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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・逐雪抄 5

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    麒麟を巡る話、第162話。
    獣道に迷い込んだ「猫」。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     そのまま寮を後にし、二人は紅蓮塞の門前に向かう。
    「……あのっ、母上」
     と、晶奈が思いつめたような声色で、雪乃に話しかけてきた。
    「ん? どうしたの、晶ちゃん」
    「母上は良お兄様が、……あのような、自堕落な生活を送っていたことに、……その、どうお考えでしょうか?」
    「……」
     雪乃は立ち止まり、そして笑って見せた。
    「そうね、びっくりしたわ。『いつの間にか大人になっちゃったのね』、……なんて、軽く笑ってやりたいけれど。
     でも、……正直に言えば、小雪が謀反を起こそうとしていると聞いた時より、心が痛んだわね」
    「そうですか……」
    「もしも、今が内輪揉めしてる時じゃなくて、それに、5年くらい後になって、そう言うことになったのであれば、確かに笑い話、おめでたい話にできたかも知れないけれど、今は、……落ち込んじゃいそうよ」
    「母上……」
     沈痛な面持ちになる娘を見て、雪乃はもう一度笑う。
    「仕方の無いこと、……と諦めるしか無いわ。良くんも、雪ちゃんも、もうわたしとは違う道を選んでしまったようだから」
    「……私には、踏み外したとしか思えません」
    「そんな風に……」
     雪乃が思わず否定しようとした、その時だった。
    「外れて結構。あなたの道は、苔むした古道よ。歩きたくも無いわ」
     じゃり、と足音を立て、二人の前に月乃が現れた。
    「あなた……」
    「やっぱり先程の闖入者は、大先生でしたか。大方、我々の計画を察知し、ご自身の子供たち共々ここから逃げようとしていたのでしょうが、……残念でしたね」
     月乃はにやぁ、と笑い、自分の唇を指差した。
    「あたしと良は、もう1年半以上も前から、ああ言う関係だったんですけどね。大先生も晶奈も、まったく知らなかったんですね。
     自分の子供のことも把握できない奴が、大先生だなんて!」
    「月乃……ッ!」
     母を嘲られ、晶奈が憤る。
    「いいの晶ちゃん、下がっていて」
     と、それを雪乃が制した。
    「あら、反論もされないんで……」「月ちゃん」
     雪乃は凍りつくような冷たい声で、月乃の話を遮った。
    「あなたも道を踏み外した一人よ。
     あなたの道には仁も礼儀も、貞節も無い。徳も無い。孝も悌も無い。あなたの道は、おおよそ人の歩むような、正しき道では無いわ。
     あなたの歩んでいるそれは、獣道よ!」
    「だから言ってるじゃないですか」
     月乃は刀を抜き、それに火を灯す。
    「あたしはあなたみたいな、時代遅れの道なんか歩いてられないんですよ!」
     襲いかかってきた月乃に、雪乃も刀を抜いて応戦する。
    「道を外した者は皆、そう言うわ。
     古くより大切にされてきた、人の信念と美徳で築かれてきた道を否定し、自分たちの浅ましい、身勝手で利己的な思想で塗り固めた道が真理だと言う。
     それがどれほど愚かで、浅ましいことか!」
     雪乃の刀をすい、すいと避けながら、月乃はこう応じる。
    「あなたは分かってない! あなたたちがそううそぶいて八方美人的に導いてきたせいで、あたしも、家元も、どれほど窮屈な思いをしてきたか!
     上の者にこびへつらい、下の者の顔色を窺ってばかりいた! 同輩にも馬鹿にされないよう、手本であろうと無理な努力ばかりさせられて!
     その結果を見た!? 家元は、名ばかりのお飾りにさせられた! 何か成そうとする度に陰口を叩かれ、成さなければ嘲られ、成功すれば妬まれて、失敗すれば貶められて! いつもいつも、『先代は立派な方だったのに』とか、『当代は器では無かった』とか、何をやっても、やらなくても、家元は傷付けられてばかりいたのよ!
     そしてそれは、あたしも同じだった……! キレイゴトばかり言う母のせいで、バカなことばかりする兄のせいで、あたしはどれだけ嫌な思いをしてきたか、あなたに分かる!? 分からないでしょう!? それを分かってくれたのは、家元たちだけよ!
     だからあたしたちは決別するのよ――あんたたちみたいな上っ面の安い道徳授業ばっかり吹聴する、似非人格者の道とはね!」
     月乃の激情に任せた攻撃を三太刀、四太刀とかわし、雪乃はさらにこう返した。
    「似非と言うなら、あなたたちこそが似非よ。自分の言いたいことばかり言って、それがさも正しいことのように主張している。
     その行為は、あなたたちのことを貶して、それで自分たちが上等な人間になれたと勘違いするような小人たちのそれと、何が違うと言うの?」
    「違う! 違う、違うッ! そんなクズ共と一緒にするなああッ!」
     月乃の刀が、雪乃の左肩をわずかにかすめる。ぢりっ、と羽織の焦げる音と共に、雪乃の左肩から血が飛び散った。
    「うっ……!」
    「これが答えよ! 何十年もキレイゴト抜かしたあんたの剣術より、新しい道を行くあたしの剣術の方、が、……っ」
     勝ち誇りかけた月乃の声が、そこで止まる。
    「これが答え、よ」
     それを継ぐように、雪乃がそう返した。
     ほんの数瞬前まで勝利を確信していたであろう月乃は、今は白目をむいて倒れている。月乃が勝ち誇ったその一瞬の隙を突き、雪乃が急所へ居合を放ったのだ。
    「他人を見下す生き方が正しい、と答えるような人はいないわ。
     前を向かず、下ばかり眺めている人間が、前へ進めるわけが無いでしょう――前から何が来るか、分からなくなるのだから。
     あなたが入り込んでしまったその道が、あなたの剣術を歪めたのよ」
     雪乃は静かに刀を収め、月乃に背を向けた。
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    ~ Comment ~

     

    余計なことをベラベラしゃべりたがるのは、
    増上慢の小娘にありがちな失敗。
    思い上がった月乃ゆえの大失態です。
    もっとも、20にもならない小娘と半世紀近く鍛錬を積んだ大先生とが勝負して、
    前者が勝つようなことは多分無いでしょう。

     

    エンターテインメントとしての演出上のこととはわかっていても、よけいなことをしゃべらず、自分の武術を使うことだけに集中していればもしかしたら月乃さんでも雪乃さんに傷を負わせるだけでなく深手くらいには行ったんじゃ? と思ってしまう卑怯者脳(^_^;)

    いやわかってるんですよわかって(^_^;)
    • #1507 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2013.01/18 23:39 
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