「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・清算抄 6
麒麟を巡る話、第156話。
黄家のいいニュース、悪いニュース。
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6.
そして翌日。
秋也とベルは渾沌の力を借り、央南・黄海に渡っていた。
「半年ぶりくらいだなぁ」
「そうね。前に帰って来たの、秋の半ばくらいだったし」
街の様子に変わったところは無く、秋也にとっていつも通りのにぎわいを見せている。
一方、初めて央南を訪れたベルはきょろきょろと辺りを見回していた。
「全然、あたしんとこと雰囲気違うね。シュウヤが着てる服と同じ格好の人、いっぱいいる」
「そりゃ、ココがオレの故郷だからな」
「さあ、さあ。立ち話はそれくらいにして」
と、渾沌が二人を急かす。
「早いとこ、晴奈のところに行きましょ」
「だな」
半年ぶりに帰ってきても、やはり黄屋敷はいつも通りだった。
秋也が玄関に入るなり、女中たちがわらわらと寄って来た。
「あら坊ちゃん、お帰りなさいませ。お久しゅうございます」
「ああ、ただいま」
「いらっしゃいませ、渾沌さん。お変わりありませんようで」
「ええ、おかげさまで」
「こちらの可愛らしい方はどなたです?」
「……?(何て言ったの)?」
ちなみに央南に渡る前、ベルは秋也から簡単に央南語を教わってはいたが――いくらハーミット卿の血を引いているとは言え――数時間で習得できるほど、また、習得させられるほど、二人の頭は良くない。
そのため話の大部分を、秋也がベルに通訳している。
「(可愛い、って言ってくれたんだよ)。
で、この子はオレの、……コホン、……婚約者」
秋也がそう言ってベルを紹介した途端、女中たちは大騒ぎし始めた。
「……あら、あらあら!」
「まあまあ、お坊ちゃんが!」
「おめでとうございます!」
「ああ、うん、ども」
そしてバタバタと、一斉に奥へと消える。
「奥様、奥様! 大変です、大変ですよー!」
「秋也お坊ちゃんがお嫁さんをお連れになって戻られましたよー!」
少し間を置いて、二階から乱暴気味に戸を開ける音が響いて来た。
「何だって? 秋也が? 嫁を?」
「ただいまー」
部屋から出てきた母、晴奈に、秋也は声をかけた。
「ああ、おかえり秋也。……で、今の話は本当か?」
「ああ。ここにいるのがそうなんだ」
「あ、は、初めまして! ベル・ハーミットと申します!」
その名前を聞いた晴奈は、考えるそぶりを見せながら階段を下りてきた。
「ハーミット? どこかで聞いた名だな?」
「えっと……、ネロ・ハーミットって覚えてる?」
「ネロ? ……ああ、あの長耳の。……うん?」
二人の前まで来たところで、晴奈はベルの顔をまじまじと見つめた。
「となるともしや、お主の母親はジーナか?」
「え、分かるんですか?」
「ああ。『猫』であるし、目鼻立ちがそっくりだからな。なるほど、やはりあの二人は結婚したか。
そしてその娘が、秋也を見染めるとは。ここ最近で一番の吉事だな」
晴奈はそう言って――何故か寂しそうに笑った。
「え、月乃が……!?」
秋也は晴奈から、秋也の妹・黄月乃が晴奈に対し、離反したことを聞かされた。
彼女はなんと黄派焔流道場から十数名を率い、小雪率いる紅蓮塞へと移ってしまったのだ。
「立場こそ違うが、これではまるで、40年前の篠原蹶起と同じだ。恐らく、その結果、結末もな」
「篠原って……、母さんが良く話してくれた、道を誤った剣士って言ってた、あの?」
「ああ。彼奴も奥方の佞言に惑わされ、当時の家元に反旗を翻すも一蹴され、その結果隠密として汚れ仕事に埋没し、その挙句に恥ずべき戦犯、ただの悪党として末期を迎えることとなった。
月乃は二度と、ここへは戻るまい。しかし黄派と本家との仲が悪い今、最悪の場合、両派は断絶することとなろう。そうなれば両方の流れを汲む月乃はどちらからも背かれ、立ち往生するやも知れぬ。
篠原の二の舞にならなければいいが……」
「大変なコトになってるんだな」
しゅんとなる秋也に、晴奈も困った顔を向ける。
「ああ、その通りだ。そしてこうなってくると、色々と困ることもあってな。
目下の問題が、道場の跡継ぎだ。春司は早くからトムの仕事を継ぐと言っているし、月乃は出て行ってしまった。
私の血筋からと考えると秋也、残るのはお前だけなんだが……、どうだ? 継ぐ気は無いか?」
「えっ」
「いや、勿論私が健在であれば、その間は私がやるつもりだ。私の身に何かあった後、と考えてくれればいい。どうだろうか?」
「うー……ん」
秋也はここに来た理由――西方で黄派焔流道場を開こうと考え、その許可を道場主である晴奈からもらおうと思い、訪れたことを明かした。
