
     一度故郷に戻って、セイナさんに道場の『のれん分け』ができないか、聞いてみたらどうかな」
    「……故郷っスか」
     秋也は猫耳をポリポリとかき、それから「うーん……」とうなって、ようやく決断した。
    「そうっスね、一回聞いてみます」
    「あ、それじゃ私が送ってあげるわよ。久々に晴奈とも話したいし」
     渾沌の提案に、秋也はぺこ、と頭を下げる。
    「ありがとう、助かる」
    「じゃ、あたしもー。未来のお義母さんに挨拶しなきゃねー」
    「そうだね、確かにしておかないと。じゃあ、君たち二人で行っておいで。
     僕は今日、タイカのために休暇を取ってしまったし、残念ながら、後三ヶ月は休めそうにないからね」
    「はーい」
     ベルはまた秋也の腕に抱き着き、明るく返事を返した。
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