黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・逐雪抄 8

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    麒麟を巡る話、第165話。
    アナリスト、明奈。

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    8.
    「まず、経済面ですけれど」
     明奈は自分を指差し、こう説明した。
    「焔流の収入・運営資金は、本拠の紅蓮塞周辺における温泉街からの献金が3割。央南連合軍をはじめとする、武力を必要とする各組織からの報酬と謝礼金が5割。そして残りの2割ですけれど、わたしみたいな央南各都市の有力商人、商家からの献金・援助金です。
     今回の件で、3つ目に関してはほぼ全滅するでしょう。最も多く出資している黄家が止めるのですから、他も追従するでしょうし」
    「確かに。うちがやめれば、他も出し渋るだろうな」
     晴奈がうなずいたところで、明奈もうなずきつつ、こう続ける。
    「軍などからの報酬および謝礼も同様です。
     央南連合軍は年々、剣士の採用および運用の枠を狭めています。近年推し進められてきた軍備近代化に当たり――お姉さまや雪乃さんにこう言っては大変失礼とは思いますが――旧態依然とした白兵戦重視の戦術によって運用されてきた剣士をこのまま置くことは、その目的にそぐわないからです」
    「確かに時節の面、時代の流れから言えば、不本意ではあるが当然だな」
     晴奈は憮然としつつ、妹の意見に同意する。
    「とは言えこれまでのしがらみなり、縁故なりがありますから、何か突飛なことでも起こらない限り、ばっさり手を切るようなこともなかなかできない。軍本営も頭を悩ませていた問題のはずです。
     そこに、今回の一件です。軍本営にしてみれば、これは剣士の大量解雇を行う、格好の口実となります。ついでに剣士たちの総本山、焔流とも手を切り、彼らとの古い慣習・約定を一掃する機会でもあります。
     恐らく今回の件を楯に、央南連合軍は焔流との交流を、完全に絶とうとするでしょうね」
    「なんと利己的な、……とも言い切れぬか。軍には軍の事情もあることであるし。
     ふむ……、となると政治面においても孤立する、とは」
    「ええ。これまで最大の需要を持っていた、言い換えれば『剣士をどこよりも必要としていた』組織、央南連合軍から『もういらない』と手を切られれば、州軍などの他の武力組織も挙って、『剣士切り』に走るでしょう。
     これは言ってみれば、商人と商売の関係に似ています――どこにも自分の作った商品を卸せなくなり、商売の場が立てられなくなった商人は、やがて破産の憂き目を見ることになるでしょう」
    「それが政治的孤立となるわけか」
    「ええ、その通りです。
     資金源を大幅に失い、育ててきた剣士たちを主要武力組織から一挙に追い払われれば、紅蓮塞は資金難と職にあぶれた大勢の剣士たちを抱えることになり、いずれ破産・破滅するでしょうね」



