「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第3部
蒼天剣・戦凪録 1
晴奈の話、第129話。
ぐったり。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
天原及び篠原一派との戦いから、2日後。
天原の隠れ家における戦いで、晴奈はかなりの重傷を負った。また、リストも精神的に相当衰弱し、さらにエルスも数日間徹夜で過ごしていたため、疲労困憊の状態にあった。
連合の重要人物たち3人は、揃って疲弊しきっていた。
「大分寝たけど、……ふああ。ダメだ、疲れが全然抜けないや」
「あー……、火傷と刀傷が痛む」
「……」
3人はとりあえず集まってみたものの、どうにも話が弾まない。
と、ようやく紅蓮塞から戻ってきた明奈が部屋に入ってきた。
「ただいま戻りました。お久しぶりです、皆さ、……ん」
部屋に入るなり、明奈は絶句した。
「あ、久しぶりだな明奈。……どうした?」
「……三人とも、どうしたんですか? 顔が死人のようですよ?」
「……」
明奈に指摘され、改めて晴奈たちは顔を見合わせた。
「はは、確かにすごい顔になってる」
「……」
「まあ、仕方ないだろう。かなりの修羅場だったからな」
「あ、あの。お茶、淹れてきますね」
エルスと晴奈は顔を見合わせ、深いため息をついた。
「お茶、かぁ。……コーヒー頼める?」
「え? ええ、まあ。お豆、あったかしら」
明奈は頬に手を当てながら、給湯室に向かった。明奈がいなくなったところで、晴奈がぼそっとつぶやいた。
「朔美の振舞いのせいで、あの苦境だからな。しばらく茶は飲みたくない」
「同感だね。メイナには悪いけど」
「……手伝ってくる」
リストはフラフラと立ち上がり、部屋を後にした。
給湯室に現れたリストを見て、明奈は手を止めた。
「あら、リストさん。どうなさったの?」
「手伝おうかな、って」
手を伸ばしてきたリストに、明奈は何の気なしにこう言った。
「構いませんよ。わたし、コーヒーも淹れるの得意なんです。リストさんは休んでらして」
「……!」
突然、リストは泣き出した。
「うっ……」
「ど、どうなさったんです?」
「アタシ、何にも役に立たなかった……」
リストはボロボロと涙をこぼしながら、明奈に抱きつく。
「リストさん……」
「何が銃士隊よ、何が銃の名人よ……! アタシ、役に立つどころかエルスの足を引っ張って……。何にもできない、何にもできてないよ……」
泣きじゃくるリストを、明奈は優しく抱きしめる。
「今回は仕方ありませんよ、リストさん。雨が降っていたのですし、準備も整いきっていなかったのですから。リストさんのせいじゃありませんよ」
「でも、エルスは使えるように色々してくれたのよ。それをアタシの油断で台無しにして……」
「もう終わったことでしょう、リストさん」
リストの頭を優しく撫でながら、明奈は諭す。
「エルスさんも、気にしていません。それにほら、博士も仰っていましたよ。『鳥は空にいてこそ鳥であり、魚は水に棲んでこそ魚である』って」
「……じーちゃんが?」
「ええ。北方にいた時、教えていただいたんです。
鳥は空を飛ぶ生き物であり、魚は水中を泳ぐ生き物である。鳥を水の中に押し込めばおぼれるし、魚を空中に放っても空は飛べない。すべてのものは皆、得意とする局面、不得意とする局面がある、と。
リストさんはたまたま、不得意な局面に遭ってしまっただけですよ。それでも最初、教団を押し返していたのですから、そこは評価されるべきです。今回のことは気にせず、次、自分の力を存分に発揮できる場所で、今回の失敗を挽回すればいいじゃないですか」
「……メイナぁ」
リストはより強く、明奈を抱きしめる。明奈はそれ以上何も言わず、優しく頭を撫でた。
「酸っぱい……」
コーヒーを口に入れた途端、晴奈とエルスは口をすぼめた。
「あら……、すみません。時間をかけすぎたみたいで」
「ううん、違うの」
謝る明奈をさえぎって、リストが頭を下げる。
「アタシが邪魔しちゃったから。ゴメンね」
「そっか。まあ、これはこれで美味しいし」
エルスはにっこりと笑って、コーヒーを飲み干した。
