「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・剣宴抄 2
麒麟を巡る話、第171話。
お祭り騒ぎ。
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2.
昔から、黄晴奈と言う人物は一つの「悪い癖」を持っていた。
自分の考えと違うこと、意に沿わないことが起こると、それについて小声でブチブチと文句をこぼす点である。
「……確かに交流戦を承知しはしたが、こんなお祭り騒ぎにするとは聞いておらぬ。内輪で催すのならまだしも、街中巻き込んでの宴会にするなどとは」「まあまあ」
そして姉のそう言う性分を、周囲に不快感を与える前にやんわり鎮静させるのが、昔からの明奈の役割である。
「街の人たちにとっても、柊派の人たちを歓迎したい気持ちは一緒ですよ。ちょうどいい機会ではありませんか。
それに門下生の方に、こうして街の人たちにも知らせてはどうか、と入れ知恵したのは、実はわたしですし」
「なに?」
「内輪で楽しんで終わり、じゃ勿体無いですよ。街にとっても、焔流の剣士さんたちがこんなに大勢いらっしゃることは、誇りでもありますし。
その敬意をないがしろにして、いつの間にか内輪で集まっていつの間にか終わりだなんて、そっちの方が無礼じゃありません?」
「……うまく言いくるめられている気がする。……が、まあ、そうだな。折角慕って集まってくれた皆を今更追い返すなど」
「でしょう?
さ、お姉様。いつまでも腐ってないで、一緒に楽しみましょう」
明奈は姉の手を引き、祭りの中へと連れて行った。
前述の通り、最初は焔流剣士だけで集まり、簡単に技量を競い合って終わり、と言うくらいの規模を予定していたのだが、そこにこの話を聞きつけた明奈が介入。
黄海全体を巻き込んだ、一大イベントに変えてしまったのである。しかも――。
「……明奈?」
「なんでしょう?」
「あの黒髪に茶白の毛並みの狼獣人、見覚えがあるのだが」
「ええ。央中からお呼びしました」
「何のためにだ?」
「交流戦を盛り上げてくださるとのことで」
「……賭けなど図ってはいないだろうな?」
「流石にそこまでできませんよ」
小声で話しているうちに、その狼獣人――央中の興行家(プロモーター)、プレア・チェイサー女史が晴奈たちに気付き、手を振って近付いてきた。
「お久しぶりです、セイナさん、メイナさん!」
「ああ、久しぶりだなプレア」
握手を交わしたところで、プレアはニコニコと笑みを浮かべながら説明し始めた。
「今回ですね、メイナさんから『街の人々にも交流戦を楽しんでもらうには、どのように進めればいいか』とご相談をいただきまして。
それでですね、やっぱり単純に試合をして、その勝敗を予想……」「お、おいおい」
それを遮り、晴奈は慌てて確認する。
「賭けは困る。これはあくまで焔流剣士同士の腕を競う試合であって、市国の闘技場ではないのだから」
「ええ、ええ。勿論承知してます。ただですね、漫然と打ち合いを見てるだけじゃやっぱり飽きてしまうと思いますし、それじゃ場が冷えちゃってつまらないですよ。
そこでですね、まず第一に試合の密度を濃くしようと思います」
「密度を濃く?」
「はい。黄派の方と柊派の方とで5名ずつ代表を選んでいただいて、5対5の団体戦の形式を採ります。
で、賭けって程ではないんですが、街の皆さんがより盛り上がるように、色々、付け足そうかなーなんて。
勿論、お金は賭けてません。安心してください」
「……まあ、金が絡まぬのであれば、許容範囲だな」
晴奈の許しを受け、プレアはにっこり笑う。
「ありがとうございます、セイナさん!
