「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第3部
白猫夢・清算抄 7
麒麟を巡る話、第157話。
きっと、いい未来に。
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7.
秋也から事の顛末を聞き、晴奈は残念そうな顔をする。
「ふーむ……、そうか、……確かにそれも良いとは思える。此度の件さえ無ければ、だが。
ベルに、こちらへ嫁いでもらうと言うわけには行かぬだろうか?」
「え、うーん……」
「そりゃ、いいかも知れないけど」「晴奈、あんた半年前のこと忘れたの?」
秋也がうなずきかけたところで、傍観していた渾沌が話に入ってくる。
「これからもっと本家とゴタゴタが起きるって時に、火種の秋也を担ぎ上げる気? しかも無関係に等しいベルちゃんまで巻き込む気なの?」
「む……、そうだな、確かに角が立ち過ぎるか。となるとこちらの道場の件は、明奈の方に頼むしかないか。
幸い今、道場には朱明(しゅめい)がいる。まだ若いが腕も悪くないし、おいおい頼んでみるとしよう」
朱明と言うのは明奈の息子、つまり秋也の従兄弟のことである。こちらも猫獣人で、秋也と同じく白地に茶斑の毛並みをしている。
「ゴメンな、母さん。役に立たなくて」
「阿呆」
謝る秋也に、晴奈はクスクスと笑って見せる。
「此度の騒ぎで、お前が悪い点など全く無い。悪いとするなら、お前を悪いと見なした奴らの目と頭が悪いのだ。
お前が私の自慢の息子だと言う思いは、お前が生まれてからの20余年、何ら変化していない。今もこうやって、妻ができたことを報告してくれたし、遠い地で私の道場を広めてくれるとまで言ってくれた。
こんな果報者を悪く言う奴は、それこそ性根が悪腐れしていると言うものだ」
「え、じゃあ……」
「ああ、そちらの道場の件なら気にせず、『黄派焔流』と名乗って開くがいい。私にできることであれば何でもやってやる」
「ありがとう、母さん」
「ありがとうございます」
「うん、……頑張れよ、秋也、それからベル」
と、にっこり笑いかけたところで――。
「……秋也?」
「ん?」
「刀はどうした?」
「え」
「良く見れば鞘しか無いではないか。何かあったのか?」
「え、えーと」
秋也は西方でベルがさらわれたこと、そしてさらった張本人、アルトとの戦いで刀を失ったことを話した。
「なんと。左様な事件があったのか。……ははあ」
そこで晴奈は、またベルに笑いかけた。
「さては嫁君、そこで秋也に惚れたか?」
「ふえっ、……あは、は、……はい」
顔を真っ赤にしたベルを見て、晴奈はまた笑う。
「なるほど、なるほど。秋也、お前は本当の『侍』になったな」
「え?」
「仁義に篤く、己の信念を貫き通し、悪に対しては己の身も顧みず敢然と立ち向かい、そして見事に打ち破って見せた。
これほどの傑物を侍と言わずして、何と言う? お前は真の侍だよ、秋也」
「ん……うん……」
英雄と謳われた母に褒めちぎられ、秋也は思わず涙する。
「ありがとう……母さん……すっげ、……嬉しいよ」
「ふふふ……」
晴奈は一振りの、古い刀を秋也に手渡した。
「コレは?」
「伝説の剣豪、楢崎瞬二がかつて振るっていた刀だ。
訳あって私の手に渡ったが、私には『蒼天剣』があるからな。長らく誰も使っていなかったから、お前が使うといい」
「いいのか?」
「刀には床の間に飾る観賞用、社に祀る祭事用と様々あるが、それは間違い無く、戦うために打たれた刀だ。銘は無いが、相当の逸品であることは私が保証する。
お前が新たな主とあらば、その刀も喜ぶよ」
「……何から何まで、……本当に、ありがとう。
オレ、頑張るよ」
「うむ」
晴奈と女中たちに見送られ、秋也とベル、渾沌は黄屋敷を後にする。
「いつでも遊びに来てくれ。いずれ孫もできたら、顔を見せてくれよ」
「ああ、勿論。……じゃあな」
「ああ、またな秋也。そしてベル」
そこで渾沌が、無言でちょいちょいと自分を指差す。
「勿論渾沌、お主もな」
「そりゃどうも。……じゃ、ね」
離れていく三人に晴奈は手を振りながら、ぼそ、とこうつぶやいた。
「『じゃあな』か。……子供はいずれ親元を離れるのが道理だが、……皆、いなくなると言うのは寂しいものだ」
「奥様……」
「……心配するな。少なくとも秋也は里帰りしてくれるさ。
次に会う時はきっと、孫の顔が見れるだろう。それを楽しみにしておくとしよう」
晴奈はくる、と踵を返し、屋敷に戻って行った。
西方に戻る前に、秋也が「港が見たい」と言い出した。
港に向かい、埠頭の端に座り込んだところで、秋也はこう言った。
「コレからさ、いっぱい、大変なコトがあるんだろうなって思うとさ、ちょっと帰る前に、心の整理を付けたくって」
「そっか。……ねえ」
ベルも秋也の側に座り、秋也の肩にこつんと頭を乗せてきた。
「これから、うまく行くと思う?
