「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・逐雪抄 2
麒麟を巡る話、第159話。
黄家の談義、焔流の謀議。
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2.
晴奈は甥の朱明を後継者にしてもよいかと、まずは彼の母、即ち己の妹である当代黄家宗主、黄明奈に打診した。
「どうだろう? いや、明奈が自分の後継者にと考えているなら、そちらを優先するが」
「お姉様」
これを受けた明奈は眉をひそめ、あからさまに嫌そうな顔を見せた。
「昔、ご自分にされたこと、忘れてらっしゃるのね」
「うん?」
「赤ん坊の頃からお父様に『婿を取り、黄家を継いでもらう』と決められて幼い頃から花嫁修業させられて、それに反発して黄海を出て行ったのは、一体どなたでしたかしら?」
「う」
古い記憶を突かれ、晴奈は閉口する。
「人間、歳をとると親と似たようなことをすると言いますが、まさかお姉様ともあろう方がそれをなさるとは思いませんでしたわ。
朱くんにも朱くんの考えがあるはずです。それを無視してまず自分の展望を押し付けようだなんて、あの頃のお姉様が今のお姉様を見たら、どんな顔をなさるでしょうね?」
「す、すまない」
「……とは言え、確かに朱くんももう20歳を迎えましたし、そろそろ自分の生きる道を定めないといけない頃ではありますね。
それとなく聞いてみても、いいかも知れません。ただ、今も言ったように朱くんの考えは尊重してくださいね」
「む、無論だ」
晴奈はばつの悪い思いをしながらも、小さくうなずいた。
一方、その頃――。
「では、いよいよ計画を実行するのですね?」
晴奈の娘、黄月乃と他数名が、本家焔流家元である焔小雪の前に跪き、紅蓮塞のどこか、暗く締め切った堂の中でこそこそと話し合っていた。
「ええ。これで我が焔流の屈辱を、余すところなく雪(そそ)ぐことができるはずよ。
黄。笠尾。深見。御経。九鬼。やって、くれるわね?」
「勿論です」
小雪と最も近い位置に並ぶ五名が、揃ってうなずく。
「よろしい。……まずは、そうね」
小雪は立ち上がり、そっと小窓を開ける。
「まずは塞内の体制一新、統一からよ。今のように、わたしがただのお飾りにさせられているこの状況を打破しなければ、何も動きはしないわ。
そのために、何をすべきか。黄、あなたはどう思う?」
問われた月乃は、こう答えた。
「そもそも、この塞内の長たる家元を差し置き、そのさらに上に立つ人間がのうのうと存在していることが、諸悪の根源かと存じます」
「そうね」
小雪は窓を閉め、続いて月乃の右隣にいる短耳の男性に尋ねる。
「笠尾。その諸悪の根源たる者とは、誰のことか分かる?」
「大先生夫妻……、もとい、焔雪乃と焔良太、両名であるかと」
「そうね。では深見」
「はっ」
笠尾からさらに右隣にいた、これも短耳の男性が応じる。
「その、諸悪の根源。どうすべきかしら?」
「論じるまでも無く。亡き者にすべきかと」
「いや、それは駄目だ」
と、その意見に、月乃の左隣にいた長耳の男性がが反論した。
「確かに家元の地位をぼかしている原因ではあることは否めぬが、その前にお二人は、家元の御両親だ。子が親を殺めるなど、どんな道理を用いたとしても正当化されるわけが無い」
「御経の言うことも一理かと」
笠尾が続く。
「我々はあくまで家元を唯一無二、絶対の存在にするのが目的であり、それを貶めては何の意味も成さぬ」
「ぬう……」
「……では、御経。次善の策としては、どうすべきかしら」
「平和的にその存在を封じるとあれば、どこかに幽閉した後、『夫妻は病に伏せり面会できぬ状態である』、とでも広めれば良いかと」
「そうね。それがいいわ」
「場所には心当たりがあります」
五人の中で最も左に座っていた虎獣人の女性が、手を挙げた。
「それはどこかしら、九鬼?」
「偶然見付けたのですが、疎星堂に地下があります。恐らく大多数の門下生も、あるいは錬士(れんし:作中においては免許皆伝者)や範士(はんし:作中においては錬士の中でも特に秀でた者)でも、その存在を知らぬ者も多いのではないかと」
「ふむ。そうね、わたしも初めて聞いたわ。
ではそこに、焔夫妻を幽閉することにしましょう」
冷たくそう言い放ち、小雪はにやぁ、と悪辣に笑って見せた。
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黄家の談義、焔流の謀議。
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晴奈は甥の朱明を後継者にしてもよいかと、まずは彼の母、即ち己の妹である当代黄家宗主、黄明奈に打診した。