それじゃそろそろ、出場する方に連絡してきますねっ」
その場を後にするプレアを見送ったところで、晴奈は再度、明奈に耳打ちする。
「本当に金は、賭けてないんだな?」
「あら、わたしをお疑いに?」
「……いや。そうではない。
だが明奈、お前は存外したたかで、抜け目のない性格をしているからな。金でなくとも、何か賭けているのではないかと思ってな」
「うふふ」
晴奈の問いに対し、明奈は笑ってごまかした。
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お祭り騒ぎ。
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昔から、黄晴奈と言う人物は一つの「悪い癖」を持っていた。
自分の考えと違うこと、意に沿わないことが起こると、それについて小声でブチブチと文句をこぼす点である。
「……確かに交流戦を承知しはしたが、こんなお祭り騒ぎにするとは聞いておらぬ。内輪で催すのならまだしも、街中巻き込んでの宴会にするなどとは」「まあまあ」
そして姉のそう言う性分を、周囲に不快感を与える前にやんわり鎮静させるのが、昔からの明奈の役割である。
「街の人たちにとっても、柊派の人たちを歓迎したい気持ちは一緒ですよ。ちょうどいい機会ではありませんか。
それに門下生の方に、こうして街の人たちにも知らせてはどうか、と入れ知恵したのは、実はわたしですし」
「なに?」
「内輪で楽しんで終わり、じゃ勿体無いですよ。街にとっても、焔流の剣士さんたちがこんなに大勢いらっしゃることは、誇りでもありますし。
その敬意をないがしろにして、いつの間にか内輪で集まっていつの間にか終わりだなんて、そっちの方が無礼じゃありません?」
「……うまく言いくるめられている気がする。……が、まあ、そうだな。折角慕って集まってくれた皆を今更追い返すなど」
「でしょう?
さ、お姉様。いつまでも腐ってないで、一緒に楽しみましょう」
明奈は姉の手を引き、祭りの中へと連れて行った。
前述の通り、最初は焔流剣士だけで集まり、簡単に技量を競い合って終わり、と言うくらいの規模を予定していたのだが、そこにこの話を聞きつけた明奈が介入。
黄海全体を巻き込んだ、一大イベントに変えてしまったのである。しかも――。
「……明奈?」
「なんでしょう?」
「あの黒髪に茶白の毛並みの狼獣人、見覚えがあるのだが」
「ええ。央中からお呼びしました」
「何のためにだ?」
「交流戦を盛り上げてくださるとのことで」
「……賭けなど図ってはいないだろうな?」
「流石にそこまでできませんよ」
小声で話しているうちに、その狼獣人――央中の興行家(プロモーター)、プレア・チェイサー女史が晴奈たちに気付き、手を振って近付いてきた。
「お久しぶりです、セイナさん、メイナさん!」
「ああ、久しぶりだなプレア」
握手を交わしたところで、プレアはニコニコと笑みを浮かべながら説明し始めた。
「今回ですね、メイナさんから『街の人々にも交流戦を楽しんでもらうには、どのように進めればいいか』とご相談をいただきまして。
それでですね、やっぱり単純に試合をして、その勝敗を予想……」「お、おいおい」
それを遮り、晴奈は慌てて確認する。
「賭けは困る。これはあくまで焔流剣士同士の腕を競う試合であって、市国の闘技場ではないのだから」
「ええ、ええ。勿論承知してます。ただですね、漫然と打ち合いを見てるだけじゃやっぱり飽きてしまうと思いますし、それじゃ場が冷えちゃってつまらないですよ。
そこでですね、まず第一に試合の密度を濃くしようと思います」
「密度を濃く?」
「はい。黄派の方と柊派の方とで5名ずつ代表を選んでいただいて、5対5の団体戦の形式を採ります。
で、賭けって程ではないんですが、街の皆さんがより盛り上がるように、色々、付け足そうかなーなんて。
勿論、お金は賭けてません。安心してください」
「……まあ、金が絡まぬのであれば、許容範囲だな」
晴奈の許しを受け、プレアはにっこり笑う。
「ありがとうございます、セイナさん!
それじゃそろそろ、出場する方に連絡してきますねっ」
その場を後にするプレアを見送ったところで、晴奈は再度、明奈に耳打ちする。
「本当に金は、賭けてないんだな?」
「あら、わたしをお疑いに?」
「……いや。そうではない。
だが明奈、お前は存外したたかで、抜け目のない性格をしているからな。金でなくとも、何か賭けているのではないかと思ってな」
「うふふ」
晴奈の問いに対し、明奈は笑ってごまかした。
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