黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・明察抄 2

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    麒麟を巡る話、第167話。
    テイク・オフを目の前にして。

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    2.
     職にあぶれた焔流剣士たちが紅蓮塞に流れてきたのと同様に、黄海にも剣士たちの姿がちらほらと、目に付くようになった。
    「師匠。昔、青江へ旅をした際に楢崎派道場で会った虎獣人のことを、覚えておいででしょうか?」
     明奈を交えて三人で茶を飲んでいたところで晴奈にそう尋ねられ、雪乃はコクリとうなずく。
    「ええ、柏木くんね」
    「彼の息子だと言う子と、つい昨日くらいに話をしまして」
    「へぇ? じゃあ、その子も……」
    「ええ、焔流の免許皆伝を得た後、央南連合軍に就いたそうなのですが、就いて1年も経たぬうちに唐突に除隊されて路頭に迷い、こちらを訪れたとのことでした。
    『このままでは親に合わせる顔がない、どうにか仕事の口を与えてくれないだろうか』、と懇願されたものの……」
     晴奈は表情を曇らせ、こう続ける。
    「既に同様の話が、十件以上にも上っている状態でして。ともかく探してみよう、とはそれぞれに答えておいたものの、私の人脈ではなかなか……」
    「小雪派のせいで、今、焔流の評判は悪くなっていますものね」
     明奈は茶をすすりながら、それに応じる。
    「既存の需要では、対応はできないでしょうね。何か新しい雇用口を考えないと、折角の剣士たちが立ち枯れてしまいます」
    「新しい雇用口……、ねぇ」
     雪乃がそう返したが、いい案は無いらしく、言葉は続かない。
     代わりに明奈が、こう続けた。
    「一応、案は考えています。
     考えてみれば、焔流の剣士さんってみんな、囲碁も打てますし写本や写経もよくされてますし、武芸だけではなく、教養も高いですよね。
     人を『ちゃんと』育てる、と言うことに着目すれば、非常に優れた人材ではないかと思うんです」
    「ふーむ……?」
    「わたし、常々からこう考えているんです」
     そう前置きし、明奈は自分の考えを話す。
    「ここ数年、世界は急に成長した気がします。いえ、今後さらに、もっと成長していくでしょうね。
     この十数年、央南連合や西大海洋同盟は積極的に学校を作ったり、道を整備したりと、様々な社会整備を行ってきました。それは言わば、『下準備』であったと思います」
    「下準備? 何の?」
    「うまく説明はしにくいのですが……、言うなれば、社会をこれまでよりもう一段、優れたものにする、と言う感じでしょうか。
     実際、人の行き来は昔、父が当主であった頃よりもずっと多くなっていますし、輸入品も今まで見たことの無い、目新しいものが次々と現れています。
     今後さらにその勢いは増していくでしょう。そして我々央南の人間は、その勢いに付いていけるのだろうかと、不安にならずにはいられません。
     そう考えると今回の騒動は、単に一つの巨大組織が一地方で混乱をきたした、と言うものに留まらないような、そんな危機感を覚えるんです」
    「十分に大事だと思うんだけど……」
     頬を膨らませる雪乃に、明奈は深々とうなずいて見せる。
    「ええ、それは勿論。その重要性は十分に承知しています。
     でも、このまま放っておけば、今認識しているより一層の、悪い事態に発展しかねない。今後の対応で下手を打てば、央南の世界的地位は一挙に墜落することになる、……と言う意味です」
    「そこまで……?」
     一転、雪乃は怪訝な顔になる。
    「確かに央南随一の剣術一派だけど、この騒動はそこまで波及するものかしら」
    「問題なのは分裂したことではなく、分裂させた小雪派が今後、どう動くかです。
     恐らく資金難と『証書』を取り返そうと言う欲求から、彼らはここ、黄海に攻めて来るでしょう」
    「なに……!?」
    「まあ、無理な話では無いわね。今の小雪は、何をしでかすか分からないくらいに暴走してしまっているもの。金と権威のためであれば、多少の道理は踏み外すでしょうね」
    「それをそのまま看過していれば、焔流に対する世間の評判は、より一層悪い方へ傾くでしょう。
     もし戦いが起こり、小雪派とわたしたち、どちらが勝ったとしても、『焔流は地に堕ちた』と言う悪評の後押しをするだけです。
     絶対に、事態を戦う方向へ持って行ってはいけません。黄海やその周辺、衆人環視の状況で無暗に争うような姿勢を見せれば、それこそ悪評通りの破落戸と見られてしまいます」
    「ふむ……」
    「それよりも元々の評判通りの姿勢を見せ、『焔流はやはり優れた集団なのだ』と広く認識してもらう。これが今後の、あらゆることに関して、最も良い結果につながるものだと考えています。
     そこで考えた案が、『学校』なんです」
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