「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・剣宴抄 8
麒麟を巡る話、第177話。
宴が終わって。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
柊派も副将が敗れ、いよいよ大将戦、範士同士の大一番となった。
「よろしくお願いします」
どちらも大将に選ばれた者同士とは言え、霙子の方が年齢も経験量も、子弟の筋で言っても格上であり、黄派の不利は明らかだった。
「やあッ!」
清滝は先程の防戦姿勢とは逆に、果敢に間合いへ踏み込み、霙子に仕掛けていく。一方、霙子はそれをきっちりと受け、盤石の防御を見せる。
「……」
それでも連綿と続くかのような清滝の長い攻めに、次第に霙子が押され始めた。
「先生、頑張れー!」
「勝って、勝ってー!」
それを心配してか、柊派から不安げな声援が聞こえ始めた。
「……っと」
と、霙子が清滝の面狙いを竹刀の鍔元でがっちりと受けて、鍔迫り合いに持ち込む。
「む……」
これを見た晴奈は――今回は敵方とは言え、妹弟子のことであるため――不安になった。
「力量だけで見れば、あれは霙子に不利な形になる。鍛えているとは言え、女の腕力では同様に鍛えた男の力を押し返すのに不足だ」
「え、伯母さんがそんなこと言うんですか?」
傍らの朱明が、意外そうな声を出す。
「私だから、だ。元々筋肉のあまり付かぬ猫獣人であるし、霙子以上に私は筋力に欠ける。こう言う経験は割と多い方だ。
……とは言え、筋力で勝る相手に勝つ方法は少なくない。恐らく霙子もそれを狙うだろう」
晴奈の言う通り、鍔迫り合いに持ち込んだことで清滝に圧される形となり、霙子の体勢がみるみる反り返る。
ところが――。
「……りゃあッ!」
霙子は突然、ぐりん、と身をひねり、清滝の左に踏み込んだ。目一杯に彼女を圧していた清滝は当然、前のめりになって大きく体勢を崩す。
「う……っ」「たあッ!」
ぐるりと転回し、霙子は清滝の面、そして左籠手を打って抜けた。
「に、二本! 勝負あり!」
一度に二回も有効打を決められ、清滝の敗北が決定した。
「……参りました」
「うふふ……」
膝を着いた清滝を助け起こしながら、霙子はにこっと笑って見せた。
大将同士の対戦にまでもつれにもつれ込んだ交流戦は、柊派の勝利で幕を閉じた。
この交流戦により、柊派と黄派はより一層親しくなった。
「やあ、朱明。今日も稽古、付き合ってもらうからな」
「あ、はい」
交流戦以来、晶奈は朱明を己の稽古相手に、よく誘うようになった。
彼女曰く「わたしをあんなにあっさり負かしたのは、同輩では朱明だけだ。学ぶものがある」とのことだったが、傍目には別の、好意的な雰囲気も見て取れていた。
「ちょ、ちょっと待てよぉ! たまにはさ、そのさ、俺とか……」
晶奈のその様子を見て、鍋谷が慌てて口を挟んでくるが――。
「君はいい。学べそうな点が無い。もっと強くならないとわたしも相手し辛いし」
「うぐ……」
晶奈に素っ気なくあしらわれ、鍋谷はその場に崩れる。
「ま、まあまあ、輿生くん。……僕が相手しますよ」
暎吉がそう申し出るが、鍋谷は猫耳をぺちゃりと伏せて首を横に振る。
「男とやってもむさ苦しいだけなんだよぉ……。俺は晶ちゃんとやりてぇ」
この様子に周りの門下生は呆れ返り、クスクス笑っていた。
「……アホね」
「うん、あいつアホだ」
一方、この様子を眺めていた晴奈はまた、小声でブチブチと文句を垂れていた。
(確かに双方の交流に一役買ったのは認めるが……、結局賭けていたではないか。いや、確かに金、『現金』は賭けていない。それは明奈の言う通りではあったさ。
だが金の代わりに、柊学園に入学ないし勤務を予定している人間に対し、入学金の一部免除や給与増額などの権利を賭けていたと言うではないか。それでは結局金を賭けたのと一緒だ。
我が妹ながら……、此度ばかりはやけに、癇に障ることばかりしてくれるな)
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宴が終わって。
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8.