「どうだろう? いや、明奈が自分の後継者にと考えているなら、そちらを優先するが」
「お姉様」
これを受けた明奈は眉をひそめ、あからさまに嫌そうな顔を見せた。
「昔、ご自分にされたこと、忘れてらっしゃるのね」
「うん?」
「赤ん坊の頃からお父様に『婿を取り、黄家を継いでもらう』と決められて幼い頃から花嫁修業させられて、それに反発して黄海を出て行ったのは、一体どなたでしたかしら?」
「う」
古い記憶を突かれ、晴奈は閉口する。
「人間、歳をとると親と似たようなことをすると言いますが、まさかお姉様ともあろう方がそれをなさるとは思いませんでしたわ。
朱くんにも朱くんの考えがあるはずです。それを無視してまず自分の展望を押し付けようだなんて、あの頃のお姉様が今のお姉様を見たら、どんな顔をなさるでしょうね?」
「す、すまない」
「……とは言え、確かに朱くんももう20歳を迎えましたし、そろそろ自分の生きる道を定めないといけない頃ではありますね。
それとなく聞いてみても、いいかも知れません。ただ、今も言ったように朱くんの考えは尊重してくださいね」
「む、無論だ」
晴奈はばつの悪い思いをしながらも、小さくうなずいた。
一方、その頃――。
「では、いよいよ計画を実行するのですね?」
晴奈の娘、黄月乃と他数名が、本家焔流家元である焔小雪の前に跪き、紅蓮塞のどこか、暗く締め切った堂の中でこそこそと話し合っていた。
「ええ。これで我が焔流の屈辱を、余すところなく雪(そそ)ぐことができるはずよ。
黄。笠尾。深見。御経。九鬼。やって、くれるわね?」
「勿論です」
小雪と最も近い位置に並ぶ五名が、揃ってうなずく。
「よろしい。……まずは、そうね」
小雪は立ち上がり、そっと小窓を開ける。
「まずは塞内の体制一新、統一からよ。今のように、わたしがただのお飾りにさせられているこの状況を打破しなければ、何も動きはしないわ。
そのために、何をすべきか。黄、あなたはどう思う?」
問われた月乃は、こう答えた。
「そもそも、この塞内の長たる家元を差し置き、そのさらに上に立つ人間がのうのうと存在していることが、諸悪の根源かと存じます」
「そうね」
小雪は窓を閉め、続いて月乃の右隣にいる短耳の男性に尋ねる。
「笠尾。その諸悪の根源たる者とは、誰のことか分かる?」
「大先生夫妻……、もとい、焔雪乃と焔良太、両名であるかと」
「そうね。では深見」
「はっ」
笠尾からさらに右隣にいた、これも短耳の男性が応じる。
「その、諸悪の根源。どうすべきかしら?」
「論じるまでも無く。亡き者にすべきかと」
「いや、それは駄目だ」
と、その意見に、月乃の左隣にいた長耳の男性がが反論した。
「確かに家元の地位をぼかしている原因ではあることは否めぬが、その前にお二人は、家元の御両親だ。子が親を殺めるなど、どんな道理を用いたとしても正当化されるわけが無い」
「御経の言うことも一理かと」
笠尾が続く。
「我々はあくまで家元を唯一無二、絶対の存在にするのが目的であり、それを貶めては何の意味も成さぬ」
「ぬう……」
「……では、御経。次善の策としては、どうすべきかしら」
「平和的にその存在を封じるとあれば、どこかに幽閉した後、『夫妻は病に伏せり面会できぬ状態である』、とでも広めれば良いかと」
「そうね。それがいいわ」
「場所には心当たりがあります」
五人の中で最も左に座っていた虎獣人の女性が、手を挙げた。
「それはどこかしら、九鬼?」
「偶然見付けたのですが、疎星堂に地下があります。恐らく大多数の門下生も、あるいは錬士(れんし:作中においては免許皆伝者)や範士(はんし:作中においては錬士の中でも特に秀でた者)でも、その存在を知らぬ者も多いのではないかと」
「ふむ。そうね、わたしも初めて聞いたわ。
ではそこに、焔夫妻を幽閉することにしましょう」
冷たくそう言い放ち、小雪はにやぁ、と悪辣に笑って見せた。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
あの子がねえ。
すっかりフォースの暗黒面に堕ちましたなあ。
そう思うと大火様という良師(?)に巡り会えたあの人は幸運だったのですなあ。しでかしたことはひどいけど(笑)
すっかりフォースの暗黒面に堕ちましたなあ。
そう思うと大火様という良師(?)に巡り会えたあの人は幸運だったのですなあ。しでかしたことはひどいけど(笑)
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NoTitle
そりゃ、暗黒面にも堕ちちゃいます。
「昔はやんちゃしてた」系ですね。
やんちゃの度合いがかなり過ぎてますが。