     雪乃らを追い出し、晴れて名実ともに紅蓮塞の主となったものの、小雪は頭を抱えていた。
    「出戻りなんかされたって困るわよ……」
     明奈の読み通り、今回の事件を口実に、央南連合軍や各州の州軍から一斉に、焔流剣士の排斥・解雇が行われ、路頭に迷った剣士たちの半分近くが紅蓮塞へと戻ってきてしまったのだ。
     商人たちからの援助も切られたこともあり、紅蓮塞の経済事情は早くも逼迫しつつあった。
    「出納係に試算を行わせたところ、既に収入の15倍以上の支出が発生しているとのことです。
     このままの財政状況が続けば、紅蓮塞の持つ資金・資産は、来年末には空になってしまいます」
     御経からの報告を、小雪は終始顔をしかめて聞いていた。
    「じゃあ仮に、戻ってきた剣士たちを追い出した場合は?」
    「支出額が多少抑えられるだけで、収入面の激減に変化はありませんから、結果は同じです」
    「収入で賄えるのは、何人くらいになるの?」
    「月当たり60、70名が限界かと。しかし現在の収入は温泉街にしかなく、それもこの一件で客足が遠のいているとのことで……」
    「ジリ貧ってこと、……ね」
     小雪は顔をしかめたまま、取り巻きたちを一瞥する。
    「……どうすべきかしら。策は誰か、無い?」
    「畏れながら」
     と、月乃が手を挙げた。
    「金が無いのなら、あるところへ取りに行けば良いかと」
     その言葉に、小雪の顔が一層強張った。
    「まさか、あなた」
    「ええ。今回の一件に至った原因の一つは、我が母である黄晴奈にもあるはず。彼女に鉄槌を下すと共に、本来我々が受け取るはずだった金を、受け取りに行けば良いのです」
     そう言ってのけた月乃に、取り巻きたちも苦い顔を見せる。
    「黄、その理屈はいくらなんでも無理矢理すぎる」
    「此度の件に加え、さらに黄先生にまで刃を向けるとあっては……」
    「いよいよ我々の立場を危うくするぞ」
     だが――。
    「……乗るしかないわね、その策に」
    「い、家元!?」
     青ざめる御経らに対し、小雪はこう言い放った。
    「どの道『証書』がここに無ければ、わたしたちは本家を名乗れないわ。その『証書』は黄海にある。黄の言う因縁と金も、そこにある。
     すべての絡み、関係がそこにあるのなら、わたしたちは万難を排してでもそこへ押し入らなきゃならないのよ」
    「……」
     確実に、かつ、恐るべき速さで歪みゆく自分たちの道、そして歪めていく張本人を前に、誰も諌めることはできなかった。

    白猫夢・逐雪抄 終
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    今回はゲストまで来てくださって、ありがたい限りです。
    ただ、すべての人間が合理的思考に則って行動することは無いわけで。
    他人が見たらくだらないと思うようなことにこそ、執着する人間も少なからずいます。

    結論から言えば、小雪に夜逃げと言う選択肢はありません。
    既にこの時点で、分不相応なほどにプライドが肥大してますから、
    「家元」と言う肩書きを捨てて逃げるようなことは、まずありません。
    もしこの時点でその肩書きまで捨てたら、彼女には何も残らないので。
    むしろその、肩書きに執着する性分を逆用されて、
    いいように扱われることになります。
    詳しい話は、また後々に。

    あと、現状の紅蓮塞の兵力は、500人以上はいます。
    元々からいたのと、央南中の軍から追い出された分とで。
    資産については、そいつらに食い潰されますが。

    今回は終末港よりガスさんをお呼びしました 

    「なんでおれなんだ」

    「だって陰謀とか裏工作とか得意でしょ。この状況下での小雪ちゃんに取りうる最善の策を考えてください」

    「えーと、建物と土地は押さえている、と。手駒になるのは頼ってきた剣士数十人。基本的にカネはない。近くに庇護してくれる有力者もいない……うん。おれが小雪とかいう娘だったら、あれしかないな」

    「どんな策が?」

    「あるだけのカネを持っての夜逃げ」

    「へ?」

    「だって、使えるコマが、いつ裏切るかわからないような連中ばかりだぞ。そんな状態で殴り込みをかけてどうするんだ?」

    「焔流剣士が裏切るわけは」

    「いーや、今、日本語でいう錦の御旗を握っているのは親の雪乃のほうだ。雪乃がひらがなで三文字つぶやけば、勝負は決する」

    「なんて言葉です」

    「『破門』ってさえいえば、焔流で飯を食っている人間は、全員そろって小雪に剣を向けるぜ。そうなったら敵を襲うもなにもない、こっちがやられちまう。そうなる前に、夜逃げ。これしかないな」

    「……ほかにマシな案はないんですか」

    「宗教団体を頼って蟄居か庇護を願う、というのが妥当な線だとは思っていたが、なにしろこの国での最大宗教勢力の黒炎教団の親分の一番弟子が、雪乃の一番弟子の友人なんだろ。親友だとはいわないけどさ。そんなところが庇護してくれるわけもないしなあ。夜逃げ。これ以外の策はないね」

    「ありがとうございました。終末港から、ガスさんでした。それともほかになにか秘策があるんですか。わたしもちょっと原稿が書けなくてつらい状態なので、なにか秘策があったらこっそり教えてください。おねがいっ!(^^;)」
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