「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・剣宴抄 4
麒麟を巡る話、第173話。
冷静対冷静。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
霙子の息子、暎吉(あきよし)が勝利し、第二回戦は黄派の次鋒、朱明との対決となった。
「よろしくお願いします」
そろってぺこ、と頭を下げ、竹刀を構える。
この対戦は知る人ぞ知る、面白い組み合わせだった。片や雪乃の一番弟子、晴奈の甥であり、片や雪乃の二番弟子、霙子の息子である。
雪乃の一番弟子と二番弟子の、それぞれの孫弟子同士の戦いとなり、それを知る者たちにとっては非常に興味深い一戦でもあった。
「どっちが勝つと思う?」
「そりゃ、格で言ったら朱明だろ」
「いや、あの輿生が惨敗だったし、暎吉が勝つんじゃね?」
「……うっせぇ」
凹む鍋谷をよそに、門下生たちは予想し合う。
「目立たないヤツだけどさ、朱明はふつーに強いし」
「そうよね。ナベ、一度も朱くんに勝ったコトないし」
「ほっとけ」
「……ま、どっちにしても俺たちとしちゃ、朱明を応援したいよな」
「だね」
そうこうしているうちに試合が始まっていたが、両者はまだにらみ合っていた。
「……」「……」
先程とは打って変わり、どちらも慎重に間合いを詰めつつ、攻撃の機会を伺っている。
見守っていた晴奈は、冷静に分析した。
(先程の輿生と暎吉とでは、相性が悪過ぎたな。
血気盛んで思い切りのいい性格は剣士として申し分ない素質だが、朱明や暎吉のような冷静沈着な者が相手では格好の的、餌食も同然だ。
一転、この対決は両者とも似通った性質だ。うかつに飛び込んで返り討ちになるような展開にはなるまい。
となると……、純粋に技量で競り合って倒すか、それとも搦手で油断を誘うか)
じりじりと間合いを詰めていた朱明が、先に動いた。
「はあッ!」
朱明は一気に間合いを詰め、暎吉の面を狙って――いるように見せる。
「……っ」
一方、暎吉もこのフェイントが来ることは予想していたのだろう。詰められた間合いを後ろに跳んで広げ直し、朱明の射程から外れる。
「ありゃ……」
振り上げていた竹刀を正眼に構え直し、朱明はぽつりと残念そうな声を漏らした。
「そう簡単には引っかかりません、僕」
暎吉にそう返され、朱明はクスっと笑う。
「それは残念です」
そう言うと朱明は、ほとんど予備動作を見せず、まるで滑るかのようにもう一度、間合いを詰めた。
(なに、無拍子……!?)
高等技術を披露して見せた朱明に、観戦していた晴奈も相当面食らっていたが、もっと度肝を抜かれたのは、目の前でそれを見せられた暎吉の方だっただろう。
「な……!?」
先程のようなすんなりとした動きではなく、露骨に慌てた様子で横へ引く。
「そこだッ!」
無拍子で歩み寄った朱明が、くん、とほぼ直角に曲がる。
「……!」
すぱん、と音を立て、暎吉の面に朱明の竹刀が当てられた。
「と、……取られましたね」
「何とか上手く行きました」
まだ目を白黒させる暎吉に、朱明はもう一度笑って返した。
その後暎吉が何とか一勝したものの、さらにもう一勝朱明が奪い、暎吉は敗退した。
「やるな、朱明」
晴奈は汗を拭いていた朱明のところを訪ね、彼を労った。
「20そこそこであの動きができるとは、恐れ入ったよ」
「いえ、そんな……。拙い技でしたし、成功した方が奇跡ですよ」
「謙遜するな、朱明。あれが拙いと言うことがあるか。誰にだってできることでは無い。
お前は少しくらい自信を持った方がいい。こうして代表に選ばれたのも、実力あってのことなのだから、それで謙遜されたら、選ばれなかった者に失礼だぞ」
「あ、……はい」
「さ、間も無く次の試合だ。胸を張って行け」
「はい」
小さく頭を下げ、ふたたび壇上に上がる朱明を見送りながら、晴奈は一人、眉をひそめていた。
(昔、当事者から一歩引いて眺めるとあいつから言われたが……、剣士としてあいつを見るに、その態度には不安がある。己に自信を持っていないことが、うっすらと透けて見えるようだ。
今一つ自信を出せないあいつには、どうにも覇気が無い。自発性、積極性にも欠ける。技術は人一倍優れているが――自信の無さがここぞと言う時、その長所を抑え込むような気がしてならない)
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冷静対冷静。
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霙子の息子、暎吉(あきよし)が勝利し、第二回戦は黄派の次鋒、朱明との対決となった。
「よろしくお願いします」