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ぐったり。
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天原及び篠原一派との戦いから、2日後。
天原の隠れ家における戦いで、晴奈はかなりの重傷を負った。また、リストも精神的に相当衰弱し、さらにエルスも数日間徹夜で過ごしていたため、疲労困憊の状態にあった。
連合の重要人物たち3人は、揃って疲弊しきっていた。
「大分寝たけど、……ふああ。ダメだ、疲れが全然抜けないや」
「あー……、火傷と刀傷が痛む」
「……」
3人はとりあえず集まってみたものの、どうにも話が弾まない。
と、ようやく紅蓮塞から戻ってきた明奈が部屋に入ってきた。
「ただいま戻りました。お久しぶりです、皆さ、……ん」
部屋に入るなり、明奈は絶句した。
「あ、久しぶりだな明奈。……どうした?」
「……三人とも、どうしたんですか? 顔が死人のようですよ?」
「……」
明奈に指摘され、改めて晴奈たちは顔を見合わせた。
「はは、確かにすごい顔になってる」
「……」
「まあ、仕方ないだろう。かなりの修羅場だったからな」
「あ、あの。お茶、淹れてきますね」
エルスと晴奈は顔を見合わせ、深いため息をついた。
「お茶、かぁ。……コーヒー頼める?」
「え? ええ、まあ。お豆、あったかしら」
明奈は頬に手を当てながら、給湯室に向かった。明奈がいなくなったところで、晴奈がぼそっとつぶやいた。
「朔美の振舞いのせいで、あの苦境だからな。しばらく茶は飲みたくない」
「同感だね。メイナには悪いけど」
「……手伝ってくる」
リストはフラフラと立ち上がり、部屋を後にした。
給湯室に現れたリストを見て、明奈は手を止めた。
「あら、リストさん。どうなさったの?」
「手伝おうかな、って」
手を伸ばしてきたリストに、明奈は何の気なしにこう言った。
「構いませんよ。わたし、コーヒーも淹れるの得意なんです。リストさんは休んでらして」
「……!」
突然、リストは泣き出した。
「うっ……」
「ど、どうなさったんです?」
「アタシ、何にも役に立たなかった……」
リストはボロボロと涙をこぼしながら、明奈に抱きつく。
「リストさん……」
「何が銃士隊よ、何が銃の名人よ……! アタシ、役に立つどころかエルスの足を引っ張って……。何にもできない、何にもできてないよ……」
泣きじゃくるリストを、明奈は優しく抱きしめる。
「今回は仕方ありませんよ、リストさん。雨が降っていたのですし、準備も整いきっていなかったのですから。リストさんのせいじゃありませんよ」
「でも、エルスは使えるように色々してくれたのよ。それをアタシの油断で台無しにして……」
「もう終わったことでしょう、リストさん」
リストの頭を優しく撫でながら、明奈は諭す。
「エルスさんも、気にしていません。それにほら、博士も仰っていましたよ。『鳥は空にいてこそ鳥であり、魚は水に棲んでこそ魚である』って」
「……じーちゃんが?」
「ええ。北方にいた時、教えていただいたんです。
鳥は空を飛ぶ生き物であり、魚は水中を泳ぐ生き物である。鳥を水の中に押し込めばおぼれるし、魚を空中に放っても空は飛べない。すべてのものは皆、得意とする局面、不得意とする局面がある、と。
リストさんはたまたま、不得意な局面に遭ってしまっただけですよ。それでも最初、教団を押し返していたのですから、そこは評価されるべきです。今回のことは気にせず、次、自分の力を存分に発揮できる場所で、今回の失敗を挽回すればいいじゃないですか」
「……メイナぁ」
リストはより強く、明奈を抱きしめる。明奈はそれ以上何も言わず、優しく頭を撫でた。
「酸っぱい……」
コーヒーを口に入れた途端、晴奈とエルスは口をすぼめた。
「あら……、すみません。時間をかけすぎたみたいで」
「ううん、違うの」
謝る明奈をさえぎって、リストが頭を下げる。
「アタシが邪魔しちゃったから。ゴメンね」
「そっか。まあ、これはこれで美味しいし」
エルスはにっこりと笑って、コーヒーを飲み干した。
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