「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・剣宴抄 1
麒麟を巡る話、第170話。
交流戦。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
柊学園の設立も決まり、その準備も順調に進んでいた、双月暦544年の春間近の頃。
この頃には、元々から黄派焔流道場に在籍していた者と、紅蓮塞から移ってきた者との境目も薄くなってきており、その両門下生らが稽古終わりに入り混じって歓談することも、まったく珍しい光景ではなくなっていた。
「大分空気がしっとりしてきたよなー」
「だなぁ。先週だったらあんだけ打ち込んでも、汗が垂れたりしなかったもんなぁ」
「汗かく端から乾いてましたもんね」
「『狐』とか『猫』にとっちゃ、段々うっとうしい季節になってきたな」
「そんなコト言ってアンタ、冬は冬で静電気やだって言ってなかった?」
「言ってた言ってた、あはは……」
汗でぺったりとした髪と狐耳を拭く同輩を囲み、皆で笑い合う。
と――その「狐」がこう反論したのが、その後の「お祭り騒ぎ」の発端となった。
「うっせ。狐獣人はみんなそーなんだよ。『うち』の紀伊見さんだって俺と同じこと言ってたぜ。きっと『そっち』の関戸さんだって、梅雨の時とか『尻尾の付け根が蒸れるっスわぁ』とか言ったりするんじゃね?」
「言うワケないでしょ」
「……いや、紅蓮塞の時に結構近いこと言ってた気がする」
「えー……」
口を尖らせた同輩に、またも皆が笑う。
そこへ、今まさに噂に上った張本人――「柊派」の錬士、狐獣人の関戸が現れた。
「うんうん言ってた言ってた、俺も『狐』だからねぇ」
「あ、先生」
「お疲れ様です!」
門下生たちに並んでぺこ、と頭を下げられ、関戸もぺこりと返す。
「お疲れー。ってか紀伊見さんもやっぱりそんなこと言ってたんだねぇ。稽古中はツンっとしてちょっと取っ付きにくい感じだったけど、それを聞いたら親近感湧くなー」
「え、もしかして先生……」
邪推され、関戸はぱたぱたと手を振って否定する。
「いやいや、何言ってんの。そんなんじゃないよ。単にさ、『向こう』の人とも仲良くしたいなって、そーゆー話だから」
そう返した関戸に、門下生の一人がこう尋ねた。
「仲良くできてないんですか?」
「ん? あ、いや、仲良くはしてるよ?
たださ、暮れに押しかけてからずっとバタバタしっぱなしだし、何て言うか、交流を深められるような機会がなかなか作れないなー、って」
「あー」
門下生たちは揃ってうなずき、それから間をおいて、一人が手を挙げた。
「あ、じゃあ……」
「交流戦?」
十分後、道場主の晴奈は門下生から、こんな提案を受けた。
「はい! 柊派の方が来られてからずっと、黙々と稽古を続けておりましたが、よくよく考えてみれば歓迎も何もしてないじゃないですか」
「成り行きとは言え、折角遠路はるばるお越しいただいたと言うのに、何のお持て成しもしないまま3ヶ月、4ヶ月も経ってしまってますし」
「ふむ。確かに言う通りだ。このまま何もせずと言うのは、礼儀に欠ける。
その点は納得できる。だがそれで交流戦を催すと言うのは、相手を差し図るようで失礼ではないだろうか?」
「いえ、柊派の同輩たちや先生とも話をしてみたんですけども、『単に酒を酌み交わしたりするだけでは面白くない。やはりそれぞれが名にし負う剣術一派で腕を磨いてきた身なのだから、多少は腕比べもしてみたい気持ちはある』と仰っていました」
「ふーむ……、まあ、多少不純な風も無くはないが……、皆がそう言うのであれば、取り計らってみようか」
「本当ですか!」
「やったー!」
晴奈の返答に、門下生たちは一様に満面の笑みを浮かべ、小躍りした。