そろってぺこ、と頭を下げ、竹刀を構える。
この対戦は知る人ぞ知る、面白い組み合わせだった。片や雪乃の一番弟子、晴奈の甥であり、片や雪乃の二番弟子、霙子の息子である。
雪乃の一番弟子と二番弟子の、それぞれの孫弟子同士の戦いとなり、それを知る者たちにとっては非常に興味深い一戦でもあった。
「どっちが勝つと思う?」
「そりゃ、格で言ったら朱明だろ」
「いや、あの輿生が惨敗だったし、暎吉が勝つんじゃね?」
「……うっせぇ」
凹む鍋谷をよそに、門下生たちは予想し合う。
「目立たないヤツだけどさ、朱明はふつーに強いし」
「そうよね。ナベ、一度も朱くんに勝ったコトないし」
「ほっとけ」
「……ま、どっちにしても俺たちとしちゃ、朱明を応援したいよな」
「だね」
そうこうしているうちに試合が始まっていたが、両者はまだにらみ合っていた。
「……」「……」
先程とは打って変わり、どちらも慎重に間合いを詰めつつ、攻撃の機会を伺っている。
見守っていた晴奈は、冷静に分析した。
(先程の輿生と暎吉とでは、相性が悪過ぎたな。
血気盛んで思い切りのいい性格は剣士として申し分ない素質だが、朱明や暎吉のような冷静沈着な者が相手では格好の的、餌食も同然だ。
一転、この対決は両者とも似通った性質だ。うかつに飛び込んで返り討ちになるような展開にはなるまい。
となると……、純粋に技量で競り合って倒すか、それとも搦手で油断を誘うか)
じりじりと間合いを詰めていた朱明が、先に動いた。
「はあッ!」
朱明は一気に間合いを詰め、暎吉の面を狙って――いるように見せる。
「……っ」
一方、暎吉もこのフェイントが来ることは予想していたのだろう。詰められた間合いを後ろに跳んで広げ直し、朱明の射程から外れる。
「ありゃ……」
振り上げていた竹刀を正眼に構え直し、朱明はぽつりと残念そうな声を漏らした。
「そう簡単には引っかかりません、僕」
暎吉にそう返され、朱明はクスっと笑う。
「それは残念です」
そう言うと朱明は、ほとんど予備動作を見せず、まるで滑るかのようにもう一度、間合いを詰めた。
(なに、無拍子……!?)
高等技術を披露して見せた朱明に、観戦していた晴奈も相当面食らっていたが、もっと度肝を抜かれたのは、目の前でそれを見せられた暎吉の方だっただろう。
「な……!?」
先程のようなすんなりとした動きではなく、露骨に慌てた様子で横へ引く。
「そこだッ!」
無拍子で歩み寄った朱明が、くん、とほぼ直角に曲がる。
「……!」
すぱん、と音を立て、暎吉の面に朱明の竹刀が当てられた。
「と、……取られましたね」
「何とか上手く行きました」
まだ目を白黒させる暎吉に、朱明はもう一度笑って返した。
その後暎吉が何とか一勝したものの、さらにもう一勝朱明が奪い、暎吉は敗退した。
「やるな、朱明」
晴奈は汗を拭いていた朱明のところを訪ね、彼を労った。
「20そこそこであの動きができるとは、恐れ入ったよ」
「いえ、そんな……。拙い技でしたし、成功した方が奇跡ですよ」
「謙遜するな、朱明。あれが拙いと言うことがあるか。誰にだってできることでは無い。
お前は少しくらい自信を持った方がいい。こうして代表に選ばれたのも、実力あってのことなのだから、それで謙遜されたら、選ばれなかった者に失礼だぞ」
「あ、……はい」
「さ、間も無く次の試合だ。胸を張って行け」
「はい」
小さく頭を下げ、ふたたび壇上に上がる朱明を見送りながら、晴奈は一人、眉をひそめていた。
(昔、当事者から一歩引いて眺めるとあいつから言われたが……、剣士としてあいつを見るに、その態度には不安がある。己に自信を持っていないことが、うっすらと透けて見えるようだ。
今一つ自信を出せないあいつには、どうにも覇気が無い。自発性、積極性にも欠ける。技術は人一倍優れているが――自信の無さがここぞと言う時、その長所を抑え込むような気がしてならない)
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
ところで晴奈さんと雪乃さんによる模範の演武はないんですか?
マジに斬り合わないまでも、ふたりの気合いというかそういうものは見てみたいであります。是非求む。
講談の寛永御前試合でも「塚原卜伝対伊藤一刀斎」みたいな夢のカードもあったことですし。
お願いするであります。
マジに斬り合わないまでも、ふたりの気合いというかそういうものは見てみたいであります。是非求む。
講談の寛永御前試合でも「塚原卜伝対伊藤一刀斎」みたいな夢のカードもあったことですし。
お願いするであります。
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また後日、何らかの形で実現させたいと思います。