柊派も副将が敗れ、いよいよ大将戦、範士同士の大一番となった。
「よろしくお願いします」
どちらも大将に選ばれた者同士とは言え、霙子の方が年齢も経験量も、子弟の筋で言っても格上であり、黄派の不利は明らかだった。
「やあッ!」
清滝は先程の防戦姿勢とは逆に、果敢に間合いへ踏み込み、霙子に仕掛けていく。一方、霙子はそれをきっちりと受け、盤石の防御を見せる。
「……」
それでも連綿と続くかのような清滝の長い攻めに、次第に霙子が押され始めた。
「先生、頑張れー!」
「勝って、勝ってー!」
それを心配してか、柊派から不安げな声援が聞こえ始めた。
「……っと」
と、霙子が清滝の面狙いを竹刀の鍔元でがっちりと受けて、鍔迫り合いに持ち込む。
「む……」
これを見た晴奈は――今回は敵方とは言え、妹弟子のことであるため――不安になった。
「力量だけで見れば、あれは霙子に不利な形になる。鍛えているとは言え、女の腕力では同様に鍛えた男の力を押し返すのに不足だ」
「え、伯母さんがそんなこと言うんですか?」
傍らの朱明が、意外そうな声を出す。
「私だから、だ。元々筋肉のあまり付かぬ猫獣人であるし、霙子以上に私は筋力に欠ける。こう言う経験は割と多い方だ。
……とは言え、筋力で勝る相手に勝つ方法は少なくない。恐らく霙子もそれを狙うだろう」
晴奈の言う通り、鍔迫り合いに持ち込んだことで清滝に圧される形となり、霙子の体勢がみるみる反り返る。
ところが――。
「……りゃあッ!」
霙子は突然、ぐりん、と身をひねり、清滝の左に踏み込んだ。目一杯に彼女を圧していた清滝は当然、前のめりになって大きく体勢を崩す。
「う……っ」「たあッ!」
ぐるりと転回し、霙子は清滝の面、そして左籠手を打って抜けた。
「に、二本! 勝負あり!」
一度に二回も有効打を決められ、清滝の敗北が決定した。
「……参りました」
「うふふ……」
膝を着いた清滝を助け起こしながら、霙子はにこっと笑って見せた。
大将同士の対戦にまでもつれにもつれ込んだ交流戦は、柊派の勝利で幕を閉じた。
この交流戦により、柊派と黄派はより一層親しくなった。
「やあ、朱明。今日も稽古、付き合ってもらうからな」
「あ、はい」
交流戦以来、晶奈は朱明を己の稽古相手に、よく誘うようになった。
彼女曰く「わたしをあんなにあっさり負かしたのは、同輩では朱明だけだ。学ぶものがある」とのことだったが、傍目には別の、好意的な雰囲気も見て取れていた。
「ちょ、ちょっと待てよぉ! たまにはさ、そのさ、俺とか……」
晶奈のその様子を見て、鍋谷が慌てて口を挟んでくるが――。
「君はいい。学べそうな点が無い。もっと強くならないとわたしも相手し辛いし」
「うぐ……」
晶奈に素っ気なくあしらわれ、鍋谷はその場に崩れる。
「ま、まあまあ、輿生くん。……僕が相手しますよ」
暎吉がそう申し出るが、鍋谷は猫耳をぺちゃりと伏せて首を横に振る。
「男とやってもむさ苦しいだけなんだよぉ……。俺は晶ちゃんとやりてぇ」
この様子に周りの門下生は呆れ返り、クスクス笑っていた。
「……アホね」
「うん、あいつアホだ」
一方、この様子を眺めていた晴奈はまた、小声でブチブチと文句を垂れていた。
(確かに双方の交流に一役買ったのは認めるが……、結局賭けていたではないか。いや、確かに金、『現金』は賭けていない。それは明奈の言う通りではあったさ。
だが金の代わりに、柊学園に入学ないし勤務を予定している人間に対し、入学金の一部免除や給与増額などの権利を賭けていたと言うではないか。それでは結局金を賭けたのと一緒だ。
我が妹ながら……、此度ばかりはやけに、癇に障ることばかりしてくれるな)
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