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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・逐雪抄 7

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    麒麟を巡る話、第164話。
    焔流の分裂。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     門を抜け、街道を進んでしばらくしたところで、雪乃たちは良太と笠尾の二人と合流した。
    「無事で良かった、雪さん。そうそう、松さんもやっぱり、僕たちと一緒に来るってさ」
    「良かったわ。でも……」
     雪乃は良蔵が既に小雪派に付いていたこと、そして月乃が襲いかかって来たことを話した。
    「そうか……、なんか、悲しいな」
     良太はそうつぶやき、雪乃に背を向ける。
    「小雪も良蔵も、僕たちを『親』じゃなく、『敵』だと見なしてしまったんだね。そっか……」
    「良さん……」
     がっくりと肩を落とす夫を見て、雪乃の心にはまた、悲しみがぶり返しかける。
     ところが――その良太の袖口から、にゅっと何かが出て来た。
    「……じゃあ、……残念だけど、これはもう、あの子たちの元には置いておけないんだね」
    「それって、……まさか?」
     良太は振り返り、袖口から巻物を取り出して見せた。
    「うん。最早紅蓮塞にいる焔流は、『本家』とは呼べないよ。
     いや、呼ばせたくない。おじい様の代まで厳格に守ってきた規律・規範を穢されたとあっちゃ、少なくとも『これ』は死守しておかないとね」
     良太が見せた巻物を見て、霙子が「えっ?」と声を挙げる。
    「まさか……、証書ですか?」
    「うん。こんなこともいつかあるんじゃないかと思って、こっそり偽物を作っておいてたんだ。
     これがこっちにある限り、『小雪派焔流』は絶対に、本家を名乗れない」

    「……?」
     雪乃らを追い出し、小雪が有頂天になっていたところで、御経が首を傾げた。
    「家元。ちょっと……、失礼いたします」
    「え、なに?」
     小雪がひらひらと振っていた証書を取り、御経がぱら、とそれを開く。
    「……大変、まずいです、家元」
    「なにが?」
    「これは、偽物です」
    「……なにが?」
    「証書が偽物なのです!」
    「……うそ」
     げらげらと笑っていた小雪の顔が一転、蒼ざめる。
    「み、見せなさいっ!」
     御経から手渡された「証書」を乱暴に広げ、小雪は中に一筆だけ、こう書かれていることを確認した。

    「此を揚々と広げ威張り散らし者 贋(にせ)を贋と見抜けぬ未熟者なり
    紅蓮塞書庫番 焔良太」

    「……ぐ、……っ、あ、のッ」
     小雪は巻物を壁に叩き付け、窓の外に向かって怒鳴りつけた。
    「青瓢箪のクソ親父めえええッ! よくもわたしを、このわたしをッ……、騙したなああああーッ!」



     焔流分裂のニュースは、瞬く間に央南中を駆け巡った。
     央南有数の武力組織であり、伝統ある剣術一派である。その本拠地で騒動が起こり、二分されたとあって、央南中に散っている焔流剣士たち、そして焔流に献金してきた者たちは騒然としていた。
    「御免ね、晴奈」
     師匠にぺこりと頭を下げて謝られ、晴奈は目を白黒させている。
    「いえ、そんな。師匠が困っていると言うのに、何もせぬ弟子などおりません」
     雪乃たちはひとまず同輩の中で最も富と名声、政治的権力を持っている晴奈のところへと身を寄せた。
     勿論晴奈の生家であり、焔流に対して多額の献金および援助を行っていた黄家も、今回の騒動にも敏感に反応していた。
    「とりあえず、わたしのところの対応としては、紅蓮塞への援助は全面的に止めております。他の主だった焔流道場への援助についても、現在は見合わせている状態です」
     黄家当主である明奈は雪乃らにそう説明し、そしてこう続けた。
    「とは言え恐らく紅蓮塞以外の、ほとんどの焔流道場には、元通りお金を出すのでは無いかと思いますが」
    「ふむ?」
    「今回の騒動、橘喜新聞社をはじめとして、あちこちで内情が暴露されておりますし、そうなると紅蓮塞側に付くような道場は、そうそう無いでしょう。
     恐らく大部分、ほとんどの道場が雪乃さんたちの側に付くと思います。となれば援助の流れに関しては実質上、元通りになるかと」
    「だろうな。まさか親殺しを仕掛けようと言うような輩に、……っと、失礼いたしました」
     晴奈は雪乃をチラ、と見て、言葉を切った。
     しかしその後を、雪乃本人が継ぐ。
    「構わないわ。本当のことだもの。
     小雪はやってはならないことを、ついに犯してしまった。その報いはこれから、受けることになる。
     今回の件で、間違いなく紅蓮塞は孤立するわ」
    「経済的にも、政治的にも、あらゆる面において、……ですね」
     そう返した明奈に、晴奈が首を傾げた。
    「どう言うことだ?」
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