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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・逐雪抄 6

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    麒麟を巡る話、第163話。
    人望と指導の賜物。

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    6.
     月乃と戦っている間に、どうやら相手方も雪乃たちの動きに気付き始めたらしい。
    (塞の上の方に、どんどん灯りが点ってるわね。のんびりしてたら、ここまで来ちゃうかも)
     雪乃は晶奈へ振り返り、声をかける。
    「晶ちゃん、そろそろ行こっか」
    「あ、は、はい」
     晶奈は目を白黒させ、雪乃の後に付く。
    「大丈夫? どこか怪我したの?」
    「い、いえ。……その、母上があれほど怒りをあらわにされるとは思わず」
    「うーん……、怒りって言えば怒りだけど、晶ちゃんが思ってるのとはちょっと違うかしら」
    「と言いますと?」
     きょとんとする娘に、雪乃はこう続ける。
    「あれはちょっと『きつめの』お説教よ。と言っても相手は多分、聞く耳を持ってはくれないでしょうけどね」
    「な、るほど」
    「さ、もう行きましょ」
     雪乃は晶奈の手を引き、門前へと急いだ。

     雪乃にとってこの騒動は、非常に心を痛めるものとなった。
     よりによって現家元であり、己の血を分けた娘でもある小雪が、親である、そして師匠でもある自分に刃を向けたのである。
    「……ねえ、晶ちゃん」
    「はい」
    「お母さん、どこを失敗しちゃったのかしらね」
    「え?」
    「……ううん、何でもないわ」
     そう返したが――横から唐突に、返事が返って来た。
    「師匠は何も間違ってなどいない。あたしはそう信じてますよ」
    「え? ……もしかして、霙ちゃん?」
    「はい、藤川霙子にございます」
     そう言ってひょいと、霙子が姿を現す。
    「微力ながらお助けに参りました。ちなみに」
     そして霙子の背後から、6、7人ほどの人間が続く。
    「我らが焔雪乃門下は全員、師匠の味方ですよ」
    「……ありがとね、霙ちゃん、それからみんな」
     礼を言った雪乃に、愛弟子たちは笑って答える。
    「水臭いっスよ、師匠」
    「そうですよ、礼なんかこっちが言うべきです」
    「俺たちはみんな、先生を剣士の鑑として、ずっと鍛錬積んできたんですから」
    「……うん」
     雪乃は小さくうなずき、そしてきりっと表情を正した。
    「じゃあみんな、これからもわたしに付いてきてくれるかしら?」
    「勿論です」
     弟子たちは異口同音に同意し、雪乃の周りを囲んだ。
    「先生には指一本触れさせやしませんよ!」
    「来るなら来てみろってんだ!」
    「さあ、急ぎましょう先生!」
     雪乃母娘は弟子たちに護られる形で、門までの道を進んだ。
     そしてこれが、騒動に揺れる塞内に強い抑止力と、小雪への反発を生んだらしい――雪乃たちの周りに、続々と門下生や師範格の者たちが集まり始めた。
    「大先生、私もお供します!」
    「あれほど孝の無い者を手本、家元と仰ぐことは、最早できません!」
    「どうか俺たちが付いていくことを、お許しください!」
     集まってくる者たちに、雪乃はしずかにうなずき返す。それを受け、彼らも静かに同行していく。
     そして門に到着する頃には、それは50人、60人を優に超える大所帯になっていた。

     小雪とその取り巻きは、その騒ぎを塞の最上部から眺めていた。
     いや、眺めることしかできなかったのだ。
    「家元、早く騒ぎを収めねば……!」
     そう進言する深見に、小雪は苦々しい顔でこう返した。
    「そんなことしてみなさいよ――わたしは親殺しの上に、同門殺し、大量虐殺者の汚名まで着せられるのよ!? もうあんな人だかりになってしまったら、打つ手は無いわよ!
     一体あんたたち、こんなになるまで何してたのよ……ッ!?」
     怒りに満ちた顔で怒鳴られ、一同は口ごもる。
    「い、いや、明日の準備をと」
    「明日!? 今日起こってることをほっといて、明日の準備をしてたって言うの!?」
    「いや、ですから我々が騒ぎに気付いた時はもう、あのような状態で……」
    「そ、それにそんなことを仰るなら、家元だって」
    「は!? わたしに単身、あの集団の中に飛び込めって言うの!?」
    「いや、その……」
     と、怒鳴り散らしていた小雪は一転、黙り込む。
    「……」
    「……家元?」
    「ま、いいわ」
     けろっとした声でそう返され、一同はきょとんとする。
    「いい、とは?」
    「あっちの方から勝手に出て行ってくれるって言うなら、それでいいわ。ごめんね、ちょっとイラっと来ちゃったから、ひどいこと言っちゃったわ」
    「は、はあ」
    「いえ、我々はそんな、気になどしていないので」
    「そ」
     今度は素っ気なく応じ、それからにやっと笑う。
    「そもそも、あいつらが出て行ったところで、わたしたちには何の被害も無いのよ。何人出て行こうが、本家はうちなんだから。
     あいつらはいずれ、わたしたちのところに頭を下げに来るしか無いのよ。だってそうじゃない? 入門試験と免許皆伝試験を受けさせる場所はここにしか無いし、そしてその免許皆伝者を登録し、認可するのも、この紅蓮塞だけなのよ。
     伏鬼心克堂と、この……」
     小雪は書架から取り出した巻物を、自慢げに振った。
    「『焔流免許皆伝者証書』があれば、あいつらなんてただの、刀を持った難民よ」
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    はっきり言ってしまうと、小雪はお神輿人間ですから。
    祭り上げられてることに気付かないまま、
    自分が偉いものと、分不相応にもかかわらず盲信している状態です。
    そりゃ、言うこともやることも無茶苦茶なわけで。
    この先もっと奇々怪々な所業に出ます。'09年の民主党みたいに。

    NoTitle 

    うーむ(^^;)

    聞きたいのだが小雪ちゃん……。

    建物とか巻物とかいうのは、実際に技を目の前でかけたりかけられたりしてくれて、修行者に至らぬところがあれば教えてくれて、ときには碁までつきあってくれたりするものなのかのう(^^;)

    あっ、囲碁好きは別の人だったか。(^^;)

    たいてい陰謀を陰でめぐらす連中はどこか間が抜けているものだが、ここまで抜けているのは珍しいくらいだわい。雪乃さんもせめて娘がまともな陰謀を企めるくらいに、もうちょっと教育というものをですね……(^^;)
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