「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第4部
白猫夢・暗計抄 1
麒麟を巡る話、第179話。
仁義と礼節なき乱暴者。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
柊派の離反以降、紅蓮塞における「本家」焔流――小雪派は、混乱と暴走の一途をたどっていた。
まず、紅蓮塞の台所事情が既に火急の状況であったことが、冷静になる機会を失わせた。
柊派離反以前の資金源の7割に上る、軍や商家からの謝礼や献金、援助金を差し止められた上に、軍をはじめとする武力組織からの強制的な解雇・排斥を受けた剣士たちが集まり、収入の無い浪人と化したために、離反から一ヶ月もしないうちに、早くも紅蓮塞の有する資産は半分近くまで削られていた。
「これでは黄州に攻め入るどころの話ではございません、家元」
「じゃあ、どうするのよ?」
財政状況を報告してきた御経に対し、小雪は苛立った声で尋ねる。
「その……、現状といたしましては資金の確保が、何より優先されるべきではないかと」
「だから?」
「軍からの献金は恐らく、送られてくることは最早無いでしょう。近年の銃武装計画推進がございますし、剣士を追い出したがっていた傾向もありましたから。
とは言え商家らの方にはまだ、話を付ける余地はございます。これまで献金額の筆頭でございました黄家の方に交渉を行い、資金を融通していただくのがよろしいのではないかと……」「よろしいのではないかと、ですって?」
御経の言葉を遮り、小雪はまくし立てる。
「黄家と交渉!? 我が本家焔流を差し置いて売名行為にひた走ったあの駄猫に、このわたしが頭を下げろと言うの!? はっ、御免だわ! 誰があんな奴に!」
「し、しかし黄家が金を出さねば、他の商家も出そうとはしないでしょう。となればここはうわべだけでも……」「御経おおッ」
小雪は御経の胸倉をつかみ、その顔に拳骨を叩き付けた。
「ぶげ……っ」
「べちゃくちゃべちゃくちゃと、情けないことばかりさえずってんじゃないわよッ!
いい? わたしが家元なのよ? わたしが、上なの! あいつは、その下! なのにわたしがあいつに頭を下げて、金をくれと頼めって言うの? ふざけてんじゃないわよ!」
小雪は御経を蹴り倒し、他の者をにらむ。
「他には? もっとましな案は無いの? とりあえず当座の資金を手に入れられる、手っ取り早い方法は無いの!?」
「手っ取り早いかどうかは、断言しかねますが」
そう前置きし、深見が手を挙げた。
「紅州の各都市は観光地として、それなりに稼いでいます。これまでにも多少ながら、献金はありました。
現在は先の件で他と同様、資金を止めてきていますが、しかしこちらは緊急事態であるわけで」
「で?」
「武力組織の最たるものである軍隊は、何かしら不足があれば支配下の地域において徴発を行い、それを補います。これは非常時においては至極当然に行われている措置です。
我々も非常時。ならばそれに倣えばよろしいのではないかと」
「つまり、……襲えと言うのね? その各都市を」
「そうです」
うなずいて見せた深見に対し、小雪は顔をしかめた。
「いくらなんでも、それはできないわよ」
「何故です?」
「だって、それをやったら、いよいよ周囲はわたしたちを、ただの破落戸として……」「ちょっと借りるだけじゃないですか」
弱気になる小雪を奮い立たせるように、月乃が口を挟んできた。
「黄海を落とし、黄家の財産を没収してしまえば、そんな借金はいくらでも返せるはずです。確実に返す当てがあるんですし、多少の無理くらい聞いてもらっても、全然問題ないじゃないですか」
「……」
「それ以外に家元が誇りを失わずに済む道はありません。頭、下げたくないんでしょう?」
「……ええ」
小雪は結局、側近に誘導される形で、紅州各地の都市を襲撃することを承諾した。
この荒唐無稽かつ粗暴な企みは、結果的にはあっさりと成功した。
元より焔流の本拠地であるため、州軍そのものや央南連合軍の駐屯地などが無く、紅州における軍事勢力は紅蓮塞ただ一つだけだったためである。
抗う術を持たない紅州各都市は、瞬く間に陥落。当初の目論見通り、紅蓮塞は大量の剣士たちを悠々と養えるだけの資金源を手に入れることができた。
そして今後も徴収を継続させるため、陥落させた各都市には焔流剣士たちが詰め、統制・統治する形となり――事実上、紅州は紅蓮塞に支配されることとなった。
@au_ringさんをフォロー
仁義と礼節なき乱暴者。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
柊派の離反以降、紅蓮塞における「本家」焔流――小雪派は、混乱と暴走の一途をたどっていた。