あたし、兵士になれるかな? シュウヤは、西方で暮らしていけるかな? みんな、幸せになれるのかな、……って、色々考えちゃうんだ」
「……分かんねーよ」
秋也はベルの頭を優しく抱き、こう返した。
「オレは預言者じゃないし、預言を受けるなんてのも、もうやめた。
結局さ、自分を信じなきゃ、『自分にとって一番』だって道は拓けやしないんだよ。ベル、お前も自分を信じてみろよ。……そうすれば、きっと」
「……うん、きっと」
二人の言葉が重なった。
「きっと、うまく行く」「きっと、うまくやってみせる」
白猫夢・清算抄 終
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きっと、いい未来に。
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7.
秋也から事の顛末を聞き、晴奈は残念そうな顔をする。
「ふーむ……、そうか、……確かにそれも良いとは思える。此度の件さえ無ければ、だが。
ベルに、こちらへ嫁いでもらうと言うわけには行かぬだろうか?」
「え、うーん……」
「そりゃ、いいかも知れないけど」「晴奈、あんた半年前のこと忘れたの?」
秋也がうなずきかけたところで、傍観していた渾沌が話に入ってくる。
「これからもっと本家とゴタゴタが起きるって時に、火種の秋也を担ぎ上げる気? しかも無関係に等しいベルちゃんまで巻き込む気なの?」
「む……、そうだな、確かに角が立ち過ぎるか。となるとこちらの道場の件は、明奈の方に頼むしかないか。
幸い今、道場には朱明(しゅめい)がいる。まだ若いが腕も悪くないし、おいおい頼んでみるとしよう」
朱明と言うのは明奈の息子、つまり秋也の従兄弟のことである。こちらも猫獣人で、秋也と同じく白地に茶斑の毛並みをしている。
「ゴメンな、母さん。役に立たなくて」
「阿呆」
謝る秋也に、晴奈はクスクスと笑って見せる。
「此度の騒ぎで、お前が悪い点など全く無い。悪いとするなら、お前を悪いと見なした奴らの目と頭が悪いのだ。
お前が私の自慢の息子だと言う思いは、お前が生まれてからの20余年、何ら変化していない。今もこうやって、妻ができたことを報告してくれたし、遠い地で私の道場を広めてくれるとまで言ってくれた。
こんな果報者を悪く言う奴は、それこそ性根が悪腐れしていると言うものだ」
「え、じゃあ……」
「ああ、そちらの道場の件なら気にせず、『黄派焔流』と名乗って開くがいい。私にできることであれば何でもやってやる」
「ありがとう、母さん」
「ありがとうございます」
「うん、……頑張れよ、秋也、それからベル」
と、にっこり笑いかけたところで――。
「……秋也?」
「ん?」
「刀はどうした?」
「え」
「良く見れば鞘しか無いではないか。何かあったのか?」
「え、えーと」
秋也は西方でベルがさらわれたこと、そしてさらった張本人、アルトとの戦いで刀を失ったことを話した。
「なんと。左様な事件があったのか。……ははあ」
そこで晴奈は、またベルに笑いかけた。
「さては嫁君、そこで秋也に惚れたか?」
「ふえっ、……あは、は、……はい」
顔を真っ赤にしたベルを見て、晴奈はまた笑う。
「なるほど、なるほど。秋也、お前は本当の『侍』になったな」
「え?」
「仁義に篤く、己の信念を貫き通し、悪に対しては己の身も顧みず敢然と立ち向かい、そして見事に打ち破って見せた。
これほどの傑物を侍と言わずして、何と言う? お前は真の侍だよ、秋也」
「ん……うん……」
英雄と謳われた母に褒めちぎられ、秋也は思わず涙する。
「ありがとう……母さん……すっげ、……嬉しいよ」
「ふふふ……」
晴奈は一振りの、古い刀を秋也に手渡した。
「コレは?」
「伝説の剣豪、楢崎瞬二がかつて振るっていた刀だ。
訳あって私の手に渡ったが、私には『蒼天剣』があるからな。長らく誰も使っていなかったから、お前が使うといい」
「いいのか?」
「刀には床の間に飾る観賞用、社に祀る祭事用と様々あるが、それは間違い無く、戦うために打たれた刀だ。銘は無いが、相当の逸品であることは私が保証する。
お前が新たな主とあらば、その刀も喜ぶよ」
「……何から何まで、……本当に、ありがとう。
オレ、頑張るよ」
「うむ」
晴奈と女中たちに見送られ、秋也とベル、渾沌は黄屋敷を後にする。
「いつでも遊びに来てくれ。いずれ孫もできたら、顔を見せてくれよ」
「ああ、勿論。……じゃあな」
「ああ、またな秋也。そしてベル」
そこで渾沌が、無言でちょいちょいと自分を指差す。
「勿論渾沌、お主もな」
