黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・逐雪抄 1

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    麒麟を巡る話、第158話。
    道を誤る者。

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    1.
     央南の大都市、黄海の街はずれ。
     黄派焔流剣術の門下生が5人、隠れるように集まっていた。
    「秋也のヤツ、本当に持って来てくれるのかな……?」
    「どーだろーなー」
    「先生の息子ったって、流石に『アレ』持って来るなんて……」
     こそこそとそんな話をしていたところに、その本人――「黄先生」の息子、黄秋也がやって来た。
    「いやー、苦労したぜ」
    「お、もしかして本当に?」
    「おう」
     秋也は抱えていた風呂敷包みからごそ、と刀を取り出した。
    「これが、『御神体』か?」
    「おう。いっつも床の間に飾ってあった、アレだよ」
     秋也はニヤニヤ笑いながら、その刀を自分の腰に佩く。
    「どーだ」
    「どーだっつってもなぁ」
     門下生たちは苦笑いを返す。
    「やっぱ抜いてみなきゃなぁ」
    「……だな」
     秋也の方も苦笑いを返しつつ、柄に手をかけた。
     と――。
    「あ、あのっ」
     それを止める者が出た。
    「ん? どした、朱明(しゅめい)?」
    「なんか、嫌な予感がするんです」
    「つってもなぁ」
     止めた朱明に対し、他の門下生たちは肩をすくめる。
    「やっぱ見たいじゃん?」
    「なぁ。ここまで来といて抜かないってのは、味気無いぜ」
    「抜いちゃえよ、秋也」
    「ん、ああ」
     その場の流れに逆らえず、朱明は黙って見守ることしかできない。
    (なんか……なんか、怖い)
     朱明はいつの間にか、自分の袴の裾を堅く握りしめていた。

     その間に、秋也は散々もったいぶった後、すらりと刀を抜いていた。
    「……」
     その刀身を目にした途端、門下生たちは絶句する。
    「な、……んだ?」
    「……」
    「き、気味、悪りっ……」
     刀からにじむ青い光が、その場にいた全員の心をさくりと刺す。
    「……うえ、げっ、げろっ」
     不意に、一人が吐く。
    「お、おい、どうし、……うげえええっ」
     もう一人、顔を紫色にし、嘔吐しながら倒れる。
     他の二人も、袴をびしょびしょに濡らして崩れ落ちる。
    「しゅ、しゅ、秋也さん、か、か、かたっ、刀、早く、しまって……」
     朱明も吐き気と虚脱感をこらえながら、刀を抜いたままの秋也に、どうにか声をかける。
    「……」
     しかし、秋也は答えない。
     彼は立ったまま、気を失っているようだった。
     そして朱明の意識も、そこで途切れた。

     朱明が目を覚ましたのは、3日ほど後だった。
     その時には既に、秋也が道場から刀を盗んだことは発覚しており、秋也は師匠であり母である黄晴奈から、相当の叱咤と折檻を受けたと聞かされた。
     朱明を含めた門下生5名は揃って丸坊主にされた後、一ヶ月の謹慎を言い渡された。



     この事件以来――黄晴奈の甥、黄朱明は、目に見えて物静かな性格になったと言う。
     元々から温和で大人しい少年だったのだが、この事件を境に、常に「一歩引いた」態度を執るようになった。
     それを一度、師匠の晴奈から「剣士にしてはいささか消極的ではないか」と、やんわりと咎められたことがあったが――。
    「時には勇気、勇者がただの蛮勇、荒くれ者になることもあります。
     いえ、その人物が元より悪いと言うわけでは無いのです。どれほど高潔で素晴らしい人格者であっても、周りの空気に流されて、あるいは親しき人間にそれとなく唆されて、やむなく道を外すこともある、……と僕は考えているのです。
     それは伯母さん、……あ、いえ、師匠が何度も仰っていた、篠原龍明と言う剣士のそれに近いものでは無いでしょうか? 彼も優れた剣士であったのに、ちょっとした誘惑で自分の道を踏み外してしまったと仰っていたでしょう?
     師匠がいつになく激怒し、僕たちを叱り飛ばしたあの事件も、成り行きは同じでした。秋也さんは確かに優れた剣士だと思いますし、僕も少なからず目標に、そして誇りにしている人です。しかしあの時、秋也さんは仲間のちょっとした冗談に付き合い、そしてあの愚行を犯してしまった。
     それを僕は、危惧しているのです。ですから周りの空気に流されないよう、僕は常に一歩後ろから、状況を見定めようと心得ている。そのつもりなのです」
     毅然とこう返され、晴奈も「あ、うむ」とうなずくしかなかった。



     10代の頃からこれだけ達観した性格を有していたこと、また、己の息子や娘たちと疎遠にになってしまったこともあって、晴奈はまだぼんやりとではあるが、朱明を己の後継者にしようかと考え始めていた。
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