まず、紅蓮塞の台所事情が既に火急の状況であったことが、冷静になる機会を失わせた。
柊派離反以前の資金源の7割に上る、軍や商家からの謝礼や献金、援助金を差し止められた上に、軍をはじめとする武力組織からの強制的な解雇・排斥を受けた剣士たちが集まり、収入の無い浪人と化したために、離反から一ヶ月もしないうちに、早くも紅蓮塞の有する資産は半分近くまで削られていた。
「これでは黄州に攻め入るどころの話ではございません、家元」
「じゃあ、どうするのよ?」
財政状況を報告してきた御経に対し、小雪は苛立った声で尋ねる。
「その……、現状といたしましては資金の確保が、何より優先されるべきではないかと」
「だから?」
「軍からの献金は恐らく、送られてくることは最早無いでしょう。近年の銃武装計画推進がございますし、剣士を追い出したがっていた傾向もありましたから。
とは言え商家らの方にはまだ、話を付ける余地はございます。これまで献金額の筆頭でございました黄家の方に交渉を行い、資金を融通していただくのがよろしいのではないかと……」「よろしいのではないかと、ですって?」
御経の言葉を遮り、小雪はまくし立てる。
「黄家と交渉!? 我が本家焔流を差し置いて売名行為にひた走ったあの駄猫に、このわたしが頭を下げろと言うの!? はっ、御免だわ! 誰があんな奴に!」
「し、しかし黄家が金を出さねば、他の商家も出そうとはしないでしょう。となればここはうわべだけでも……」「御経おおッ」
小雪は御経の胸倉をつかみ、その顔に拳骨を叩き付けた。
「ぶげ……っ」
「べちゃくちゃべちゃくちゃと、情けないことばかりさえずってんじゃないわよッ!
いい? わたしが家元なのよ? わたしが、上なの! あいつは、その下! なのにわたしがあいつに頭を下げて、金をくれと頼めって言うの? ふざけてんじゃないわよ!」
小雪は御経を蹴り倒し、他の者をにらむ。
「他には? もっとましな案は無いの? とりあえず当座の資金を手に入れられる、手っ取り早い方法は無いの!?」
「手っ取り早いかどうかは、断言しかねますが」
そう前置きし、深見が手を挙げた。
「紅州の各都市は観光地として、それなりに稼いでいます。これまでにも多少ながら、献金はありました。
現在は先の件で他と同様、資金を止めてきていますが、しかしこちらは緊急事態であるわけで」
「で?」
「武力組織の最たるものである軍隊は、何かしら不足があれば支配下の地域において徴発を行い、それを補います。これは非常時においては至極当然に行われている措置です。
我々も非常時。ならばそれに倣えばよろしいのではないかと」
「つまり、……襲えと言うのね? その各都市を」
「そうです」
うなずいて見せた深見に対し、小雪は顔をしかめた。
「いくらなんでも、それはできないわよ」
「何故です?」
「だって、それをやったら、いよいよ周囲はわたしたちを、ただの破落戸として……」「ちょっと借りるだけじゃないですか」
弱気になる小雪を奮い立たせるように、月乃が口を挟んできた。
「黄海を落とし、黄家の財産を没収してしまえば、そんな借金はいくらでも返せるはずです。確実に返す当てがあるんですし、多少の無理くらい聞いてもらっても、全然問題ないじゃないですか」
「……」
「それ以外に家元が誇りを失わずに済む道はありません。頭、下げたくないんでしょう?」
「……ええ」
小雪は結局、側近に誘導される形で、紅州各地の都市を襲撃することを承諾した。
この荒唐無稽かつ粗暴な企みは、結果的にはあっさりと成功した。
元より焔流の本拠地であるため、州軍そのものや央南連合軍の駐屯地などが無く、紅州における軍事勢力は紅蓮塞ただ一つだけだったためである。
抗う術を持たない紅州各都市は、瞬く間に陥落。当初の目論見通り、紅蓮塞は大量の剣士たちを悠々と養えるだけの資金源を手に入れることができた。
そして今後も徴収を継続させるため、陥落させた各都市には焔流剣士たちが詰め、統制・統治する形となり――事実上、紅州は紅蓮塞に支配されることとなった。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
いつもありがとうございます
こんにちは。 いつも応援ポチさせていただいております。
4日から 履歴がついていないかも知れません?
こんにちは。 いつも応援ポチさせていただいております。
4日から 履歴がついていないかも知れません?
- #1535 tomatoの夢
- URL
- 2013.02/07 21:33
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
先程、履歴があることを確認しました。
またお伺いしますね(*´∀`)b