黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第4部

    白猫夢・剣宴抄 5

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    麒麟を巡る話、第174話。
    朱明、策を弄す。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     両陣とも先鋒が敗れ、三回戦は次鋒対次鋒、朱明と晶奈との戦いとなった。
    「よろしくお願いします」
     朱明と晶奈が、互いに礼をする。
     柔らかい印象を与える朱明に比べ、晶奈は凛とした空気を漂わせていた。
    (小雪や良蔵と比べて、晶奈が刀を振るうところはあまり目にしてはいないが……、一見したところ、16歳にしてはなかなか鍛錬を積んでいると見える。身のこなし、そして構えには堂に入った感がある。
     小雪も10年前は、あのように一片の曇りも迷いも無い、純粋に光るものを見せていたのにな)
     試合が始まり、二回戦と同様に、両者ともじりじりと間合いを詰めていく。
    「……」
     晶奈の方が若干、詰め方が強い。竹刀がぎりぎり交わるか交わらないかのところで、晶奈が仕掛けた。
    「りゃあッ!」
     晶奈は勢いよく竹刀を振り上げ、朱明の面を狙う。それをかわし、朱明は後ろに退く。
     しかしそれをさらに追い込み、晶奈が胴を払った。
    「えやああッ!」「……っ」
     ばし、と若干鈍めな音ではあったが、晶奈の竹刀はしっかりと朱明を捉えていた。
    「一本!」
    (ふむ……。ここは強気の攻めが功を奏したか。
     朱明の悪いところが足を引っ張った形だな。初手で『見』に回ったのが敗因だろう。
     ……うん? と考えると……?)
     両者とも開始位置に戻り、もう一度構える。
    「始め!」
     先程と同じく、晶奈の方から間合いを詰めていく。
    「どうした、朱明! 攻めて来い!」
     優勢と感じたらしく、晶奈が挑発してくる。
    「……」
     朱明は何も返さず、じっと構えている。
    (二回戦の時は、先に輿生と暎吉の戦いを見られたからな。ある程度、対策は取れていたのだろう。
     しかし晶奈の戦い方を見るのは、これが初めて。故に一本捨てる形で、どう動くのかを見定めていたのかも知れん)
     挑発に動じない朱明に、晶奈は痺れを切らしたらしい。
    「せやあッ!」
     一本目と同様、晶奈がぐいと踏み込み、面を狙いに行く。朱明はそれを、これもまた同様に退いてかわす。
     朱明のこの反応で、どうやら晶奈は朱明を侮ったらしい。先程と全く同じ形で、胴を狙いに来た。
    「はあッ!」「やッ」
     朱明は右に回り、晶奈の竹刀をかわす。
    「……!」
     晶奈が振り返るその直前に、朱明はすぱん、と彼女の籠手を弾いた。
    「一本!」
    (……巧者と言うべきか。相手の癖を即座に見抜き、攻めに組み込むその感性は素晴らしい。
     しかし……、私がそう言うことをしないからだろうか、何と言うか、小狡い気もしないではないな)
     朱明はこの試合の流れをつかんだらしく、その後もう一勝を挙げ、柊側の二連敗となった。



     交流戦は四回戦に移り、次鋒・朱明と中堅・関戸とが対峙した。
    「さーて、と」
     開始前、面を被る直前――関戸は朱明にこう声をかけた。
    「やるねぇ、お前さん」
    「え? あ、はい」
    「ま、よろしく」
     それだけ返して関戸は面を被る。
    試合が始まり、朱明は先程と同様に竹刀を構え、じりじりと間合いを詰める。関戸の方も同様に間合いを詰めていたが、やがてぐい、と一挙に間合いを詰め、攻撃を仕掛ける。
    「おりゃっ!」
     朱明は、今度は竹刀で相手の初太刀を受ける。が、受けられたところで関戸は退き、同時に胴を狙う。
     これも朱明はわざと打たせたらしく、ぼこ、と鈍い音が響く。有効打とはならず、審判から勝負ありとの声はかからなかった。
    「……」
     両者とも退き、互いに構え直す。
    「そらッ!」
     もう一度関戸が仕掛ける。それを朱明は受け、それを受けてもう二度、三度と関戸が打ち込む。
     これを何度か繰り返したところで、ようやく関戸が有効打を当て、長い一本目が終わった。
    「関戸先生が苦戦してる……?」
    「あんなに強かったっけ、朱明くんって」
    「すげーなぁ、先生相手に」
     門下生たちは朱明の健闘をほめていたが、晴奈は苦々しく思っていた。
    (……なんだろうな。やはり剣士として、いい姿勢では無い気がする。
     無暗やたらに飛び込むのが良いこととは言わないが、それでも目上、格上の人間を相手にし、罠に嵌めようとする朱明の姿勢・態度は、礼儀を欠いているように感じられる)
     二本目に移る直前、関戸がまた声をかけてきた。
    「ありがとよ、朱明くん」
    「いえ」
    「それじゃあこのまま、二本目も行かせてもらうか」
     二本目が始まり、これも関戸が先に仕掛けてきた。
    「だあッ!」
     ところが――朱明がそれを受けようと動いた瞬間、関戸は掛け声を出しただけでピタ、と止まる。
    「え」
     虚を突かれ、朱明は竹刀を上げた状態で止まってしまった。
     その一瞬の隙を、関戸が突く。
    「そらよッ」
     上がったままの右籠手を打ち、続いて胴を打って抜ける。
    「二本!」
     一瞬で二太刀食らい、朱明はまだ竹刀を上に構えたまま、茫然としている。
    「はっは、しつこいくらい面を狙ったからな。今のも面狙いだと思っただろ?
     あんまり人をはかるもんじゃねーぜ、朱明くん」
    「……う、……はい」
     背中から声をかけられ、朱明はようやく構えを解いた。
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