「そりゃどうも。……じゃ、ね」
離れていく三人に晴奈は手を振りながら、ぼそ、とこうつぶやいた。
「『じゃあな』か。……子供はいずれ親元を離れるのが道理だが、……皆、いなくなると言うのは寂しいものだ」
「奥様……」
「……心配するな。少なくとも秋也は里帰りしてくれるさ。
次に会う時はきっと、孫の顔が見れるだろう。それを楽しみにしておくとしよう」
晴奈はくる、と踵を返し、屋敷に戻って行った。
西方に戻る前に、秋也が「港が見たい」と言い出した。
港に向かい、埠頭の端に座り込んだところで、秋也はこう言った。
「コレからさ、いっぱい、大変なコトがあるんだろうなって思うとさ、ちょっと帰る前に、心の整理を付けたくって」
「そっか。……ねえ」
ベルも秋也の側に座り、秋也の肩にこつんと頭を乗せてきた。
「これから、うまく行くと思う?
あたし、兵士になれるかな? シュウヤは、西方で暮らしていけるかな? みんな、幸せになれるのかな、……って、色々考えちゃうんだ」
「……分かんねーよ」
秋也はベルの頭を優しく抱き、こう返した。
「オレは預言者じゃないし、預言を受けるなんてのも、もうやめた。
結局さ、自分を信じなきゃ、『自分にとって一番』だって道は拓けやしないんだよ。ベル、お前も自分を信じてみろよ。……そうすれば、きっと」
「……うん、きっと」
二人の言葉が重なった。
「きっと、うまく行く」「きっと、うまくやってみせる」
白猫夢・清算抄 終
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「白猫夢」第3部、これにて終了です。
そして秋也の冒険譚も、これでひとまずおしまい。
次は誰が、白猫に誘われるのか。
乞うご期待。
……と言いたいところですが、PCにwindows8をインストールするのにすったもんだしたことと、
ここ数ヶ月、仕事が超絶に忙しかったこと、何より体調を崩し、休日はほぼ伏せっていたこともあり、
またもやストックが無くなりました。
今しばらく、余裕をいただきたいところ。
OSのインストールは済んだので、あとは仕事をひと段落させ、体調を整え、十分なストックを書き貯めるだけ。
だけ、ですが、恐らく12月いっぱいはかかると思われます。
なので、第4部は年明けから連載開始予定とします。
皆様、もうしばらくお待ちくださいませ。
「白猫夢」第3部、これにて終了です。
そして秋也の冒険譚も、これでひとまずおしまい。
次は誰が、白猫に誘われるのか。
乞うご期待。
……と言いたいところですが、PCにwindows8をインストールするのにすったもんだしたことと、
ここ数ヶ月、仕事が超絶に忙しかったこと、何より体調を崩し、休日はほぼ伏せっていたこともあり、
またもやストックが無くなりました。
今しばらく、余裕をいただきたいところ。
OSのインストールは済んだので、あとは仕事をひと段落させ、体調を整え、十分なストックを書き貯めるだけ。
だけ、ですが、恐らく12月いっぱいはかかると思われます。
なので、第4部は年明けから連載開始予定とします。
皆様、もうしばらくお待ちくださいませ。



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総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
恥ずかしながら帰ってまいりました
西方で旗揚げ、とか聞くと、つい、
「芦原よ四国へ行けっ!」
という空手バカ一代の大山館長の言葉が頭に浮かんでしまうであります。条件反射なのでどうにもならないのであります。
それはそれとして、次の白猫のターゲットは、焔流から離反したあの娘ですか? なんかそんな気が……。
「芦原よ四国へ行けっ!」
という空手バカ一代の大山館長の言葉が頭に浮かんでしまうであります。条件反射なのでどうにもならないのであります。
それはそれとして、次の白猫のターゲットは、焔流から離反したあの娘ですか? なんかそんな気が……。
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おかえりなさい
自分も十数年前に読んだ漫画の1シーンが、ふっと脳裏によみがえることが時々あります。
次回の構想はほぼまとまっていません。
見切り発車しようにも、レールも敷かれてなければ車輌も届いてないと言う有様です。
ただ、焔流の内紛的なお話にしようかなとは思っているので、ポールさんの読みも、当たらずとも遠からずと言った感じです。
お楽しみに(;´∀`)