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交流戦。
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柊学園の設立も決まり、その準備も順調に進んでいた、双月暦544年の春間近の頃。
この頃には、元々から黄派焔流道場に在籍していた者と、紅蓮塞から移ってきた者との境目も薄くなってきており、その両門下生らが稽古終わりに入り混じって歓談することも、まったく珍しい光景ではなくなっていた。
「大分空気がしっとりしてきたよなー」
「だなぁ。先週だったらあんだけ打ち込んでも、汗が垂れたりしなかったもんなぁ」
「汗かく端から乾いてましたもんね」
「『狐』とか『猫』にとっちゃ、段々うっとうしい季節になってきたな」
「そんなコト言ってアンタ、冬は冬で静電気やだって言ってなかった?」
「言ってた言ってた、あはは……」
汗でぺったりとした髪と狐耳を拭く同輩を囲み、皆で笑い合う。
と――その「狐」がこう反論したのが、その後の「お祭り騒ぎ」の発端となった。
「うっせ。狐獣人はみんなそーなんだよ。『うち』の紀伊見さんだって俺と同じこと言ってたぜ。きっと『そっち』の関戸さんだって、梅雨の時とか『尻尾の付け根が蒸れるっスわぁ』とか言ったりするんじゃね?」
「言うワケないでしょ」
「……いや、紅蓮塞の時に結構近いこと言ってた気がする」
「えー……」
口を尖らせた同輩に、またも皆が笑う。
そこへ、今まさに噂に上った張本人――「柊派」の錬士、狐獣人の関戸が現れた。
「うんうん言ってた言ってた、俺も『狐』だからねぇ」
「あ、先生」
「お疲れ様です!」
門下生たちに並んでぺこ、と頭を下げられ、関戸もぺこりと返す。
「お疲れー。ってか紀伊見さんもやっぱりそんなこと言ってたんだねぇ。稽古中はツンっとしてちょっと取っ付きにくい感じだったけど、それを聞いたら親近感湧くなー」
「え、もしかして先生……」
邪推され、関戸はぱたぱたと手を振って否定する。
「いやいや、何言ってんの。そんなんじゃないよ。単にさ、『向こう』の人とも仲良くしたいなって、そーゆー話だから」
そう返した関戸に、門下生の一人がこう尋ねた。
「仲良くできてないんですか?」
「ん? あ、いや、仲良くはしてるよ?
たださ、暮れに押しかけてからずっとバタバタしっぱなしだし、何て言うか、交流を深められるような機会がなかなか作れないなー、って」
「あー」
門下生たちは揃ってうなずき、それから間をおいて、一人が手を挙げた。
「あ、じゃあ……」
「交流戦?」
十分後、道場主の晴奈は門下生から、こんな提案を受けた。
「はい! 柊派の方が来られてからずっと、黙々と稽古を続けておりましたが、よくよく考えてみれば歓迎も何もしてないじゃないですか」
「成り行きとは言え、折角遠路はるばるお越しいただいたと言うのに、何のお持て成しもしないまま3ヶ月、4ヶ月も経ってしまってますし」
「ふむ。確かに言う通りだ。このまま何もせずと言うのは、礼儀に欠ける。
その点は納得できる。だがそれで交流戦を催すと言うのは、相手を差し図るようで失礼ではないだろうか?」
「いえ、柊派の同輩たちや先生とも話をしてみたんですけども、『単に酒を酌み交わしたりするだけでは面白くない。やはりそれぞれが名にし負う剣術一派で腕を磨いてきた身なのだから、多少は腕比べもしてみたい気持ちはある』と仰っていました」
「ふーむ……、まあ、多少不純な風も無くはないが……、皆がそう言うのであれば、取り計らってみようか」
「本当ですか!」
「やったー!」
晴奈の返答に、門下生たちは一様に満面の笑みを浮かべ、小躍りした。
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