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そして翌日。
秋也とベルは渾沌の力を借り、央南・黄海に渡っていた。
「半年ぶりくらいだなぁ」
「そうね。前に帰って来たの、秋の半ばくらいだったし」
街の様子に変わったところは無く、秋也にとっていつも通りのにぎわいを見せている。
一方、初めて央南を訪れたベルはきょろきょろと辺りを見回していた。
「全然、あたしんとこと雰囲気違うね。シュウヤが着てる服と同じ格好の人、いっぱいいる」
「そりゃ、ココがオレの故郷だからな」
「さあ、さあ。立ち話はそれくらいにして」
と、渾沌が二人を急かす。
「早いとこ、晴奈のところに行きましょ」
「だな」
半年ぶりに帰ってきても、やはり黄屋敷はいつも通りだった。
秋也が玄関に入るなり、女中たちがわらわらと寄って来た。
「あら坊ちゃん、お帰りなさいませ。お久しゅうございます」
「ああ、ただいま」
「いらっしゃいませ、渾沌さん。お変わりありませんようで」
「ええ、おかげさまで」
「こちらの可愛らしい方はどなたです?」
「……?(何て言ったの)?」
ちなみに央南に渡る前、ベルは秋也から簡単に央南語を教わってはいたが――いくらハーミット卿の血を引いているとは言え――数時間で習得できるほど、また、習得させられるほど、二人の頭は良くない。
そのため話の大部分を、秋也がベルに通訳している。
「(可愛い、って言ってくれたんだよ)。
で、この子はオレの、……コホン、……婚約者」
秋也がそう言ってベルを紹介した途端、女中たちは大騒ぎし始めた。
「……あら、あらあら!」
「まあまあ、お坊ちゃんが!」
「おめでとうございます!」
「ああ、うん、ども」
そしてバタバタと、一斉に奥へと消える。
「奥様、奥様! 大変です、大変ですよー!」
「秋也お坊ちゃんがお嫁さんをお連れになって戻られましたよー!」
少し間を置いて、二階から乱暴気味に戸を開ける音が響いて来た。
「何だって? 秋也が? 嫁を?」
「ただいまー」
部屋から出てきた母、晴奈に、秋也は声をかけた。
「ああ、おかえり秋也。……で、今の話は本当か?」
「ああ。ここにいるのがそうなんだ」
「あ、は、初めまして! ベル・ハーミットと申します!」
その名前を聞いた晴奈は、考えるそぶりを見せながら階段を下りてきた。
「ハーミット? どこかで聞いた名だな?」
「えっと……、ネロ・ハーミットって覚えてる?」
「ネロ? ……ああ、あの長耳の。……うん?」
二人の前まで来たところで、晴奈はベルの顔をまじまじと見つめた。
「となるともしや、お主の母親はジーナか?」
「え、分かるんですか?」
「ああ。『猫』であるし、目鼻立ちがそっくりだからな。なるほど、やはりあの二人は結婚したか。
そしてその娘が、秋也を見染めるとは。ここ最近で一番の吉事だな」
晴奈はそう言って――何故か寂しそうに笑った。
「え、月乃が……!?」
秋也は晴奈から、秋也の妹・黄月乃が晴奈に対し、離反したことを聞かされた。
彼女はなんと黄派焔流道場から十数名を率い、小雪率いる紅蓮塞へと移ってしまったのだ。
「立場こそ違うが、これではまるで、40年前の篠原蹶起と同じだ。恐らく、その結果、結末もな」
「篠原って……、母さんが良く話してくれた、道を誤った剣士って言ってた、あの?」
「ああ。彼奴も奥方の佞言に惑わされ、当時の家元に反旗を翻すも一蹴され、その結果隠密として汚れ仕事に埋没し、その挙句に恥ずべき戦犯、ただの悪党として末期を迎えることとなった。
月乃は二度と、ここへは戻るまい。しかし黄派と本家との仲が悪い今、最悪の場合、両派は断絶することとなろう。そうなれば両方の流れを汲む月乃はどちらからも背かれ、立ち往生するやも知れぬ。
篠原の二の舞にならなければいいが……」
「大変なコトになってるんだな」
しゅんとなる秋也に、晴奈も困った顔を向ける。
「ああ、その通りだ。そしてこうなってくると、色々と困ることもあってな。
目下の問題が、道場の跡継ぎだ。春司は早くからトムの仕事を継ぐと言っているし、月乃は出て行ってしまった。
私の血筋からと考えると秋也、残るのはお前だけなんだが……、どうだ? 継ぐ気は無いか?」
「えっ」
「いや、勿論私が健在であれば、その間は私がやるつもりだ。私の身に何かあった後、と考えてくれればいい。どうだろうか?」
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秋也はここに来た理由――西方で黄派焔流道場を開こうと考え、その許可を道場主である晴奈からもらおうと思い、訪れたことを明かした。
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